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職業は、暗殺者専属の運転手です  作者: 円寺える


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第25話

 指定された倉庫前に停車させると、マルクが「行くぞ」と声をかけたのでサツキも倉庫の中まで同行する。

 薄汚い倉庫には、鉄パイプが多くあり、どれも黒ずんでいる。

 マルクの後ろをついていくと、転がっているドラム缶に腰をかけている人物がいた。その横にはスーツを着て立っている人影がある。

 倉庫内は薄暗く、目が慣れるのに少しだけ時間を要したが、慣れると二人の顔に見覚えがあった。


 ホテルで会議をしていた時にいた、態度のでかい男と白髪の執事みたいな男。

 幹部のブロックとその運転手だった。


「貴様、その遅刻癖をどうにかしろ」

「いいじゃねえか。ほら、詫びだ」


 先程購入した煙草をポケットから取り出し、投げ渡した。受け取ったブロックは顔を顰めている。好みではなかったようだ。


 何分待たせてしまったのかは知らないが、どうやら遅刻をしてしまったようでサツキは冷や汗を流す。

 もしや、マルクのスケジュールを把握しておいた方がいいのか。ブロックの怒りが自分に飛ばないよう、身を縮める。


「貴様はいつもいつも遅れてくるではないか。待たされる人間の気持ちにもなれ」

「いいから早く本題に入れよ」


 聞き飽きた、と言わんばかりに片手を振る。

 マルクと仕事をする際、待たされたことがないサツキは初めてマルクが遅刻魔だと知った。思えば、ホテルでの会議もマルクが最後であったし、公衆トイレでの取引も先に誰かが来ていたようだった。

 マルクが遅刻しないようスケジュール管理をすべきか悩むところではあるが、管理なんてしたくないので聞かなかったことにしておこう。


「鼠はリチャードで間違いないな」

「あぁ」

「殺すのは容易いが、お前はどう殺したい?」

「なんで俺に聞くんだ」

「貴様の犬にリチャードを任せたからな。貴様の意見くらい聞いてやろう」


 犬、とはサツキのことだ。

 犬呼ばわりされて嬉しいとは思わないが、自分は人間だと主張する気は起きない。

 あながち間違いではないからだ。慣れとは怖いものだ。


「研究部が新薬を開発したがまだ正式に使ったことがないんで、それを使う予定だ。別にいいだろ?」

「新薬?あぁ、あの脳みそがイかれちまうやつのことか」


 サツキは初めて聞く話だった。他職種と関わることなんてそれほどないので、新薬の情報は当然入手できないものだ。

 脳みそがいかれる新薬。恐ろしい。そんなものをリチャードに投与しようと考えるマルクを、人体に風穴開けるだけではなくそういった使い方も好きなのだなと白い目で見てしまう。

 ブロックの運転手をちらっと窺うと、穏やかな表情を崩さず立っていた。


「鼠は貴様に任せる。それと、これも貴様に任せる」

「あ?」


 ブロックはメモリーカードをマルクに投げ渡す。


「人身売買の件だ」

「他の奴にやらせろよ。俺、そんなに暇じゃねえから」

「貴様、仕事の選好みとは感心せんな」

「俺が好き嫌い激しいの、知らなかったのか?」

「任せたからな」

「要らねえ、返す」

「仕事は平等に振り分けている。貴様一人が忙しいわけではない」


 そう言って運転手を連れて倉庫を出て行く。

 薄暗い中に残された二人はマルクが一歩踏み出したのをきっかけに、その場を立ち去った。

 放置していた愛車に乗り、発進させるとマルクが大きく舌打ちをする。


「あー、うっぜえ」


 先程渡されていたメモリーカードについてだろうか。仕事が増えたようで苛つくマルクを横目に、声をかけようか迷う。


「おい、ラボに行け」

「はい」


 迷っているとマルクから指示を出されたので、従う。

 ラボはここから車で一時間もかかる。苛つくマルクを乗せて一時間はきつい。


「お前、ラボにコネはあんのか」

「いいえ。回収班と回収の電話をするくらいです」


 機嫌は悪いようだが、八つ当たりはされない。


「じゃあこれを機に作っておくんだな。俺は解剖班に野暮用があるから、一人で新薬貰って来い」

「はい?」


 解剖班は研究部の所属なので当然ラボの中にいる。しかし、新薬を貰いに行くのは薬品班だ。たった一人で立ち入ったこともない薬品班の元へ行けというのか。

 どうやって新薬を貰うのかも、ラボ内のどこに行けばいいのかも分からない。

 扉の中までは入ったことがある。それより先には進んだことがない。


「新薬をください、と言えば貰えるんですか?」

「連絡は入れてあるから、俺の名前を出せば貰える」

「承知しました」

「間違っても飲むなよ。ぶっ壊れてえなら飲んでもいいが」

「飲みません、飲みませんよ」


 誤飲してしまうくらいに小さな薬なのか。せめて包装くらいはしてあると想像しているが、もしかして裸のまま手渡されるのか。

 恐ろしい仕事を任されてしまい、マスクを持ってくればよかったと後悔する。誤飲さえ防げれば問題ないのに。

 それよりも、そんな恐ろしい薬に触れてもいいものか。触れた途端に爛れるなんてことはないだろうか。


「おいおい、クソ面白え顔だな」

「いつもこの顔です」

「ハハ、脅し過ぎたか?」

「いつもこの顔です」

「そうかよ」


 給料のためだ。多少の危険は我慢しなければならない。

 専属になって給料は上がるが、総合的に考えるとメインが一番よかったかもしれない。専属よりも給料は低いが、その分危険も少ない。

 脳みそがイく新薬を取って来い、と命令されることもない。

 降格したいとは思っていなかったが、今後の仕事内容的にはそう思う日もくるかもしれない。


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