表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

土曜日の朝十時過ぎ彼女に土鍋を買ったのでお鍋を食べましょうと誘われたので正午前に家を出た。

彼女の家に行く途中にケーキ屋があったので寄って行く。

何が好きかわからなかったので、モンブラン、苺のショートケーキ、ミルクレープ、ガトーショコラ、ベイクドチーズケーキ、レモンタルトにしてみた。

こんだけあったらどれかささるものが有るだろうし、もし彼女がいらないと言ったら俺は全部好きなので一人で全部食おう。


「おはようございます」


「おはようございます。ケーキですか?そんなに気を使わなくても良かったのに。でも嬉しいです。後で一緒にいただきましょうね」


「はい」


誰ですか、こんな可愛い子に白いふわふわのタートルネックのセーター着せたのは、悪魔ですか?

悪魔だった。

似合いすぎでしょ。

素晴らしすぎる。

俺が生まれてから見たあらゆるもので一番。

言葉がない。

この先何度も取り出して思い出したくなる特別な一瞬。

誰かカードにしてくだされ。


「昼に鍋っすか?」


「だって夜はご家族と食べるのでしょう?」


「まあそうっすね」


「やかんも買ったんですよ」


「それはいいっすね。かっぷ麺食べられますね」


「豆乳鍋でいいですか?」


「いいっすよ。鍋スープは外れありませんよね」


「そうですか。私は食べるの初めてです」


「そうなんですか?」


「ええ」


「家なんか十月から鍋食べてるので鍋スープ近所のスーパーのは大概食べましたよ。ラーメン屋さん系がおすすめです」


「そうですか。じゃあ作るのは忍にお任せしますね。野菜は切っておきましたので」


「わっかりましたー」


俺達は炬燵に入り向かい合って鍋を食べ始めた。

昼間から。


「豚バラ美味いっすね」


「白菜も美味しいですよ」


「鍋いいっすよね。家今、週四で鍋ですよ」


「そうですか。いいじゃないですか。暖かいし」


「嫌だって言ってるんじゃないです。何食べても美味しいし」


「昨日何食べました?」


「おでんです。キムチ鍋、ホワイトシチュー、あごだし鍋、ビーフシチュー、おでん、多分今日の夜は鍋ですね」


「じゃあ今日は昼も夜も鍋ですか」


「そうっすね」


「それは申し訳なかったですね」


「いいっすよ。全然鍋飽きてないんで。寧ろ毎日鍋でいいです」


「私は初めてなのでとても新鮮です」


「鍋食ってないって冬何食ってたんすか?」


「さあ」


「さあって、俺より長いこといるんすよね?上級悪魔ですし」


「私のことはいいですよ。忍のこと聞かせてください」


「俺のこと?」


「はい」


「特に面白い話はありませんよぉ。あ、そうだ、悪魔も俺達みたいに地上に派遣される際講習会とかするんすか?」


「はい?」


「俺達は地上に行く際に人間に混ざるわけだから、まあその国の一般常識を詰め込まれるんすよ。生まれてすぐ、一気に」


天使は神様が作る。

俺達天使は皆神様のいわば作品だ。

地上の生き物は最初は神様が作ったけどもう今は関与していないから、神様が今作っているのは俺達天使だけになる。

そう、貴重なはずなんすよ、俺だって。


「じゃあここに派遣される少し前に生まれたということですか?」


「そうっすね」


「じゃあやっぱり赤ちゃんですね」


「やめてくださいよぉ。悪魔だってそうじゃないんですか?」


「そうですね、私達も天使と一緒でお母さんのお腹で大切に育てられるわけではないですからね」


「そうそう、不思議っすよね。あんな風にお腹に何か月も入れてたらもっと大事にしそうなもんですけどねぇ。平気で自分の子を死なせたりしますもんね、人間って」


「全くです。人間というのは悪魔よりよっぽど残酷ですよ。寧ろ私達の方がずっと愛情深いです。堕天したらうんと大事にしてあげますよ、忍」


「そうかもしんないっすねぇ」


「ご両親とは上手くいっていますか?」


「はい。いい人達ですよ。祖母ちゃんも楽しい人です」


「四人暮らしですか?」


「はい」


「お友達もいい人達みたいですね」


「そうっすね。漫画とゲームとアニメと女性声優の話しかしませんけどいい人達っすよ。悪魔のあんたが言うならホントにそうなんだろうなって思いますねぇ」


「学校も平和ですし、することないと思いません?」


「することない方がいいですよ。天使の本分は唯いることなので」


「何か刺激が欲しいと思いませんか?」


「いいえ、全く」


「平凡な日常が続くの耐えられます?」


「はい」


「何か新しいことしたくありませんか?」


「犬を飼うとかですかぁ?」


「血沸き肉躍る展開が必要じゃないですか?」


「天使なんでそういうのは求めていませんねぇ」


「だって何にも起こらないじゃないですか」


「何にも起こらなくていいじゃないですか」


「私はつまらないです」


「あんたですかい」


「ホントにつまらないです。退屈です。毎日同じ景色見て学校行って同じ人しかいなくて、何処に行っても同じようなお店があって同じような人がいて、もう飽きました」


「来たばっかじゃないですか。俺なんか未だにコンビニ行くだけで楽しいっすよ」


「いいですね。忍は、楽しいのハードルが低くて」


「だってホントに楽しいっすよ。あっ、映画、映画見に行ったらどうっすか。映画館いいっすよ」


「映画ですか」


「はい。いいっすよ。でっかいスクリーンに大音量。テンション上がりますよぉ」


「映画ですか。いいでしょう。連れていってください」


「いいっすけど、何か見たいのあります?」


「ないです」


「ないんですかい」


「堕天したくないなら私のテンションを上げてください」


「見たくないもの見に行ってテンション上がりますかぁ?」


「それは貴方次第です」


「そんなに退屈っすかねぇ。俺毎日楽しいっすけどねぇ。あんたもいるし」


「私ですか?」


「はい。だって見てるだけでワクワクしますし」


「そんなにこの顔がお好きですか?」


「はい。だってなんつーか、俺が神様に頼み込んでこういう顔にしてくださいってしたみたいなんすよ、あんたの顔」


「そんなに私の顔を大絶賛してくれるのにまだ落ちてくれないんですね」


「嫌、落ちかかってますよぉ。でもこれでも俺天使なので。そう簡単には悪魔の手に落ちませんよぉ」


「そのようですね」


「〆のうどん入れますよ」


「お願いします」


「鍋美味かったですね」


「はい」


「まだ食べてないものいっぱいあるんじゃないっすか?」


「そうですね。でも私は忍と違ってそんなに食に興味がありませんので」


「美味いもの食ってるとテンション上がりますけどねぇ」


「つまんなすぎて地獄に帰りたいくらいです」


「えー、帰らないでくださいっすよぉ」


「貴方は私がいなくたって楽しんでたじゃないですか」


「今の方が楽しいっすよ。世界一可愛い子と鍋食ってんだから」


「どうですかね」


「ホントだって。あ、ケーキ屋、ここ来る途中ケーキ屋寄ったんすよ。俺それだけで今日テンション上がりましたよ。ケーキ買いに行きません?」


「それは私にケーキを食べさせようと、私を思ってテンションが上がったっていうことでしょうか?」


「嫌、単純に俺が食いたかったからです。まだあんたのことそんなに知りませんし、まだ当分落ちるつもりはないっすから」


「随分強気ですね。赤ちゃんのくせに生意気ですよ」


「まあもうちょっと仲良くなったらですよねぇ」


「そうですね」


「あんたのこと名前くらいしか知りませんもん。あと悪魔ってことと」


「それだけで十分じゃないですか?」


「何が好きで何が嫌いかとか」


「嫌いなものなら沢山あります。一番は退屈。それにしても忍、貴方もう半年以上地上にいるのにテンション上がるで思いつくの映画館とケーキ屋さんって。貴方はこの半年何をしていたんですか?」


「嫌、地味に生きてる高校生なんてこんなもんじゃないっすか」


「そうですか?」


「うーん、難しいっすねぇ。テンション上げる方法ですか、うーん。基本赴任先からあんまり離れるのはよろしくないので、県外は難しいですし」


「そうですね」


「悪魔もそうなんすか?」


「いえ、悪魔は自由ですよ。そう、堕天したらどこへでも行けますよ。東京だって沖縄だって北海道だって」


「そうっすね、あ、部活、部活入ったらどうっすか?絵描くの楽しいっすよ、たまに天使力上がってるときだと上手く描けすぎて困りますけど」


「美術部ですか?」


「嫌、別に美術部じゃなくてもいいっすけど、運動部は不味いでしょうから、演劇部とかどうっすか?似合いそう」


「貴方は何故ロミオなのぉ?とか言うんですか。恥ずかしいから嫌です」


「あ、推し活とかどうっすか?アイドル追っかけるの楽しいらしいっすよ」


「私が、人間の男性に興味を持つとお思いですか?」


「あー、まあそうっすよねぇ。でもそうそう面白いことなんて起きませんよ。寧ろ起きなくていいですし」


「貴方はそうでしょうけど、悪魔の私は淡々とした日常が続くなんて耐えられません」


「まだ二週間くらいでしょう。もう飽きたって早すぎますよぉ」


「貴方も堕天してくれませんし。もう他の天使を探そうかと」


「えー、まあまだいいじゃないっすか。つーか、ケーキ食べません?」


「貴方は食べることばっかり」


「いいじゃないすか。美味いもん食ってるとこれが人間の言う幸せなんだろうなって思いますよ。正直俺らの加護より美味いもん食った方が絶対メンタルにいいっすよ」


「そうかもしれませんね。つまり貴方がこの半年で気づいたのは美味しいものを食べることがこの世で一番楽しいってことですか」


「あー、そうかもしんないっす」


「取りあえず、お鍋を片付けてからです」


「はーい。三つずつですよぉ」


彼女がお皿とフォークを炬燵に並べてくれたので、俺は白いケーキの箱を開けた。


「このお皿どう見てもカレー用っすよねぇ?」


「仕方ないじゃないですか。ケーキをこんな風に食べるのは初めてなんですから、あ、あれですよ。ケーキを食べるのは初めてじゃないですからね。いつもは、こう、一人暮らしなので」


「ああ、まあ手づかみで食えますもんねぇ」


「今度買います」


「カレー食うんすねぇ」


「食べますよ」


「つーかどれにします?」


「・・・・モンブラン」


「あと二個どうぞ」


「次は忍でいいですよ」


「じゃあレモンパイ貰いますよぉ」


「ガトーショコラじゃないんですか?」


「ケーキなら何でも好きですよぉ。つーか甘いものなら何でも好きです」


「次苺ショート貰いますよ」


「じゃあ俺ミルクレープ」


「チーズケーキ貰っていいですか?」


「いいっすよ。何か楽しくないですかこれ?ドラフトみたいで。もっと買っといたら良かったっすねぇ」


「どらふと?」


「プロ野球の欲しい選手順番に指名していくやつです。ちょっと後で他のお菓子でもやりましょうよ」


「いいですよ。お菓子ならいっぱいありますし」


「よし。これなら何時間でも遊べますよぉ」


「私とですか?」


「はい」


「・・・・映画約束ですよ」


「いっすよ。いつにします?」


「来週の日曜日」


「了解です」

























評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ