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「空ですか?」
「はい。こっち来てからずっと飛んでないんで飛びませんか?」
「私達は自由ですけど、天使は大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫っす。羽根生えた天使モードになると人間には全く見えなくなるので」
「それは悪魔も一緒です」
「家で寝る前とか定期的に羽根生やしたりしてるんですけど、物足りないんすよね。飛びたいっす。やっぱり天使なんで」
「この寒空にですか?綺麗な青い空でもなく思いっきり曇ってますけど」
「いいっすよ。飛びたいっす」
「そうですね。じゃあ行きましょうか」
「はい」
彼女の羽根はちゃんと黒かった。
俺の羽根は真っ白。
彼女のチェックの長いマフラーが風に揺れている。
彼女の飛び方は何故かとてもぎこちない。
初めてローラースケートをした人みたいにあわあわしている。
「飛ぶの苦手だったりします?」
「久しぶりだからです」
「空中戦苦手ですか?」
「まさか」
そう言うと彼女は俺の腕を引っ張りぐんぐんと上がっていく。
地上がどんどん遠くなっていく。
「貴方のことがわかりません。一体いつになったら私のこと好きになってくれるんですか?」
「さあ、どうですかね」
強い風が彼女の体勢を崩す。
落下していく彼女を俺は追いかける。
俺が彼女の右手を取ると彼女は自分のマフラーを解き俺の首に巻き付け俺達の身体が近づく。
白い翼と黒い翼。
世界の始まりから対になれる、天使と悪魔の色。
彼女は俺にかけたチェックのマフラーを自分の首にもかけ俺達は可愛らしい天使と悪魔のお人形セットになる。
「私が、ですよ」
「はい?」
「私が最初から貴方に狙いを定めてこの街に来たって言ったらどうです?」
「まだ弱いんじゃないですか」
「小悪魔時代に貴方を見初めて地獄から追いかけてきた、でどうです?」
「まだまだ堕天ポイントは貯まらないですね」
「もう」
「ってことはやっぱり俺のが先に生まれたわけですね。後輩ですね。先輩って呼んでもいいですよ」
「こんなに可愛いんですから私に落ちてくださいよ、ちなみに私も名無しです。上級悪魔なんかじゃありませんよ、名無しの奈々ちゃんです。これが私の全部です。手持ちのカードはもう何もないですよ。もう私には何もありません。この可愛い顔しか」
「知ってます?」
「何ですか?」
「天使が堕天使にならない方法」
「悪魔に身も心も捧げないこと、でしょう?」
「そう、後先手必勝として、悪魔に先に惚れさせること、ですね。攻撃は最大の防御」
「じゃあ競争ですね、忍」
「そうっすね、天使の威信にかけて負けませんよ、奈々」
「飛ぶのは苦手なので私のこと落っこどさないでくださいね」
彼女の腕が俺の首に巻き付き、俺達は一つの線になる。
彼女の黒い羽根が俺の背に回り、俺の白い羽根が彼女の細い身体を覆う。
俺達はゆっくりとした速度で地上に落ちていく。
天使と悪魔の攻防戦、この結末は。
いずれ解る、そう遠くない未来に。
できればハッピーエンド、痛くない方向で。