【漫才】女子大生キョンシーと学校の怪談
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。本名は王美竜。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「知ってる、蒲生さん?この堺県立大学に纏わる怖い話。どうやら中百舌鳥キャンパス内に女子学生の幽霊が現れるんだって。」
ツッコミ「成る程、それは俗に言う『学校の怪談』だね。」
ボケ「私さ、階段はあんまり好きじゃないんだよね。死後硬直していると上り下りが厄介なの。だから関節が緩むまではエレベーターやエスカレーターが頼みの綱なんだよ。」
ツッコミ「そっちの階段じゃないよ!私が言っているのは、怖い話の怪談。夜の体育館で自分の頭を使って練習するバスケ部員の幽霊とか、夕暮れ時のトイレに入ると『赤い紙が欲しいか?青い紙が欲しいか?』という声が聞こえてくるとか、色々あるじゃない。」
ボケ「夜の体育館だの夕暮れ時のトイレだの、夜にばっかり変な事が起きるね。怪異ってのは夜型の生活スタイルが好きなのかな?」
ツッコミ「他人事みたいに言わないの!貴女もキョンシーなんだから怪異の仲間みたいなものじゃない。」
ボケ「でも、黙って聞いていたら妙な話だよね。バスケ部員って事は、自分の頭をバスケットボールの代わりにして練習しているんでしょ?ドリブルとか、ダンクシュートとか。」
ツッコミ「いやいや、そんな両手を突き出した姿勢でやらなくて良いから!」
ボケ「あんな事をしたら頭が痛くて仕方ないよね。ドリブルの度に頭が床に叩きつけられちゃうんでしょ?私だったら、とてもじゃないけど真似出来ないよ。」
ツッコミ「仕方ないじゃない、幽霊なんだから!」
ボケ「パスとかシュートとかのタイミングで投げられたら、視界が凄い事になっちゃうんじゃない?」
ツッコミ「仕方ないじゃない、幽霊なんだから!」
ボケ「そもそも、脳味噌とか目玉みたいな重要な臓器の集中している頭をボールにしたら駄目じゃない!頭はキチンと使わなきゃ。」
ツッコミ「仕方ないじゃない、幽霊なんだから!」
ボケ「蒲生さんったら、さっきから何でもかんでも『仕方ないじゃない、幽霊なんだから!』で片付けようとしてない?このままだとペーパーカンパニーや籍だけ置いている部員にも、『仕方ないじゃない、幽霊なんだから!』って言っちゃいそうだよ。」
ツッコミ「それは幽霊会社と幽霊部員じゃないの!そもそもキョンシーの貴女が幽霊に噛み付くなんて、色んな意味で間違ってるよ。」
ボケ「やだなぁ、蒲生さんったら。私達キョンシーが幽霊なんかに噛み付く訳ないじゃない。幽霊は実体がないから、噛み付いても吸血出来ないもん。」
ツッコミ「このタイミングでキョンシーの本能を出さないでよ!」
ボケ「そもそも私に言わせれば、その自分の頭でドリブルするバスケ部員は幽霊じゃないよ。」
ツッコミ「えっ、幽霊じゃない?じゃあ、あれは何なの?」
ボケ「そんなの決まってるじゃない。刑天だよ。」
ツッコミ「刑天?それって何者なの?」
ボケ「やだなぁ、蒲生さんったら…刑天も知らないの?『山海経』にも語り伝えられている中国神話の怪物だよ。」
ツッコミ「そもそも私には『山海経』もピンと来ないって。神話や伝説として語り継がれた妖怪や神々を記述した古代中国の奇書って理解が精々だよ。」
ボケ「刑天は凄いよ。三皇五帝の一員の黄帝に首を切り落とされても、諦めずに戦いを継続したガッツがあるんだもの。たとえリストラで首を切られたって、刑天みたいに頑張れば良いんだから。刑天こそ全国のサラリーマンの希望の星だよ!」
ツッコミ「そんなポジティブな存在じゃないでしょ!」
ボケ「そんな刑天のイカしている所は、乳首と臍がそれぞれ目玉と口になっている所だね!宴会芸でお馴染みの腹踊りをやれば、誰もが明日の刑天だよ!」
ツッコミ「なりたくない!そんなのなりたくないって!」
ボケ「とにかく、刑天も知らないようじゃ私達の界隈じゃモグリだから。」
ツッコミ「そんな一般常識みたいに言わないで!台湾という中華圏で生まれ育った貴女ならともかく、私は日本の女子大生なのよ。いきなり『山海経』の話を振られても対応出来ないよ。」
ボケ「蒲生さんも一回読んでみたら良いよ、『山海経』。きっと人生観が変わるから。」
ツッコミ「いやいや、そんな自己啓発本みたいなノリで読む物じゃないでしょ!」
ボケ「ごろ寝しながらパラパラとページをめくるのも悪くはないよ。」
ツッコミ「漫画雑誌みたいな読み方も絶対違う!そもそも『人生観が変わる』って言うけど、貴女は一回死んで人生にピリオド打っちゃったじゃない!」
ボケ「今はカリカリしている蒲生さんだけど、読み終わった時には物事の考え方が三六〇度変わっているだろうね。」
ツッコミ「一周して最初の位置に戻っちゃったよ!」
ボケ「蒲生さんも仕方ないなぁ。それじゃあ『山海経』のファン活は次の機会にして…もう一つの青い狼と白い牝鹿が云々の話を聞かせてよ。」
ツッコミ「それを言うなら『赤い紙と青い紙』だね。青い狼と白い牝鹿だとチンギス・ハーンとモンゴル族の話になっちゃうから。」
ボケ「モンゴル名物のブラッドソーセージは私も大好きだよ。」
ツッコミ「この漫才が終わったら好きなだけ食べて良いから。この『赤い紙と青い紙』は夕暮れ時にトイレへ入ると現れるんだ。それで何処からともなく、『赤い紙が欲しいか?青い紙が欲しいか?』としつこく尋ねてくるの。」
ボケ「ヒエエッ!人豚にされた戚夫人の祟りだ!」
ツッコミ「劉邦の側室の戚夫人がそんな事を言う訳ないでしょ!確かに戚夫人は呂雉に手足を切られてトイレに投げ込まれたけど!」
ボケ「そうだよね。日本の学校のトイレに戚夫人が化けて出てくるなんて、おかしいと思ったんだ。」
ツッコミ「流石の戚夫人もキョンシーの貴女を祟ろうとはしないわよ…それで延々と尋ねてくるし、逃げようとしてもドアは何故だかびくともしないの。事態を進展させるには質問に答えるしかない訳だけど、貴女なら何色の紙を選ぶかしら?」
ボケ「私は黄色い紙が良いな。額の御札のスペアに出来そうだし。」
ツッコミ「そんな所で間に合わせようとしないの!だけど偶然とは恐ろしい物だね。おめでとう、貴女は無事に『赤い紙と青い紙』の魔の手から免れました!」
ボケ「やった!これで私も命拾いしたよ!」
ツッコミ「いや、キョンシーになった時点で命は失くしちゃっているでしょ。」
ボケ「じゃあさ、もしも私が『赤い紙』と答えたらどうなるの?」
ツッコミ「その時には天井から血の雨が降ってくる!」
ボケ「やった!合法的に生き血を飲み放題!蒲生さん、今からでも答えを『赤い紙』に切り替えられないかな?」
ツッコミ「そんな所で吸血嗜好を満たそうとしないの!」
ボケ「じゃあ、『青い紙』って答えたら?」
ツッコミ「全身の血を抜かれて真っ青になって死んじゃうんだ!」
ボケ「もう全身真っ青で死んじゃっている私はどうなるの?」
ツッコミ「えっ!?そっか、キョンシーには実質的にプラマイゼロなんだ…」
ボケ「だけど全身の血を抜かれたらお腹が空いちゃうなぁ…リトライして『赤い紙』と答えても良い?そうしたら満腹で帰る事が出来るよ。もしも血が余ったなら、テイクアウトも出来るかな?」
ツッコミ「こらこら、『赤い紙と青い紙』をファーストフード店みたいな感覚で使わないの!」
ボケ「元町の御隠居様や島之内の姐さんにもお裾分けしようかな…ねえ、そのトイレは何処にあるの?」
ツッコミ「私に聞かないでよ!額の御札でメモまで取ろうとして、全く仕様がないなぁ…」
ボケ「う〜ん、どうしてこんな話になっちゃったんだろう?」
ツッコミ「貴女が中百舌鳥キャンパスに現れる女子学生の幽霊なんかしたから、こんな事になったんじゃない。」
ボケ「あっ、そうだった!」
ツッコミ「その女子学生の幽霊って、どんな人なの?目撃例とかないのかな?」
ボケ「ネットで県立大のコミュニティを探してみたら、何か分かるかもね。待ってて、今からスマホで調べてみるから…」
ツッコミ「ちょっと待って!貴女ったら暖帽の中にスマホを収納してるの?」
ボケ「ここなら位置的に丁度いいんだよ。えっと、どれどれ…女子学生の幽霊は青白い顔色なんだって。」
ツッコミ「ああ、いかにも幽霊って感じだね。」
ボケ「あと、関節が固まったかのような不自然な動き方をするみたいだよ。」
ツッコミ「ん?」
ボケ「ブラッドソーセージのような血液を用いた料理が大好きで、桃の木が大嫌い。それから…」
ツッコミ「ちょっと待ちなさい!それって全部、キョンシーの特徴じゃないの!女子学生の幽霊の正体は、他でもない貴女だったのよ!」
ボケ「なぁんだ、私だったんだ。昔の人は『幽霊の 正体見たり 枯れ尾花』と言ったけど、正体が分かれば何て事はないね。『キョンシー下暗し』とはこの事だよ。」
ツッコミ「それを言うなら『灯台下暗し』でしょ!」
二人「どうもありがとう御座いました!」