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男女逆転 「ハッピーエンドがないギャルゲーの世界に転生してしまったので」


【 エイプリルフール 男女逆転注意 】


2023年エイプリルフールに短編として上げていた、「ハッピーエンドがない乙女ゲームの世界に転生してしまったので」の序盤を縮めて男女逆転にしただけの謎小説です。

小ネタ倉庫創設に伴い、短編版を消してこちらへ移動しました。

短編版にブクマしてくださった方、評価・リアクションしてくださった方、ありがとうございました。


※改めて書きますが「男女逆転」です。シャロンが男子でアベルが女子ですので、ご留意くださいませ。





 僕の名前はシャロン。


 このツイーディア王国に五つある公爵家のうちの一つ、アーチャー家の長男だ。

 来年には王立学園への入学を控えている、現在十二歳……には、先日なったばかり。


 父譲りの薄紫色の髪は肩につかないよう短く整え、今はシャツにズボンという軽装でひたすら――剣を振っている。

 屋敷の庭で、ひたすらの素振りだ。


「気合が入っていますね。」

「えっ!?も、もちろんだ!僕はこの家を継ぐんだからっ……!」

 壁際に控えるオレンジ色の髪の男はメリル。

 小さい頃から仕えてくれている僕の専属使用人で、気の置けない仲である。でもそんなメリルにも言えない秘密が僕にはあった。


 ここが、ギャルゲーの世界だと知っている事だ。


 前世、と言っていいのだろうか。

 僕にはまったく別人として全く違う世界で生きた記憶があり、そこで遊んでいたのがまさにシャロン・アーチャーも登場する恋愛シュミレーションゲームだった。


 主人公である平民の男が貴い生まれのご令嬢達と出会い、身分差を越えて恋に落ちるという学園もの。

 僕?もちろん攻略対象じゃない、《親友キャラ》だ。


 そして重要なポイントとして、そのゲームは「ハッピーエンドがない」事で有名だった。


「ふふ……わかりますよシャロン様」

「な、何がだ?」

 にんまりと笑みを浮かべたメリルに冷や汗をかき、つい手を止めてオドオドと視線を彷徨わせる。いや、さすがのメリルも僕が前世の記憶に目覚めたなんてわからないはずだ。

 そうだよな?……え?そうだよな!?


「王女殿下にお姫様だっこされたのが恥ずかしいのでしょう!」

「その話はやめてくれないか!!」

「あははは、やっぱり!」

「違っ――くない、そうだ、それが恥ずかしいから無心になろうとしてるんだ!」

 顔が真っ赤になっているだろうけど、もういい。

 そういう事で良いから放っておいてくれ、と手をブンブン振る。くそ、にやにやしないでくれ…!


 十二歳の誕生日、屋敷では祝いのパーティーが開かれた。

 僕は昔からひっそり訪ねてきてくれる幼馴染の女の子、バーナビーの訪れを今か今かと楽しみにしていたんだ。何せ、双子の王女殿下もいらっしゃるというとんでもない話だったから。

 ひどく緊張していた僕としては、昔から知っている子に会って心を落ち着けたかった。


 だけど、着飾って現れたバーナビーは「私が第一王女のウィルフレッドなの」ってはにかむし、「これからはウィルって呼んで」、なんて。

 驚かずにいるのは無理だろう?


 きらきらの金髪ポニーテールも綺麗な青い瞳も見慣れたものだったけど、王女殿下?いやいや駄目でしょう一人でこんな所まで遊びに来てたら、それとも実は騎士がいたのかな?なんて考えつつ。


 頭がずきりと痛んだ。

 そして双子の妹――少し癖のある黒髪に、鋭い金の瞳をした女の子。


『僕は本当に初めまして。第二王女、アベル・クラーク・レヴァインだ。』


 彼女を見て、前世の記憶が濁流のように押し寄せた。

 ギャルゲーの世界だってこと、学園編の最後にウィルが殺されること、アベル殿下は王国を帝国に改めてラスボス女帝となり、未来では戦争が起きていること、僕はどんなルートでも絶対に死ぬこと――…つまり。


『まずいじゃないかーーーっ!!!!』


 気が遠くなった僕は、そう叫んだらしい。

 そしてバッタリと気を失い、あろう事かアベル王女殿下が僕が地面に倒れる前に支え、横抱きにして屋敷の入り口まで運んでくださったそうなのだ。

 彼女は武勇に優れている。僕を運ぶくらいなんて事なかったのだろうけれど……。


 将来公爵を継ぐ僕が、王女殿下に、お姫様だっこ……するならまだしも、されたって……。


「う、うぉおおお!」

 羞恥心を振り払うようにブンブンと剣を素振りする。

 横から生暖かい視線が漂ってくるけどそれも切り捨ててくれ、剣よ!


「随分気合が入ってるね。」

「うわああああ!えっ!?」

 今一番聞きたくない声がしたな!?

 慌てて辺りを見回すも、玄関の方でも庭の東屋の方向でもなく。まさかの、屋敷を囲う高い柵のてっぺんからひょいと、アベル王女殿下が飛び降りてきた。


 危ないと叫ぶ間もなく、彼女はあっさり軽やかに着地する。

 乗馬服姿とはいえ、女性がなんて無茶を!僕はひとまず剣をメリルに預けて礼をした。


「ご機嫌麗しく、第二王女殿下。」

「うん。ご機嫌よう」

「な、なぜそちらから……?」

「そんな事はどうでもいいでしょ。」

 どうでもよくはないんじゃないか?と、思いはしたが飲み込んだ。というか護衛はどこだろう。

 全然見当たらないんだけど、ちょっと自由過ぎるんじゃないかな。この王女殿下は。


 魔法大国と呼ばれるこの国では、魔力を持つ者とそうでない者とがいる。

 ただ王侯貴族で魔力無しというのは非常に珍しく――アベル殿下は表向き、魔力を持っていない。魔力鑑定は一番適性のある属性の色で示されるので、この方のように《全属性に等しい適性を持つ》なんて例が無かったのだ。


 魔力がないから王位継承権などありませんわという顔をして、その実、圧倒的な武勇で騎士団の尊崇を集める彼女を「魔力が無くとも女王に」という声も少なくない。十二歳でこれなのだから、ゲームの未来編でどうだったかは想像に難くないだろう。


 ウィルは珍しい光属性の使い手だけれど、常に堂々として優秀なアベル殿下に劣等感を抱いている。

 故に姉妹仲もギスギスしているのだ。


「――こんな男がウィルの王配か……」


 眉を顰めた殿下が何か仰ったけれど、小声過ぎて聞き取れなかった。

 目が合うと睨まれた気がしたが、僕は深く頭を下げる。


「殿下、先日はお見苦しい姿をお見せして申し訳ありませんでした。そして、助けて頂きありがとうございました。改めてご挨拶の場をと考えていたのですが」

「顔を上げなよ。」

 許可を得て静かに顔を上げた。

 ウィルはきらきらと輝く、絵本のお姫様のような麗しさだけど……きりっとした目つきに真顔というせいもあってか、アベル殿下は凛々しい美しさがある。


 この国の王家は《星》に例えられるが、殿下の瞳はまさに星の輝きだな。


 ついじっと見つめると殿下は警戒するようにほんの僅か眉を顰め、見返してきた。

 僕の方が少しだけ背が高いから、じぃっと見上げてくる様がどこか、妹のクリスと重なる。失礼かもしれないけれど、ちょっと可愛らしいなと思って。僕はつい微笑んでいた。アベル殿下が訝しげに目を細める。


「…次は助けないから、その軟弱な身体を鍛えておくことだ。」

「はい。将来(重役の一人として)殿下達をお支えできるよう、精進致します。」

「僕はどうでもいい。君はさっさと(ウィルと正式に)婚約でもして身を固めておくんだね」

「そうですね…。」

 苦笑して返しつつも、ね。

 学園生活一年目に何が起きるか知った今となっては、お嫁さんを探している場合ではないかな……。


 そういえば何年も昔、ウィルとこの庭で「けっこんしたらずっと一緒にいられるなら、しよう」なんて話した事があった。

 懐かしいな……母上が大慌てしていたっけ。屋敷に引っ張り込まれて説得され、お友達のままがいい、で一致したんだよね。



 ――この時の僕はまさか、当時の幼い会話をアベル殿下が庭の生垣越しに聞いていたなんて。それからずっと、僕とウィルが将来を誓い合った仲だと思い込んでるなんて、想像もしていなかった――



「釣り書きは色々届くのですが、量が……」

「だから、さっさと(ウィルと)婚約すればいい。」

「ふふ。殿下、お言葉そのまま返しては怒られますか?」

「……僕はいいんだ。結婚しないから」

 むすっと眉を顰めたアベル殿下は、確かにゲームでも結婚願望が無いと話していた気がする。

 おまけに攻略難易度が高い。攻略対象五人の中で、正規エンドに求められる好感度の高さが一人だけ違うのだ。そして悲恋エンドでは主人公を殺してくる。


 何でっ…何で殺してしまうんだ……!主人公は素直で誠実ですごく良い子なのに!!


「お相手を大事に…大事になさってくださいね……!」

「だから、しないと言ってる。君、まさか(気の早い事に、もう)義妹(いもうと)扱いしてるつもりじゃないだろうね。」

「妹扱いですか?クリスと話す時は、大体ハグをしながら」

「やめろ」

 殿下にするとは言っていないのに…。

 こうしますという意味で軽く腕を広げただけなのに、嫌そうに後ずさりされてしまった。ちょっとショックだ。もちろん大人しく手を下ろす。


 僕は結構終盤まで主人公達を助けるけれど、筆頭公爵家であるアーチャー家の人間として、女帝アベル陛下に仕える側のキャラクターでもあった。

 詳細は不明だけれど城仕えはしていたはずだ。

 主人公達は彼女を殺したいのではなく、止めたいという気持ちだったからこそ、ゲームの僕は協力した。


 でも主人公達がエンディングを迎えるためには、ラスボスを殺さなくてはならない。


 その時僕はいない。

 もう死んでいるから。隣国のどなたかと婚約したとはシナリオにも書かれていたけれど、その子のもとへ行く途中で襲撃を受けて死んでしまったのだ。

 僕は誰と結ばれる予定だったんだろう。


「殿下。そんな畏れ多いことはしませんから、こちらへ。ティータイムの準備が整いましたよ」


 メリルに渡されたタオルで手を拭いながら呼びかける。

 殿下は細い眉をきゅっと顰めたまま、ちらっとティーテーブルを見てから戻ってきた。席へエスコートをと思ったものの、僕を素通りするという固い意志があるようだったので、手を差し出すのはやめておく。

 席について、それとなくシュガーポットを殿下の傍へ置き直した。ゲームと同じなら、一つお使いになるはずだ。


「それで、本日はどのようなご用件でしょうか。」

「近くに寄ったから、あのざまだった君がどう過ごしているかと思ってね。」

「うっ…」

 黒歴史を変える事はできない。

 なんとか挽回しないと、僕はずっとこの方に「お姫様だっこで運んでやった軟弱男」と思われてしまう。次期公爵なのに情けなさ過ぎるぞ。

 何分アベル殿下自身が優秀だから、認めて頂くには本当に全部頑張らなくては。


「腐ってはいないようで何よりだ。」

「あのような醜態は二度と。二度と晒しません。」

「ふぅん。まぁ頑張るんだね」

「はい。」

 殿下は角砂糖を一つ自分の紅茶に落としてゆるりと混ぜた。


 姉を喪ったアベル殿下は夫もなく、婚約者もないまま、一人で国を背負い立って討たれる。

 反対に、妹を喪ったウィルは主人公に支えられ、重圧や裏切りに耐えながら必死で敵国を退けた。


 彼女達の近くにいただろう僕が王配に選ばれる事はなかった。

 長男だという事はそんなに問題じゃない。妹のクリスだって公爵になれるのだから。


 だから、そう。彼女達が僕を選ぶ事はない。まさに「対象外」なのだろう。


「ところで、君は僕の胸を見ないな」

「げほげほげほ!」

「大抵の男は見るから意外だった。」

「そ、…っごほ、殿下、あま、あまりそういう、けほごほ!」

 何を平然としているのか、殿下は顎に軽く手をあてて「ふむ」と頷いた。「ふむ」じゃないんだよ、「ふむ」じゃ!


 そりゃ男は見るだろう、十二歳にしてはもうCカップは――僕がこれを知っているのはキャラクター設定情報として知っているだけで、断じてそういういやらしい目で測定したわけではない!

 あと、ゲームはそっち方面については健全でした!人はばんばか死ぬけれども!


 メリルが笑いを堪えて小さく震えている。後で文句を言おう…。

 落ち着け、落ち着くんだ僕。


「コホン……殿下。淑女たるもの、そういったあの、事を言うのはその、お止めになった方が。」

「理解してるよ。君が紳士で良かったという話だ」

「さ、左様でしたか…」

 万一にも見てしまわないよう、僕は今視線をティーカップに固定している。

 やめてくれ、こっちは未来編で大人になった貴女の姿まで知っているんだから。貴女ときたら大体襟元を寛げているんだから。やめてくれ本当に。


 そうだ、真面目な事を考えよう。

 ウィルを暗殺する予定のご令嬢は今どうしてるかな。弟の病気さえ治れば、きっと……。


 反対にウィルのルートだとアベル殿下が命を落とすんだけど、そっちはどう解決したらいいかな…。主人公が誰を選ぶかにもよるのか。うーむ。


「…悪かった。」

 唐突に謝られてつい、驚いて顔を上げる。今度は殿下が僕から目をそらしていた。


「君をそこまで困らせると思わなかった。」

「あ、いえ……大丈夫ですよ。」

 今頭を悩ませてたのは殿下の発言ではなく、やたら人が死ぬこの世界のシナリオについてなので。

 とも説明できるわけがなく、僕は曖昧に苦笑した。金色の瞳がこちらを見る。


「…精進すると言ってたね。少し見てあげようか」

「!まさか、剣術をですか?」

「それ以外何があるの。休憩を終えたら手合わせに付き合おう」

「っ…光栄です。まだまだ未熟ではありますが。」

「当然だ。僕より強い子供がいてたまるか」

 ふ、と口角を上げて笑った殿下の表情は優しくて、そういえば笑顔のスチル画像は人気だったなと頭の片隅で思う。



 この後もちろんコテンパンに負け、そこへ現れたウィルが悲鳴を上げて妹を叱り始めるんだけど――…そうと知らない僕はただ、自然と微笑みを返していた。




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本編:ハッピーエンドがない乙女ゲームの世界に転生してしまったので

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