06:剣を収めよ
校舎の崩壊を代償に、少女はマーガレットとの戦いに勝利を収めた。
「ふぅ……」
ひたいの汗を拭きながらため息をつく少女、安堵の現れである。
「でえええええ!? ここどこ!?」
後方から騒ぎ声が聞こえる。少女が声の聞こえたほうに目を向けると、その主は案の定、創人であった。気絶から目が覚めたようである。
創人が騒ぐのも当然である。辺りは土煙で視界が霞んでいて、辛うじて見えるものは、前方の崩壊したガレキそのものと言える建物と、背後のどす黒い煙を淡々と上らせている炎上した鉄くずぐらいである。あまりの景色の変わりように、自分が日頃通っている高校であることすら認識ができていなかった。
さらに彼の驚きは終わらない。自分の発した声が別人のようになっていたのである。
異変に気付き、創人は自らの喉を触る。その肌触りは普段より張りを感じ、喉仏が存在しないことに気付く。
「え? え? え?」
続いて手を確認する。見慣れているゴツゴツとした手はそこになく、しなやかな指で構成されたか細いものとなっていた。
「もしかして……」
今度は自分の胸を触った。毎日の体力トレーニングで鍛えた産物の胸筋は無く、代わりに二つの出っ張った肉の塊が胸部を支配していた。
最後に股間に手を当て、創人はうすうす感じていた予感を確信へと変えた。
「お、お、女になってるうううううううううう!!」
創人の体つきは女性のそれへと変化を遂げていた。身長が十センチほど縮み、肩幅や足のサイズは二回りほど小さくなっていて、制服のサイズが合っていなかった。
立ち上がるとその違和感はさらに増大する。ズボンはベルトがゆるゆるで今にも落ちそうであり、靴もサイズが違いすぎてうまく歩けない。不便さを一気に感じていた。
一方で創人の授かった肉体はかなりスタイルが良かった。小柄ではあるものの、バストやヒップはしっかりと突き出ていて、くびれも存在する。グラビアアイドルに匹敵するほどの奇麗な体であった。
自分がそんなわがままボディであることに一切気付かず、創人は少女に問う。
「何で? 何で? どうして?」
「あなた質問しかしないね、ソクラテス目指してる?」
少女が茶化しているのか、本気で言っているのか、表情から読み取ることができない。
「んなわけあるか! こんな状況になったら誰だって質問責めになるわ!」
「そっか。じゃあ後で質問に答えてあげる。その前にさ……」
と、少女は何かを頼み事をしようとした。その時である。
〈サンダー〉
少女の脳内に英単語が響き渡った。少女はこの感覚が魔剣を使っている時のそれと同じであると瞬時に察知する。しかし、彼女は雷のことなど頭の中で全く思い浮かべていないのである。
晴れ渡っている空中から、どこからともなく雷撃の雨が校庭に落ちていく。
「ありゃりゃ……」
「でええええええええええ!? 何だよこれええええええええええ!!」
間近で感じる雷鳴と雷光は恐怖心を激しく駆り立てる。創人は半泣きになりながら、耳をふさいでしゃがみ込んでしまった。
「質問は後って言ったでしょ。とりあえず……ひと気のないところに行きましょう」
少女は創人と目線を合わせるようにしゃがみ込み、耳元でささやいた。
〈ドリル〉
再び立ち上がった彼女は剣を地面に突き立て、地下への通り道を作った。
即席で作った地下道の出口は、ひと気のない林の中であった。高校は緑の多い閑静な場所に所在していて、その近くの林へと移動したのである。
まだ日が昇っている時刻ではあるが、木々が影を作っていて辺りは薄暗い。
〈ダート〉
出口を泥でふさぐ少女。創人はポカンとした顔でその様子を眺める。
「すっげ……。なぁ、そろそろ質問いいよな? まずその剣が一番気になる」
思い出したように創人は聞く。
「エクシトゥスパータ、日本語だと総てを滅ぼす無慈悲の魔剣。あなたのおちんちんだっ
たから親近感はあるんじゃない?」
「……えぇ? はぁ?」
創人は理解が追い付かなかった。剣の名前はほとんど右から左で通過して記憶に残らず、逆に「あなたのおちんちんだった」というセリフは記憶には残ったものの、うまい解釈ができず、疑問符が口からこぼれ落ちる。
「おちんちんを抜かれたからあなたは女の子になった。こっちの疑問も解決ね」
「いやいやいや! なんで……えぇ? 全然わかんないんだけど?」
「こんな単純明快な話が? 男の子からおちんちんを抜いたら女の子になるんだよ?」
「そこは百歩譲ったとしても……剣のほうは分からないよ!!」
「これは念じるだけでいろんな力が発動するの。なんてたって魔剣だからね」
〈テレポート〉
魔剣の説明がてら、少女は創人の背後に周り込む。
「あのさぁ……もっとこう、当事者の気持ちになってほしいっていうかさぁ……」
困惑の意図が伝わっていないことにもどかしさを感じる創人。彼が知りたいのはなぜ自分の性器が剣になるのかという点である。
「でもエクシトゥスパータって力を発動させ続けなきゃいけないのが難点なの、だいたい十秒以内にね。ちょっと気を抜くとさっきの雷みたいに勝手に暴れるから」
そんな思いはつゆ知らず、少女は解説を続けた。淡々と語った魔剣の特性は、混乱中の創人にさらなる衝撃を走らせる。
「ええ!? そんな危ない剣早く手放さないと……! いや手放すほうが危ない? どうするんのさ!?」
「本当に質問が尽きないんだね……鞘に納めれば大丈夫」
「良かった……。その鞘はどこにあるの?」
創人は本当に質問が尽きない。胸に手を当ててホッと肩を下ろし、落ち着いた様子で尋ねた。
「そこ」
少女が指差した部位は、創人の下腹部であった。
「どこ?」
意味が分からず創人は聞き返す。
「ああ、鞘の自覚ないのか。抜いた場所に戻すに決まってるでしょ」
少女は右手の親指と人差し指で輪を作り、左手の中指をその輪の中に通す。
「は……はぁ!? 無理無理無理!! 戻すって……ここ!?」
両手で思いっきり拒否感を示し、創人は背中を向けて逃げようとする。サイズが合わない故に両足ともに靴が脱げてしまったが、気にも留めず林の奥を目指した。
〈スラッシュ〉
しかしそれは一瞬で阻止された。少女が剣を振るうと、創人の着ている衣服は奇麗に破れ去り、彼女を生まれたままの状態にさせる。さらに目の前の木々が倒れ込んで道を塞いだ。
「うわああ!? ひゃえぇ?」
オロオロとしながら辺りを見回し、創人は他に逃げ場がないか探す。右か左か、逃げる手段事態はあったものの、木が倒れ込む瞬間の記憶がフラッシュバックし、足がすくんで動くことができなかった。
「とにかく早く納めるのが第一だから。残りの質問は後でね」
〈ショート〉〈ショート〉
魔剣は刃がほとんど見えなくなるほど短くなった。
少女は創人に背後から抱きつき、耳たぶを甘がみする。
「やぁっ!!」
背筋がゾクゾクと震えあがるような感覚に、創人は肩を上げて反応した。
「ね? 痛くしないから……素直に体、預けて……」
先ほどまでからは想像も付かない甘い声。一気に悶々とした気持ちが膨れ上がり、創人は快楽の沼に墜ちていった。




