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28:最後の決断

「クソッ……」


 ホーパーは受け身の姿勢を取らざるを得なかった。ツグミコからのテレポートによるサポートを受けられず、究極体の猛攻を耐え忍ぶことしかできなかった。


 〈スモーク〉


 ツグミコは負けずに煙を再度放出するが、再度かき消される。

 距離を取れた隙にホーパーは両手に構えた銃で弾丸を発射、しかし攻撃はまるで効いていない。ついには残弾がゼロとなり、徐々に究極体が優勢になっていく。


「いつまでこんな泥仕合を続けるつもりかな?」


 究極体はホーパーを岩壁まで投げ飛ばした。ホーパーは背中を強く打ち、地面へと転げ落ちる。仰向けになったホーパーの背中を、追い打ちをかけるように踏み潰した。


「グウゥ……! アァッ!!」


 アーマーの耐久も限界に達している。胸が圧迫され、弾けてしまいそうな痛みがホーパーを襲う。ついにはアーマーが妙な機械音と共に火花を散らした。


 ホーパーは戦闘不能になった。指先が微かに動くだけでどうみても戦える雰囲気ではない。

 一体仕留めたところで、究極体のターゲットはツグミコへと変更される。


「お前の場所は……上か!」


 これまでフィールド内を動き続けてもツグミコが見当たらないことから、究極体は彼女の居場所が上空であることを確信した。


 その言葉と同時に、脚を折り曲げて踏み切った究極体は、斜め上へと跳躍した。

 飛んだ先が正確な場所であろうとなかろうと、一定範囲内に究極体が来れば、魔剣の力が失ってしまえばそのまま地面に落ちてしまう。ツグミコに突発的な危機が迫る。


 〈テレポート〉


 間一髪、ツグミコはフィールドに足を付けた。広い空間のちょうど中心、究極体は舌をみてその移動を確認する。


「チィッ……!」


 究極体はぶつかりそうになる壁を勢いよく蹴り上げ、再びツグミコの元へ襲撃する。


 〈テレポート〉


 今度は相手が来るのを完全に予想していたツグミコは、究極体に背中を見せたまま再度瞬間移動した。


「うおおおおおおおおおお!!」


 そのタイミングで創人が雄たけびを上げ、ブリザードランチャーのミサイルを発射した。

 創人はずっとフィールドの奥側で構え続けていた。アマプターの後部に載せられたボックスをブリザードランチャーに変形、アマプターを支えにしながら、引き金に指をかけて究極体が照準の先に来るのを待ち続けた。


 引き金を引く合図はツグミコが地上に降りた時。まさにその状況になったため、創人はためらいなくトリガーを引いた。


 ブリザードランチャーを使用すると同時に、ツグミコはテレポート。そして彼女のいた場所に究極体が降り立った。


 目論見通りに究極体にミサイルが直撃、対象を一気に氷漬けにする。さらに周囲に冷気が広がっていく。


 〈ヒート〉〈ウィンド〉〈ウィンド〉


 ツグミコはこの冷気を熱風で中和し、その冷気は究極体の周囲のみでとどまった。

 これが夜鳥の考えていた勝利法である。ミサイルを当てられるのか、周囲に被害は出ないか、そういった懸念点をツグミコとの協力で乗り越え、見事に成功した。


「やった……やったのか……」


 ミサイルの反動で後方に吹き飛んだ創人が、よろよろとしながらフィールドのほうをのぞいた。作戦通りに凍った究極体を見て、ひと安心のため息をついた。


 倒れていたホーパーもゆっくりと起き上がり、壁に寄りかかって深呼吸を始めた。命の危険を顧みず、隙を作ろうと尽力した姿に、創人は尊敬の念を抱かずにいられない。


「はぁ……はぁ……。こっちのほうは任せてくれ。そっちのほうは……頼む」


 腕を上げ、親指を立てるホーパー。


「……はい!」


 創人は目線をツグミコへと向けた。彼女もまた自分のほうを見つめていた。


 〈ジェット〉


「じゃあ、お先!」


 目が合った矢先、ツグミコは魔剣の力を使った。フィールドの先にある比較的細い道を進み、二人との距離を離していく。


「あっ、待った!」


 すかさず、創人もツグミコを追った。




 一本道であったので、創人は洞窟を迷わず走ることができた。暗い道の先には、再び広々とした空間が見える。


 夢中で走っている創人は、足元を見ていなかった。


「どあああああっ!!」


 何かにつまずき、顔面を地面に強打する創人。幸い地面は土であったため、血を流すようなことはなかった。


「イタタタタ……」


 鼻を抑えながら起き上がると、真横にはツグミコが立っていた。足を引っかけたのも彼女である。


「見て。あれがスブシストリクオル」


 ツグミコは指を指したのは、青々とした半透明の物体であった。一般的な大仏をやすやすと飲み込んでしまいそうな直方体がどっしりと実在していた。


 物体はぼんやりと光っていて、空間内を照らしている。周囲には何もなく、ただの空洞にイグノトゥスがぽつりと置かれた不思議な場所であった。


「あの中では時間が止まる。完全に入っちゃうと一生出られなくなる」


 魔剣の刃はその物体に浸っていた。物体にはヒビが入っている様子もなく、完全に魔剣を受け入れているように見える。


 スブシストリクオルがスライム状のイグノトゥスである、という説明を創人は思い出した。固体のように存在しているのに、触ると液体のように中へと侵入できる。

 その理屈は分からない。まさに科学を超越していた。


「俺が突っ込まないように足を掛けたってわけ? もうちょっと穏便に済ましてほしかったな」


「本当はね、あなたをここに入れようって思ってたの。だから連れてきた。でも、気が変わっちゃった」


 ツグミコと会話のキャッチボールができないのはもう慣れている。創人は、目を輝かせて液塊を見る彼女の姿を、ただぼんやりと眺めていた。


 沈黙が少し続いた後、ツグミコ液塊に近づき、魔剣を引き抜いた。


「これで、エクシトゥスパータは力を抑えられる」


 魔剣の表面に液塊が付着し、ちょうど剣の(さや)のようになっていた。刀身の臙脂が透けていて、鞘が紫色と錯覚させられる。

 ツグミコは石化した右手で鞘をツンツンと叩いた。液塊が付着することなく、固形化していることが分かる。


「へぇ……」


 創人もツグミコの元まで足を運んだ。


「これからのことだけど……私と一緒に来ない?」


 背中を向けたままツグミコはまた新たな提案をした。彼女は創人に対し、何か光るものを感じていたのである。


「俺が……うつむくと思ってるのか?」


「エクシトゥスパータに頼らず男になれるとしたら? そういうイグノトゥスがあれば可能だし」


 くるりと振り返るツグミコ。魔剣自体を返すつもりはなかったが、創人が自分に付いてくるメリットがあることを掲示する。


「…………」


 黙り込み、目線を逸らす創人。


「まぁ一生女として暮らしたいならあっち側に行っても……」


 と、ツグミコが話している最中、創人は彼女の左手をはたいた。とっさの事態にツグミコは全く対応できず、魔剣を手放してしまう。


 すかさず創人は魔剣をつかみ、ゲームのローリングの要領でツグミコと距離を取った。


「へっ……! やっと一枚上手になれたぜ!」


 創人はツグミコに向けて剣を突き出し、奪ったことを誇示した。


 想定のしていなかった展開にツグミコは驚き、顔を歪ませる。


「俺の気持ちは変わらない。ツグミコ、俺はお前を夜鳥さんたちの元に連れていく。取り返したければ……来い!」


 出口に向けて創人は全力疾走を始めた。回収部隊の元にツグミコを連れて行くのは難しいと思い、彼女が追って来るように仕向けようと考えた。それが、この作戦である。


 つまり、鶴城創人は再び追われる選択肢を選んだのであった。


「……はぁ。そういう道を選ぶのね」


 あきれた顔をし、ツグミコも走って創人を追いはじめた。


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