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「さあ、上がってください」


「家族の方は?」


「一人暮らしですから」


「そうですか」


こんな一軒家に女の子が一人。

物騒だと思ったけど、危ないのは侵入者の方ですよね、うん。


「立派な家っすねぇ」


「ありがとうございます。さ、炬燵に入ってお菓子を食べながらお話しましょう」


「はい」


「お茶淹れてきますね」


「はい。ありがとうございます」


彼女が炬燵のコンセントを入れて、エアコンを入れてくれたが、すぐには暖かくはならないので、コートが脱げない。

地上の冬寒すぎる、特にこの国の冬、寒い。

今基本人間と変わんないから俺の長いだけの薄っぺらい身体にはこたえる。

俺は右に左にと部屋を見回す。

テレビがあって、エアコンがあって、炬燵があって、クッションがあって、カーテンがある。

普通だ、ごく普通の民家の生活感のある日本のお茶の間って感じだ。

こんな普通の家に悪魔の彼女が本当に一人で暮しているのか。


「お待たせしました」


「どうも」


俺も知ってる大分メジャーな犬の絵の描かれたマグカップに入れられた温かいお茶を飲む。

俺は水色のマグカップ、彼女はピンクのマグカップ、どう見てもペア。

やっぱり同居人がいるのか?

俺拙いとこ来ちゃった?

ひょっとしてもう家帰れなかったりする?

そういえば俺可愛い顔に騙されて、悪魔の家来ちゃったんだよな。

何やってんの?

俺天使でしょ?

職務に忠実であれ。

まあ、でも喉は渇いたのでお茶は飲むか。

堕天させんのが目的なら毒は入っていないだろうし。


「美味しいっすね、お茶」


「伊右衛門の濃いのですよ。電子レンジで温めただけです」


「お茶淹れるのも面倒なのに、コップ洗うのは有りなんですか?」


「洗いますよ、そりゃ。ちなみにお皿だってありますよ。あとそのコップはもらい物です。そんな可愛らしいの私の趣味ではありません。大体ペットボトルごと温めたら爆発するでしょう?寒いから冷たいお茶なんて飲みたくないですからね。まあそのうちやかんは買う予定です」


「そうですか。お菓子開けていいですか?」


「どうぞ、お好きなだけ食べてください」


「そういやあんた名前なんて言うんですか?」


「涌井奈々ですけど」


「それはこっちでの名前でしょう?」


「奈々は本名ですよ。漢字は当て字ですけど」


「名前ありなんすね。じゃあやっぱり上級悪魔なんですね」


「天使殿は名無しさんですか?」


「そうです。俺下級天使なんで」


俺達下級天使に名前はない。

だからこっちへ来るとき初めて名前を貰えたから伊藤忍って名前には愛着がある。

だから結構人に名前を呼ばれるの好き。

涌井奈々は正座してお菓子には手を付けようとしない。

俺だけ食ってるのも気が引けるので、ハッピーターンとポテトチップスを開けてみるが彼女の美しい指は伸びない、まるで絡みつく茨のように彼女の美しい輪郭を縁取っている。

可愛い女の子の頬杖って素晴らしいな。

可愛いことを自覚しているのがなおいい。

部屋が大分暖かくなってきたのでコートを脱ぐ。

好きなお菓子はたんまりあって、外は寒いけど部屋はぽかぽか、目の前には俺の正体を知っている美少女。

あれ、これ天国では?

嫌、駄目だ、ダメダメ、俺天使。

お前の職務は何だ?

お前は何のために地上に派遣されてきた?

地上の人々に天上の加護を与えるためだろう?

天使忍。

俺達天使は人間の人生に深く関与してはならないというルールがあるが、昨今余りにも地上が地獄に近づいているので、地上に派遣される天使の数を増やすことにした。

俺達天使はいるだけで、人間に天使の加護効果を付与できるのだ。

加護効果は、まあ主にメンタルの回復速度がちょっとだけ上がるとか、怪我の回復速度がちょっとだけ上がるとかまあ微々たるものなんだけど。

直接治療とかはできないし、まあいわば芳香剤だと考えたらいいって先輩は言ってた。

置いとくだけで何かわからんが効果あるんでしょ?あれ。

まあ、実際は焼け石に水。

地上に大量の天使派遣したけど、数だけいて皆下っ端で加護効果も余り広範囲に及ばないし、彼女みたいな美しい悪魔が誘惑して堕天する天使は後を絶たず。

上級天使様達は最終戦争のため力を蓄えなくちゃいけないから地上にいる暇なんてないし。

俺も自分が通っている高校くらいは天使の祝福で楽しい感じになるかなぁと思ってたけど、今のところ何の成果もあげられていない。


そして今日悪魔に気づかれてしまった。

まあ時間の問題だっただろうけど、彼女が来なくてもまた違う悪魔に堕天させられたかもしれないけど。

嫌、彼女以外なら大丈夫だった気がする。

同地区に派遣されてきた悪魔がタイプ過ぎた。

下級天使の乏しい語彙力では彼女の容姿を正確に表現することは不可能。

まあ雑に言うと、さらっさらの黒髪ロングに、白くてなめらかな肌、夜を想わせる黒い大きな飴玉みたいな瞳をもつ宝箱の金塊の中から掬い上げられたような女の子。

彼女が悪魔じゃなかったら、あ、それは最初から間違ってる。

そもそも俺が天使じゃなかったら彼女多分俺に声かけてくれたりしない。

まあ堕天は嫌だし、何とかここを生き延びねば。

そういや使うことないから忘れてたけど俺羽根あるんだし、いざって時は飛べるんだし大丈夫か。

でも空中戦になったら彼女に負けそう。

嫌なんつーか、何やっても負けそう。

圧倒的身長有利のバスケット対決とかでも負けそう。

つーか、上級悪魔さん、にっこにこして俺が食ってるとこ見てるけど、何考えてんだろ。

こえぇ。






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