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21:ツグミコvsホーパー

 鶴城響子・蓮・轟の三名が昏睡(こんすい)状態から回復し、意識を取り戻した。再度事情聴取を行い、それにより新たに判明した事柄を次に記す。

 なお、事実関係の確証は取れておらず、回収部隊としても体制の立て直しができていないため、待機命令が続くことには変わりはない。

 魔剣は鶴城家の家宝であった。起源は分からないが、代々長女が生まれると魔剣を父親から受け継がせるという風習があった。魔剣を挿し込まれた長女の肉体は男となり、男として育てられる。長女が成人し、女性の配偶者を得ると、娘が授かるまで営みに努める。

 自分の娘に魔剣を受け継がせる理由は魔剣を無効化できる体質が、魔剣の子種によって生まれた人間のみに宿るからである。

 また、魔剣には副次効果が存在する。それは、挿入された人間の肉体ががっしりと筋肉質になり、身体能力も高まっていくというものである。魔剣を挿入している期間が長いほどこの効果は顕著に現れる。現在の魔剣挿入者である鶴城創人は、幼少期に虚弱であったが、成長するにつれて強健になっていたそうだ。

 さらに挿入期間が一定期間を超えると、魔剣を抜いても男性的な体つきを維持できるようになる。加えて、自らの外見を猛獣のように変化させることもでき、この状態を究極体と鶴城家では呼称している。究極体は見た目だけでなく、身体能力も人間離れした状態になる。

 そして、鶴城家は究極体になった父親によって代々家計が支えられていた。鶴城家の経営している企業グループが優位になるよう、究極体の力を用いて、裏で恐喝や殺人を繰り返していた。これらの行為を効率よく行うため、父親は代々娘を授かった後に行方不明となり表向きから姿を消していた。

 響子の配偶者である零斗(れいと)も生きている。響子との連絡が取れなくなったため、この事態を察知している可能性が高いという。




 自分の打った文章に誤りが無いか、深山は確認をしていた。


「改めて書くと……、どこから説明するのがいいのかよく分からんなぁ……」


 誤字脱字のチェックのつもりであったが、文章構成のほうが気になり始める深山。顎に手を当て、喉仏からうなり声を挙げて頭を悩ます。


「わたくしたちの本部破壊事件に関する部分は入れましたか?」


 金色はひょっこりと深山がにらんでいる画面をのぞいた。


「あー、そっか~。まぁその辺は無くてもいいんじゃない? 大体察せるだろうし」


「ダメだと思いますわ。報告は正確にしなくてはいけません」


 先輩であろうとも金色は食い下がらない。いい加減な節のある深山には特に強気に出ることが多かった。


「それ以上に報告は迅速に行わないと。夜鳥的に知りたい情報が詰まってれば十分だって」


 深山も譲ろうとはしなかった。


「そういうものかしら……? 平田さんはどう思いますか?」


 話が平行線になるのを懸念し、金色は平田に加勢をしてもらうことにした。

 平田はオフィスチェアに座って腕を組み、目を閉じている。一見、寝ているように思えるが、平田は起きている。彼は人前で寝ることができない人間であり、そのことは周知の事実として知られているのだ。


「……二俣の報告書を添付するのが一番だろ」


「うっ……それが迅速正確でしたわね」


 思わぬ回答に金色はぼうぜんとした。深山も豆鉄砲を食らったかのようにきょとんとした顔になった。暇を持て余すと、つい無駄な作業をしてしまう。そんな現象に二人は無意識の内に陥っていたと気付いた。


「どうする? そうする? 結構時間かけたけど……」


「えっと……その判断は深山さんに任せますわ」


 ビルの一室で行われた、ちっぽけな対立に終止符が打たれた。




 ホーパーに銃を向けられたツグミコは、地蔵のようにじっと固まったままだった。来たるべきチャンスを待ち続ける。


 お互い一歩を譲らぬ状況に音を上げたのは創人であった。


「ツグミコ、諦めよう!」


 ホーパーの後ろからひょっこりと顔を出し、創人はツグミコを説得しようと試みる。


「この人は別に悪い人じゃない。話し合えばいい折り合いが見つかるはずだから!」


 創人からすれば二人とも争うべき敵ではない。二人とも、自分の体質のことを知っている数少ない理解者である。そんな二人が戦うのはどうしても避けたかった。


 さらに熱がこもった創人は足が進み、ホーパーの左横に移動しようとする。ところが、ホーパーが左腕を伸ばして創人の動きを止めた。


「待て! 動いちゃダメだ!」


 その一瞬、わずかにホーパーの注意がツグミコから創人へ移ってしまった。

 ツグミコはホーパーの目線が逸れたことを見逃さない。


「隙、発見」


 常備している煙玉を袖から取り出し、ツグミコはホーパーたちの目をくらませた。それからアマプターのアクセルを踏み、ツグミコは創人にめがけて突進した。創人とホーパーの位置関係をしっかりと記憶していたため、ツグミコに迷いはない。


「ぬわあああああぁっ!?」


「ありがと。いただいちゃった」


 創人の横を走り抜ける一瞬で、彼の手首を的確にはたき、魔剣を手に入れたツグミコ。不適な笑みを浮かべたが、それを見る者はいなかった。


 ツグミコは相手に反撃の隙を与えぬうちに攻撃に転じる。


 〈スリーブ〉〈ウィンド〉


 以前、創人の家族を眠らせた技と同じものである。ツグミコが剣を振るうと強風が吹き、創人とホーパーを襲う。


「危ない! クゥ……!」


 ツグミコの放った風は、ホーパーたちを囲っていた煙をはらいのけた。剣を持った彼女を視認し、ホーパーはすぐさまこの風が魔剣の攻撃によるものだと察知する。創人の体質を知ってはいたものの、反射的にホーパーはかばった。


 創人はただ煙が散っただけで風を感じられず、目の前で起きていることを脳で処理できていない。彼を待つことなく時勢は進む。


「直接当てないとダメなのか……」


 ツグミコの目論見は外れていた。響子たちの例から言えば既に意識を失い、眠りに入らなくてはいけない。

 剣の力を使われると、ホーパーも様子見で済ませられない。ホーパーは構えていた銃のトリガーを引き、彼女の手首を目標に弾丸を飛ばした。


 〈テレポート〉


 ツグミコは攻撃を先読みしていた。弾丸が飛ぶ直前、ホーパーの真後ろに瞬間移動しようと念じた。


 ホーパーは逃げたのだと感づき、ツグミコが消えたと同時に振り返る。しかし、それも彼女には読まれていた。振り向いた瞬間。顔を覆うマスクに剣先が当たる。


 〈アスポート〉


 ホーパーは後方の森の中へと転送された。


「こんなこともできるのか……!」


 自身ではなく、他の物体を転送する能力。ホーパーは魔剣で行えることの全貌を把握しきれていないので、対処がどうしても遅れてしまう。それでも諦めず、遠方にいるツグミコたちを見つけると、そこに迫ろうと暗闇を駆けた。


 ツグミコはなんとか作り出した合間に、創人と逃げようと試みる。


「さ、いまのうちに」


 創人の手を握るツグミコ。魔剣を空に向けてジェット噴射で逃げようとするが、創人に刃をつかまれ、力を抑制された。


「待った、逃げちゃダメ……ダメだと思う」


 創人は真剣なまなざしをツグミコに向けた。

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