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職業は、暗殺者専属の運転手です  作者: 円寺える


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第46話

「クソ、死ね!!」


 田舎は星空がよく見える。空気が澄んでいるからか、街中よりも無数の星が美しく闇に浮かび上がっている。そんな星たちを綺麗だね、と眺める暇もなく目の前を走る車に引き離されないようついて行く。

 助手席ではマルクがライフルで発砲し、タイヤに穴を開けて車の動きを鈍くする。

 車から頭を出す馬鹿はいないようで、リアガラスに何発も撃ち込む。


 先日の面接で、立ち入った瞬間にマルクが撃ち殺した女の仲間を追いかけているところである。

 あの女は小さな組織の諜報員だった。回収班からの連絡により、女は変装マスクをしていたことが判明し、素顔の写真を送付してもらうと見覚えのある顔だった。マルクに記憶させられた情報の中にあったその顔と一致。小さな組織が無謀にも潜入しようとしていたが、潜り込む前に殺されてしまった。

 このことをマルクは知っていて殺したのかとサツキが聞くと「クソみたいな目はクソ程見てきたからな」とのことだった。同類は嗅ぎ分けられるのか、とサツキは一つ学んだ。生憎、サツキは同業を嗅ぎ分けることはできない。暗殺者ならではの嗅覚だと思っている。


「お、まずは一人」


 スピードが出なくなった車の運転席が開き、人間の頭が出たところで一発撃ち込んだ。

 マルクが撃ちやすいように速度を一定にし、車体がぶれることなくハンドルを持つ。


「あと一人が出てこねえな」


 再びライフルを構え、スコープを覗く。

 車内に残った一人は死んだ男を見て狼狽え、大口を開けている。パニックになり扉に手をかけた男は道路の真ん中から飛び出す。


「おい、そのまま轢き殺せ」

「えっ?」

「やれ」

「はい」


 轢き殺せと指示されるのは初めてだった。

 海に車ごと転落させたことはあっても、愛車を人間と衝突させて殺したことはない。

 この会社に入り、仕事内容を聞いた時から薄々こうなることを予想していた。自分が直接手を下すことはないだろうとも思っていた。

 人殺しに加担しているのだから、今更人を轢き殺すくらいどうということはない、はず。


 心を無にできればいいが、緊張と不安が渦巻く。

 マルクに聞こえないように小さく息を吐き、道路から逃げようとする男を目掛けて一気にアクセルを踏んだ。

 逃げる男。速度を上げる車。男の顔が近くに見えた。

 死が迫ることに恐怖した人間の表情。死にたくないと、その表情が語っている。

 男の顔から視線を逸らすと、大きな衝突音がして、車が揺れる。


「ナイス」


 口笛を吹いて楽し気に笑い声を上げるマルク。

 轢いた。人間を、轢き殺した。

 殺した実感はない。愛車が当たっただけで、命を奪った罪悪感は少ない。

 あるべきはずの死体を見るため、バックミラーを見るが、道路の上に血があるだけだ。

 その血液は、愛車の後ろからずっとずっと続いている。

 そういえば、なんだか走行中の音もおかしい。


「一旦車を停めます」

「あ?」

「なんだか妙な音がしますので」


 なるべく現場から離れた場所で停めたいが、早く確認をしたかった。

 路肩に停めて、車体の後ろにまわりこむ。


「こっ」


 これは、死体か。

 赤く続いていたものは、愛車に引っかかっている死体から出ていたものだった。

 首から上がもげており、血は首から流れ落ちている。


「なんだこれ、邪魔だな」


 驚愕しているサツキを気にすることなく、車に巻き込まれている男の死体を無理やり車から離す。皮膚が傷つき、また新たな箇所から血液が垂れ流れる。

 死体がアスファルトに横たわるとマルクは手に付着した血液を死体の服で拭き、助手席に戻った。


「おい、早くしろ」

「は、はい」


 死体を見るのは初めてではない。今までだって、目の前でマルクが何人も殺してきた。それについて何も思わなかったが、自分の運転で人間の命が奪われ、頭部が胴体から切り離されているのを見ると、罪悪感が少しずつ体を蝕んでいく。


「なんだ、その顔は」


 運転席に乗り込み、発進しようとしているとマルクが肘を窓に付け、言った。


「善人みたいな顔しやがって」


 苛立っている。

 人間を殺した少しの罪悪感を察知し、サツキを睨みつけた。

 善人のつもりはない。善人か悪人の二択ならば自分は後者であると、サツキは自負している。マルクからすると、罪悪感を少しでも抱いた時点で善人なのだろう。それならば、今のサツキは善人である。


 いつの間にか取り出していた拳銃の銃口をサツキの米神にぴたりと当てる。


「言っておくが、俺は綺麗事と善人が嫌いだ。反吐が出る。お前が善人と言うなら今ここで殺す」


 今まで何度かこういう展開があった。

 マルクの地雷を踏み、殺されそうになる場面が。

 今、はっきりと分かった。善人である素振りが、地雷なのだと。

 過去に何かあったのか不明だが、ここまで嫌悪する相応の理由があるのだろう。ただ嫌い、ただ腹が立った、ということならばここまで睨みつけはしない。


「私は、善人のつもりはありません」

「どうだか」

「自分の車で直接人に傷をつけて殺したことはなかったので、緊張しただけです」


 嘘は言っていない。本当のことだ。


「…まあいい。帰るぞ」

「はい」


 マルクが満足する答えではなかったようで、表情は変わらない。サツキに触れていた拳銃は、マルクの懐に戻された。

 仕事柄、罪悪感を抱くべきではない。当然、抱くことはなかった。ここにきて、初めて抱いた。

 善人になるな、罪悪感を持つな。それが自分を守る術だから。


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