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04:先生の正体

 崩れた扉の奥には例の少女が不気味に口角を上げていた。


 一体、少女の目的は何だというのか。ここまで執拗(しつよう)に狙う理由は何か。創人の頭には疑問が絶えない。


 少女は再びカードを綾瀬先生へめがけて投げた。


「チッ……!」


 今度は攻撃を避け切れず、右頬が一本の強い切れ目が入る。綾瀬先生はすぐさま数歩後ずさりし、左手で右頬を押さえる。



 その間、少女は創人の着ているワイシャツの襟をつかみ、自分のほうへと引き寄せた。


「またまたアンタか! 一体何の恨みが……」


「私の付けた傷口から血が一滴も垂れないの、なーんでだ?」


 少女は創人の言葉を気にも留めなかった。少女は右手を綾瀬先生に向けて伸ばしたままであり、それが気になって創人は目線を腕の先へと向ける。


「ハッ……あなたもやっぱり同類ってわけ?」


 綾瀬先生の声色が、優しく落ち着いたものから、ハスキーで荒々しいものへと変わった。

 直後、右腕をピンと伸ばし、ポケットに隠していたシルバーカラーの小型拳銃の銃口を少女へ向けた。


「え? ええええええええええ!?」


 創人が今日、驚きで声を挙げたのは何度目だろうか。今回は若干声がかすれていた。


(この人、アヤちゃんじゃない……)


 目の前にいるのが綾瀬先生でないことを創人は確信する。放課後以降の綾瀬先生とは思えない言動に、いつもとは違う声。そして傷口から血が出ないのは、本当の皮膚ではないからである。


 綾瀬先生のフリをしていた女は、カードによって傷付けられた切れ目から覆面を剥ぎ、真の顔を見せる。


 逆光で不明瞭な部分はあるものの、輝かしいブロンドの髪をした女であることはうかがえた。


 にらみ合う忍者装束の少女とブロンド髪の美女。両者は多くを語らず、事情の分からない創人にとっては意味不明である。現時点で分かることは、二人とも創人を巡って争っているということと、彼を求める理由に彼のナニが関係しているということである。


 沈黙が数秒間続いている中、創人はおどおどと手を挙げた。


「あの……状況説明ほしいんですけど……」


 勇気を出して発した言葉であったが、二人は無言のままであった。


「してあげないの?」


 痺れを切らし、ブロンド美女が口を開く。


「してる隙に、あなた私たち……」


 少女は鼻から空気を吸い、肺に限界までため込む。


「殺すでしょ!!」


 強い叫びと同時に、少女は右手に隠し付けていたナックルダスターのような道具で床を叩く。床は土煙を巻き上がらせながらもろく崩れ去り、墜落するように二人は下の階へと非難した。


「全く……何なのよ、あの技!」


 三度遭遇した異様に破壊性能の高い道具に、ブロンド美女は違和感を覚えていた。




 風雲児高校の主校舎は四階建てである。四階は図書室や音楽室、美術室といった特別居室が連なっていて、一般教室は存在しない。そんな四階へ屋上階段の踊り場から、少女と創人は落ちてきた。


「どどど……どうなってるんです!?」


 これまでの状況が飲み込めないうちに、また別の超常現象。創人を混乱させる要素はどんどんと増えていく。口からは質問しか出てこなくなっていた。


「さ、とりあえずこっちに」


 相変わらず質問には答えない少女。表情は硬く、切迫している様子が垣間見える。


「え? ちょっ……だから……」


 少女は創人の腕をつかみ、校舎四階廊下へと移動する。信用こそできないものの、拳銃を突き付けるブロンド美女に追われている現状、少女に頼らざるを得ない。創人は手引きに抵抗せず付いていった。


 四階廊下は全くの静寂であった。本来はこの時間帯、吹奏楽部や美術部の生徒がいるはずで、いくら防音機能があるとはいえ、ひと気の全くないこの状況は異様であった。


 少女は窓を見て校庭側の様子を確認する。釣られて創人も確認すると、生徒たちが逃げるように校舎からどんどんと逃げていく様子がうかがえた。校門前では教師陣が避難誘導をしている。


「なんか大ごとになってる……」


 指導室に空いた大きな穴が騒ぎの原因であることは、創人にも察しがついた。


「これはいいチャンス……!」


 少女はナックルダスターで再度床を殴り、穴を空ける。




 強烈な破壊力を持った武器を用いて、少女と創人は一階まで到着した。


「よ、酔いそう……」


 一階ずつとはいえ、短時間に何度も墜落を体験し、創人は頭を抱えていた。彼の腕を少女はつかみ、昇降口へと走る。


 少女の目指す先は一階ではなく、学校の外。この騒ぎに乗じて、自分も被害者であるかのように振る舞いながら学校を出る作戦である。


 これまで毅然としていた少女も、切羽詰まっているためか若干息遣いが荒くなる。そんな状況で昇降口を出た二人の脚を、一台のヘリコプターが進行を妨害する。


 迷彩柄の飛行物体から出る重々しい羽音と、それにより吹き付ける風圧は、全身の筋肉を萎縮させるのに十分であった。左右の乗降用ステップ台付近には複数の銃身が束ねられたガトリング砲がそれぞれ設置されていて、攻撃態勢であることが分かる。


 ヘリコプターが校庭の砂に足を着けると、扉が開き、中から先ほど綾瀬先生に化けていたブロンド美女がマシンガンを持って現れる。


「このマーガレット様を怒らせたらどうなるか、見せてやんよ!」


 彼女の名前はマーガレットというらしい。怒りの根源は少女に創人を取られたことはその場にいるものからすれば容易に想像がつく。


 また、一度逃げられただけで強引な武力行使に出るあたり、彼女はかなり短気であることも想像がつく。


 マーガレットは二人にめがけて無数の弾丸を発射しはじめた。


 少女と創人はマーガレットに背を向け、全力疾走で校舎内へと戻る。これまでずっと引っ張られる形で移動し続けていた創人も、今回ばかりは命の危険を感じ、自ら率先して逃げ隠れた。


 当然、マーガレットもこのまま終わらせるわけがなかった。二人の道筋を一歩ずつ、大地に足を付けながら追っていく。


 マーガレットの影におびえ、創人は慌てて上の階に逃げようと思った。しかし、少女が襟をつかんで阻止する。


「ダメ。上に行ったら逃げ場が無くなる」


 深刻な表情をしながらも、少女は場を冷静に分析していた。


「じゃあどうすれば……」


 迫っているのは武器を抱えた攻撃的な女性、武器らしい武器のない創人にとって、逃げる以外の選択肢は存在しなかった。


 少女は創人の問いを受けると、目線を彼の股間へと移動させた。


「確認させて」


 少女はしゃがみ込み、創人のズボンのファスナーを開けた。白と青のストライプ柄のトランクスが露出させ、さらにその奥に潜むブツを手に取った。


「またそれかい!」


 創人は大事なソレを勝手に表舞台へと出されてしまった。少女が自分のソレに強い執着心を持っていることは言うまでもない、彼女のこの行動も突飛(とっぴ)に感じることはなく、むしろこの状況下でも一貫していることに対するツッコミとなった。


「まだちょっと硬い……」


 先ほどの接触行為による悦びの余韻が創人にはまだ残っていた。


 持っている者にしか分からない感覚であるが、この状態のナニは非常に敏感である。一目見た限りでは平然を保っているように見えても、少しの刺激ですぐに最大体積にまで膨張してしまうのである。


 そんなことはつゆ知らず、少女は状態を確認すべるために逆手でソレをつかんだ。ゴムボールで握力を鍛える要領で力を入れては抜き、力を入れては抜き、何回か握っていると男根はすぐに硬直し、自己主張をするように前方にそり上がった。


「お願いだから会話してくれって!」


「これ、抜ける予感がする」


 やはり少女は会話のキャッチボールを行う気がない。


「なっ……! 今じゃないでしょ! というか本当に俺の話聞く気ないの?」


 そんなやりとりをしている間に、マーガレットが校舎に入り、二人を発見する。

 マシンガンの銃口は二人に向けられ、トリガーに人差し指がかかる。


 少女がマーガレットに気付いたのは引き金が惹かれる直前であった。


「抜くよ!」


 命の危機が目の前に迫っている状況、これを乗りこえるための術は、少女にはたった一つしかなかった。


 根元を強くつかむと男根はまぶしく発光し、その存在が異形であることをその場にいる者たちに知らしめる。


 少女は力いっぱい引っこ抜く。創人の秘部から白い発光体が分離した。



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