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十二月の転校生は珍しい。

それも週末の金曜日なら更に珍しいだろうと思われる。

もうすぐ冬休み、何故こんな時期に?

だがそんなことが些末に思える程彼女は一際美しく、その美貌を俺達に惜しげもなく披露してくれていた。

そして俺は彼女に見つかってはならないと身体を二つ折りにするように机に突っ伏したが、デカい身体では上手くいかず、担任に「伊藤、寝るなー」と注意され、そろりそろりと顔を上げた。

気が付けば黒髪の美しい少女は段々と俺と距離を詰め、ゆったりと微笑むと俺の左隣に机一つ挟んで着席した。

俺はできるだけ彼女と目を合わすまいと誓ったのだが三秒後にはそれを破ってしまった。

彼女は俺に口元だけで笑いかけた。

見る人によっては彼女が俺に好意を示している様に見えるかもしれないが、俺はあの笑みがそんな可愛らしいものではなく、俺の今後、そしてこの学校の命運を左右するのだということを知っていた。

そして最悪の結末を挫くのはあくまで俺の強靭な意志であるということも悲しいくらい知っていたが、それが一番頼りないことも自分自身のことながら情けない程知っていた。

そう、俺は結構自分を客観視できるのだ。


俺は放課後になると一目散に逃げようとしたが彼女は決してそれを許さなかった。

これは俺自身の保身からではなく一日でもいいからこの学校に平穏をとの気持ちからである。

だって俺が落ちたらここいら一帯が終わる。

嫌それはちょっと誇張だけどまあまあ責任重大なんですよ、俺実は。

彼女は可憐な笑みを浮かべ、俺の制服の袖をぎゅっと引っ張った。


「少しお話があるのですが、よろしいでしょうか?」


「ちょっと無理ですね。用事あるんで。じゃ」


「お待ちください。そんなにお時間は取らせませんよ」


怪力美人ですか。

多分制服もってかれるな。

従順に頷く。

彼女が制服を離したらGOだ。


と思っていたんだが、一向に制服のブレザーの袖を彼女は放してくれません。

廊下に出ると彼女は少し背を伸ばし俺の耳元に唇を近づけたので、俺は咄嗟に屈んだので、彼女の踵はすぐに地上に着いた。





「堕天しませんか?天使殿」



そうですよね。

ばれてますよね。

そうなんですよ。

俺天使なんです。

まあかなり下っ端ですが。




「毎日守護天使のお仕事ご苦労様です。何の報酬も得られないのによく頑張っておられますよね。

本当に天使殿の清らかさには心底感服しておりますよ。ええ、本当ですとも」


「変わった喋り方ですね。つーか長い」


「そうですか。それは失礼いたしました。取りあえず場所を変えませんか?沢山話したいこと有るので、二人きりで静かに話せるところでどうですか?貴方のお家でも構いませんよ」


「初対面の男の家に行くのはどうかと思いますけどねぇ」


「何を想像しておられるのですか?気が早いですよ。まあ私は一向に構いませんけど」


「あんた女装男子じゃないですよね?」


「どうやったらそう見えるんですか?どっからどう見てもただの綺麗な女の子でしょう?」


「そうですねぇ」


「タイプだったりします?」


「まあ、ちょっとは」


「あら、素直ですねぇ。さすが天使殿」


「マクドナルドでも行きます?すぐそこですし」


「人に聞かれては困ります。もう私の家に寄って行ってください。ここからすぐなので」


「初対面の女子の家に上がり込むのは良くないと思いますけどねぇ」


「でもこのまま私を放置なんてできませんよねぇ。私何をするかわかりませんし」


「そうっすねぇ」


「人間の喋り方がお上手ですねぇ。流石天使殿」


「お世辞はいいっすよぉ。じゃあまあこのままではらちがあきませんし、お言葉に甘えるとするっすかねぇ」


「では帰りましょう」


美少女はにっこりと極上の笑みを浮かべ俺の手を取った。

暖かな手だった。


「付き合ってもいない男女が手を繋ぐのはどうかと思いますけどねぇ」


「これから付き合うからいいじゃないですか?」


「付き合いませんよ」


「付き合いますよ。貴方は私を好きになります」


俺は手を振り払わなかった。

彼女の手が暖かかったってのもあったけど、女子の指の感触というのが生まれて初めてで、それが余りに心地いいものだったので、振りほどくのが何だかとても名残惜しくて躊躇われた。

下級天使は意志が弱いのだ。


「ちゃんと堕天させてあげますからねぇ。天使殿」


「はいはい。悪魔殿」




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