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20/28

20:黒幕登場

 ツデレンもまた森の異変に気付き、この場所までやってきたのである。

 髪はきれいに結われていて、入浴中であったことは容易に想像がつく。


「お、おう……」


 ツグミコがなぜここにいるのか気になったが、詳しく尋ねる時間がなかったので聞かなかった。


 彼女から渡されたのは小瓶型のイグノトゥス、インフォルマラゴエナである。旅館までの移動中に各イグノトゥスの使い方を聞いていた創人は、すぐに小瓶でどうすればいいのか察しがついた。


 中に入っている水を一滴残らず飲み干し、創人は青白く光る神秘的な液体に体を変化させた。

 液体化した創人は豪速で魔剣の元まで駆けより、それを包み込む。このタイミングで元に戻り、魔剣の柄をしっかりとつかんだ。


「おわっ!?」


 宙に浮いたままの創人は、重力に引っ張られてそのまま尻もちをついた。


「いったああぁ……!」


 尾骶骨に振動が響き渡り、ジンジンとした痛みが尻全体に広がっていった。

 創人の前にホーパーが駆け寄る。


「創人君……大丈夫か?」


 少し驚きながらも、ホーパーは創人に手を差し伸ばして立ち上がらせた。創人は地面にぶつけた尻を庇うように、ゆっくりと立ち上がる。


「ところでさっきの能力だが……別の科学許容外品か?」


 人知を超えた能力に疑念を持ったホーパー。創人がこくりとうなずくと、ホーパーはくるりと背後へ振り向いた。


「…………」


 ホーパーの目線の先にはツグミコが映っていた。ツグミコは創人が液体化していた間にアマプターへと近づき、そのシートに尻を乗せていた。


 ツグミコもまた、ホーパーと創人をじっと見つめていた。手はハンドルに添えていて、逃走の準備は整えているようである。


 沈黙が一秒もたたない内に、ホーパーは右腿に装填していた小型拳銃を取り出し、ツグミコに向けた。


「彼女が、君を連れ回していた忍者の子だね?」


「あ、そうです……」


 警戒している様子のホーパーを見て、弱弱しい返事をする創人。


 ホーパーからすれば、ツグミコは捕捉対象である。自分たちよりイグノトゥスに詳しいと思われる存在のため、情報を提供してもらうという目的と、イグノトゥスの収集や使用を勝手行っているため、それを抑制させるという目的である。

 ゆえに、ツグミコを逃がすわけにはいかないし、創人を連れ去られるのはもってのほかである。ホーパーは銃を向けなくてはいけなかった。


 しかし、ツグミコからすれば両方とも自分にメリットのない、むしろ自分の束縛につながるものであるため、なんとしても拒絶したかった。銃を向けられた上に創人もホーパー側にある関係で、身動きの取れない状況の最中、どうにかしてこの状況を逆転できないか、頭を回転させていた。


(すごい修羅場って感じ……)


 張りつめた空気に創人は心が落ち着かない。


 ホーパーも、ツグミコも、じっと身を構えながら、相手の出方をお互いに様子見しているのであった。




 その頃、夜鳥の携帯電話に一報を入れようとしている者がいた。


 回収部隊の一人、深山である。避難先となるビルの一室にて、安楽イスに座りながら夜鳥が出るのを待っていた。


 避難先は小奇麗な事務所のようになっている。これは、もともと回収部隊の第二班のために用意された施設であった。第二班は情報の正確性が確かでないイグノトゥスの調査や情報収集を行う班であり、その行動範囲は全国多岐に渡る。そのため、拠点も全国各地にあり、その中の一つを第一班の面々が借りているのである。


「……音信不通だな。真面目なアイツがどうしたんだろ」


 待ちかねて通話を絶つ深山。夜鳥が切羽詰まっている状態だとは知る由もなく愚痴をこぼす。


「案外、運良く青年を見つけているのかもしれませんわ」


 同室にいた金色が冗談を言う。これが真実であるとは、誰も思わなかった。


「……そういうことにしておいてやろうぜ。どうせ、俺たちが動けないのは変わんねえんだ」


 無口な平田は口を開く。腕を組んで修行僧かのようにじっと固まっていた彼が、言葉を発したのは二時間ぶりである。


 現在室内にいるのは金色、深山、平田の三人である。二俣や鬼は他の班や上層部などとのやり取りを多々行っていて多忙である一方、三人は特に役割は与えらず、焦慮に駆られている状態であった。


「せっかく鶴城家から話を聞けたっていうのに……」


 そんな彼らにも新たに得た情報を知ることができた。午後三時頃、創人の家族三人が目を覚まし、二時間ほどの休憩を与えた後、二俣が再び事情聴取を行い、魔剣や鶴城家の新たな情報を手に入れたのである。


「でしたら、メールでお伝えしましょう」


「そうだな……あんまし文字打つのは好きじゃないけど」


 少し気だるい顔をしながらも、深山はパソコンを立ち上げ、文章を打ち始めた。




 マーガレットに創人の殺害を依頼した人物は芽球雲湖に向かっていた。


 彼の名前は藤沢(ふじさわ)、とある企業の役員である。目的は鶴城創人の魔剣であったが、表向きにそんなことは言えず、殺し屋に勃起させた状態で殺してほしいと片っ端から頼んでいた。十数人と断られた後、マーガレットが初めて依頼を承諾してくれた。


 さかのぼること二時間前、藤沢はマーガレットからもうすぐ殺害が完了するという連絡を受けた。一刻も早く魔剣を手に入れたかったため、彼は急いで車を走らせていた。さらに先ほど、魔剣を手に入れたという一報を受け、気分はかなり高揚している状態であった。


 そんな藤沢も、待ち合わせ場所に近づくと異変に気付く。湖の反対側から待ち合わせ場所を見ると、なぜかそこは静寂な自然とは不釣り合いな炎が灯っていた。遠目かつ薄暗い環境であったため、藤沢は状況の把握ができない。


 一度火が消えたかと思うと、今度は白い煙のようなものが湧いてくる。


「何が起きているのでしょう……?」


 藤沢は魔剣の具体的な力を知らない。そのため、一連の怪現象が魔剣によるものだとは思ってもみなかった。


 妙な現象を見てしまうと、期待より不安が勝ってくる。藤沢は怖くなっていったん停車し、マーガレットの電話番号をコールした。


「出なさい……出なさい……! あなたのような方でも今は頼れるのですよ……!」


 藤沢はマーガレットが死んだことも知らない。恐怖で手をどんなに震わせようとも、相手がいない以上電話がつながることはない。


「四六時中役に立たないのですね……」


 通話を諦める藤沢。本人の存じぬ所でも愚痴を吐いてしまうのは、癖として染み付いてしまっている証拠である。


 藤沢が思い通りにならない苛立ちから歯ぎしりをしていると、後方から異様な圧を感じ取った。


「だ、誰です?」


 振り返ると、そこには屈強な肉体を持った大柄な人物が見下ろしていた。


 その背丈は二メートルを優に超えており、近くに来られるとその大きさがより一層伝わってくる。四肢は規格外に太く、歯や爪は獣のように鋭利にとがっている。鋭い眼光、獅子の如く逆立った毛髪、その外見は人間というより、化け物に近い。


「私だ」


 怪物のような見た目に反し、巨人は人語を解している。ドスの利いた低音がはっきりと耳に入り、藤沢はおののく。震えた足は起立の維持ができなくなり、尻もちをついてしまった。


「あ、あなたがなぜここに……」


 藤沢は目の前にいる巨大な存在に心当たりがあった。


「剣を奪おうなんて考えは良くないな」


 親指、人差し指、中指、三本の指を器用に使い、巨人は藤沢の首をつかんだ。そのまま持ち上げた後、指に力を込める。


「ぐふっ……!! あ、あが……あっ……」


 首が絞められることで気道が塞がれ、呼吸が困難になる藤沢。巨人の指を必死で剥ごうと爪を立てて抗うものの、結果が伴わない。


 さらに巨人が指に力を入れると、藤沢の首の骨は折れ、あっさりと逝去した。


「ふぅ……」


 巨人に罪悪感は一切無かった。むしろ、邪魔者を消せた達成感で、目元が穏やかになっていた。


「さて……あの二人にも諦めてもらわないとな」


 巨人が見た先は湖の奥側。ツグミコとホーパーが対面している場面であった。


次回更新は12/9です。

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