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11:回収部隊の基地

 エレベーターで一階へ移動し、両サイドを鬼と夜鳥に挟まれながら部屋へと案内される。建物の廊下は窓が一切なく、外部の様子を知ることができない閉鎖的な空間。天井照明により明るさは保っていて、奇麗に清掃もされているが、居心地の悪さを感じざるを得ない。


 案内された部屋に入ると、真っ先に正面に大きなスクリーンが視界に現れる。スクリーンを中心としてコの字型にテーブルが整列、その上にはコンパクトなパソコンや紙媒体が散乱している。そしてテーブル横に置かれたイスに、四人の男女が座っていた。


 案内した夜鳥と鬼を合わせて計六人が創人に注目する。


「おっ、来た来た。これが例の子かぁ」


 創人が部屋に入った途端、真っ先に近づいて話しかけたのは深山であった。


「ごきげんよう。まずはわたくしから自己紹介させていただきますわ」


 そのすぐあと、創人の反応をする真も与えずに金色が声を上げる。


「え? 自己紹介から始めるの?」


「あら? 何も名乗らずに話を聞くなんて無礼ではありませんか?」


 と、創人そっちのけで深山と金色は会話を始めてしまう。そんな二人を制したのは色黒の男性が手を叩く音であった。


「悪いが自己紹介は後だ。無礼だとしてもね」


 パンパン、という音が部屋に響くと、深山と金色の声はピタリと止まった。色黒の男は足を組んで座っていて、目線はやや下を向いていた。彼の近くにはさまざまなデータや映像の流れるディスプレイがいくつも設置されていた。


「鶴城創人君だね……君の基本データは既に僕らで共有しているから名乗る必要はない」


 男の名前は二俣、チームの司令塔に当たる存在である。彼は口角を上げて創人に話し始めた。


「適当なところに座って話を聞いてくれ。あ、君は色々聞きたいことがあるはずだが後にしてほしい」


 質問を挟む道を妨げられた創人は、近くのイスに座り、名前も知らない男性の話を渋々聞き続けることとなった。


「最低限のことだけは言っておこう。われわれは科学許容外品回収部隊……活動内容は組織名の通りだ。科学で説明のつかない危険な品物を回収する」


 かなりの早口でまくしたてるように話す二俣。創人は一部聞き取れず聞き返したいところであったが、二俣の喋りは止まらず、会話を挟む間を見つけられなかった。


「そしてその科学許容外品に関して、君はかなり重要な情報を握っている。そのせいで女に誘拐され、口車に乗せられて一緒に行動していた……間違っていたら訂正してくれ」


 話すスピードが少し落ちたため、今度は創人もしっかりと聞き取れた。


「いや……大体そうです。でも俺は情報を握ってるとかじゃなくて……」


 初対面の人六人の前で言えるような話ではない。真相を語るのに躊躇(ちゅうちょ)するのは必然であった。


「自覚ありとは限らねえ」


 即座に回答したのは部屋の隅にいた平田(ひらた)方正(ほうせい)。頬に傷跡のある強面はその口調と驚くべき程調和していた。目を合わせようともせず、腕を組んで壁に寄りかかっていた。彼は射的能力に優れていて、ツグミコの運転するバイクにライフルで弾丸を打ち込んだ張本人であるが、創人はそんなことを知る由もない。


「あぁ、まぁ確かに自覚はないっす。でも何というか……う~ん……」


「なーんか、言葉に出すのも恐ろしいって感じだね。ま、あんなの見ればなぁ……」


 深山は何か言いたげな創人の気持ちを汲み取ろうと優しく迫ってくる。


「その……信じてもらえないかもしれないんですが……」


「その点なら問題ありませんわ。科学許容外品、もう慣れっこですから」


 今度は金色が言った。髪をかきわけながら自信ありげな表情を見せてくる。


「うんうん。金色ちゃんの言う通り。私たちは今、あなたを信じる以外の選択肢はないから」


 創人の肩を叩く鬼。周りから温かくされればされるほど、無駄に話のハードルが上がってしまうので、深山たちの作る空気感は逆効果なのであった。




 らちが明かなくなり、恐る恐る創人は話した。自身の男根を引き抜くと強大な力を持つ剣になること、剣を抜かれると自分が女になること、自身の女穴に剣を入れることで男に戻ること。


「……悪い、信じられないわ」


 深山は冷めきった目で呟いた。平手を左右に振って、信じる気概が全くないことを示した。


「私も……脳の理解が追い付きませんでした」


 夜鳥も複雑な表情をして深山に同意する。気を遣っているのか、深山ほど直接的な素振りは見せない。


「よくそんな話をする気になったな」


 平田は目を合わせようもせず、辛辣(しんらつ)にあしらう。


「仮に本当でも人体への冒涜って感じよね」


 鬼からポロリと出た感想も手厳しいものであった。


「…………」


 金色に至っては、耳の裏まで真っ赤にして固まり、黙ったままだった。


 先ほどまでの友好的な姿勢は陰り、冷えた反応に創人は手のひらを返された気分であった。そんな中、二俣だけは違っていた。


「みんな驚きすぎだよ。人体に影響を与えたり、擬態をしたりする許容外品は過去のケースにもあっただろう。すこしセクシャルな物体になっただけで常識の範囲内だ」


(常識ってなんだろう……)


 言葉の一部に疑問を持ちながらも、信じてくれた二俣に感謝の気持ちを覚える創人であった。




 その後も自分の知っていることを全て話した創人は、回収部隊の施設に泊まることとなった。


「今日は協力ありがとう。おかげで状況が大きく進展した」


 創人のお目付け役となったのは夜鳥である。回収部隊の中で初めて創人と対面した人物であるため、比較的打ち解けやすいだろうという理由に基づいている。


「こちらこそ、ありがとうございます」


 よそよそしさが満天の状態で創人は軽く頭を下げる。


「まだ実感は湧かないだろう……。しばらくここで暮らすのは堅苦しいかもしれないが、何かあれば気軽に私たちに話してほしい」


 創人が複数人から狙われていると知り、回収部隊は安全が確保できるまで、創人を保護することになった。


 安全確保の基準は〈許容外品目的で第三者に狙われなくなり、健康的な生活ができる〉となっている。魔剣の力を抑えるイグノトゥスの在処や、女体化した健康への影響を含め、問題が山積みなため、創人が解放される見通しは経っていない。それでも安全を保障すると言われ、ひとまずは肩の力を抜くことができた。


「この後だが……現在君の家族に事情聴取をしている。特に問題が無ければ君との面会が予定されている」


 夜鳥の言葉を聞き、一度抜けた力が再び引き締まる創人。


「えっ……!? 本当ですか!」


 家族――それは創人が一連の出来事の中で最も気にしていたものである。自身の安否を伝えたい、家族に被害が被っていないか知りたい、心の中で渦巻いていた感情が爆発し、夜鳥に掴みかかって反応する。


「ああ、そして今夜はここに泊まってもらう予定だ。もちろん、部屋は個別で用意してある」


「兄ちゃんたちや母さんは何て言ってましたか!?」


 創人は焦燥感が高まり切った状態で詰め寄った。


「それはまだ私の耳には入っていない。直接聞くのが一番だろう」


 無心な顔のまま、淡々と夜鳥は対応を行い、創人を落ち着かせた。




 それから創人は無機質な大部屋へと案内された。

 夜鳥はツグミコの追跡中に起こしてしまった損害報告の用事があったため、大部屋を離れることとなった。夜鳥にこの場で待っていてほしいと言われ、創人はだだっ広い部屋に一人佇むこととなる。

 味気のない部屋で一時間近くじっと黙り込んだまま座り、家族を待ち続けた。


「創人!」


 母、響子の声がした。


 振り向くと母と兄二人、家政婦二人、創人と一緒に暮らす家族が集まっていた。


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