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旅立ちの日

 ミーフィアが帰ってきたのはそれから3日後、ガクとアピスが鍛錬をしている朝の事だった。


「あれ?ミノスはどうしたんだ?」


「ここに一緒に戻ってきても、またすぐに連れていかなきゃいけないから、それって面倒じゃない?だからミノスの事は置いてきたわ。そうそう、ミノスから伝言よ。「成長して俺より強くなってこい」だそうよ。」


 強くなってこい・・・か。道のりは険しそうだな。それより・・・


「なんでわざわざ町を出てから、龍化するんだ?戻ってくる時も町の外から来たみたいだし。」


 その言葉を聞いたミーフィアはガクにとって嫌な思い出しかない悪魔の笑顔(デビルスマイル)をしている。それを見たアピスはガクの事を置いて逃げていくのだった。


「あのね?龍化する時は着ている服を脱いでから龍化するのよ?そうじゃないと服が破れて着れなくなるでしょう?それでもガク君はこの場で私に裸になれっていうのかしら?」


「いや、知らな・・・すいませんでした。」


 この状況でガクが何を言っても悪い未来になる事を悟ったガクは、ひたすらミーフィアに謝り倒すのであった。


 ようやくミーフィアの許しを貰い、ウィリアムに最後の挨拶をしに家に向かう。といってもこれが最後の別れというわけではないが。


「ミーフィアが帰ってきたようじゃのう。という事はそろそろ出るのか?」


「あぁ。行ってくるよ。ウィル爺も今までありがとうな。これが最後ってわけじゃねぇけどな。」


「そうじゃな・・・厳しい道のりだろうがアストリア様がガクを選んだのだからきっと出来るはずじゃ。儂もそう信じておる。」


「成長して必ず帰ってくるよ。そういえばスーは?」


 いつもうるさいくせに今日はやけに家の中が静かだな・・・。


「はて?そういえば朝からスーの姿を見てないのぉ・・・こんな時に何処に行ったんじゃろうな。儂からスーには言っておく。暗くなる前に砂漠を超えねばきついじゃろうからスーの事は気にせずに行ってきなさい。」


 スーにも勿論1週間後に旅立つ事は伝えていた。その時から少し元気がないような気がしてガクはスーの事を心配していた。


「スーにも挨拶したかったけど、しょうがねぇか・・・。じゃあ行ってくる。スーにもよろしくいっておいてくれよ。」


 ガクがヒアステリアから新たな地に向かうために町の門に向かうと、そこには大勢の住人達が見送りに来ていた。


 皆から暖かい言葉をかけられながらガクとアピスは次の地に向かう事になる。


「そろそろ行こうか、アピス。皆!行ってきます!!」




「結局、スーお姉様に会うことはできませんでしたね。何処にいったんでしょうか?」


「そうだな・・・スーがいたらヒアステリアから出るのも遅れただろうし、夜になるまでには砂漠を超えないと行けないから、丁度良かったんじゃねぇか?」


 強がってこそいるが、内心ガクは少し寂しい気持ちになっていた。会えばすぐに言い合いをして喧嘩になっていたが、ガクにとってスーは気兼ねなく話せる友人であった。


 いざ居なくなり静かになると、それはそれで何かが足りないような気持ちになる。その事に関してガクは絶対に認めないだろうが・・・。



 この辺りの魔物は今のガクとアピスにとっては相手にならないので、魔物が襲ってきたら狩りつつ順調に砂漠を進んでいった。



 ガク達が順調に進んでいる頃、ウィリアムはスーの事を探していた。



「スーの奴め、見送り位来ればいいものを・・・ガクがここから出る事を聞いてから少し様子が可笑しかったからのぅ。気持ちはわからんでもないが・・・。」



 町の何処を探してもスーが居ないので、ウィリアムはスーの自室に来ていた。



「スー、部屋に居るのか?・・・ん?なんじゃこれは。」


 スーの自室のテーブルの上には1枚の紙が置いてあった。


『ウィル爺様、突然ですが私は乙女をさらに磨き上げる為、旅に出る事にします。立派な乙女になりましたら帰ってきますので、暖かく見守っていて下さい。決してガクに付いていくわけではありません。』


「スーの奴め・・・。」そう呟き、呆れながら天を見上げた。



 2人の姿が辛うじて視認できるかどうかの距離に、何者かが2人の後をつけている。先ほどからその者の気配に2人は気付きつつも放置していた。



「アピス、気付いてるか?」


「はい。兄さま。誰か後ろから着いてきていますね・・・。」


 いつからかは分からないが、アピスはガクの事を”兄さま”と呼ぶようになった。ガクがいくらその呼び方をやめろと言ってもやめないので、今では好きに呼ばせている。


「魔物・・・か?いや、魔物だったらなんで襲ってこないんだ?この辺にそんな知性のあるような魔物は居ないはずなんだが・・・。」


「もう少し様子を見ますか?襲ってきたなら対処すればいいだけでしょうし。」


「そうだな。こっちが気付いている事を気取られるなよ?」




 辺りが薄暗くなる頃にようやく砂漠地帯を抜け、山の麓まで来ることが出来た2人。


「よし・・・なんとか暗くなる前には抜けれたな。アピス!今日はここで野宿するぞ。」


「分かりました。僕は薪になりそうな物を探してきます。」


 さて、俺は今日の寝る場所でも作るか・・・。


 土魔法で作っても良いんだけど、今日はこの岩壁をくり抜いて洞窟にでもするか。とりあえず、範囲を指定して地形変化(テレインチェンジ)で岩を砂に変えて、後は魔法で強めに風を送れば・・・・ゲホッゲホッ・・・!!


 自分に砂がかかっちまった。少し強くやりすぎたか?まぁこれも経験だな。


 でも、初めてにしては良い感じに洞窟になったな。後は魔物除けの魔道具だけど・・・アピスが嫌がるから今日は交代で見張りをするしかないか。


 アピスが薪を拾ってきて夕飯を食べ終わった頃にはもうすっかりと暗くなり、月の光があるのみで周囲はほとんど見えない。


「まだ気配があるな・・・襲ってくるとしたら今夜だな。しかし本当に魔物なのか・・・?」


「どうでしょうか。魔物の線は薄いと思います。」


 そうすると考えられるのは・・・いや、まさかな。


 ガクはスーを思い浮かべたが、すぐに頭から消し去った。というのも、スーもガクに付いていくと宣言していたが、ウィリアムからガクの邪魔になるからと着いていくのを禁止されていたからだ。





 2人がそんな話をしている頃、夜の砂漠の中で凍えている1人の人物が居た。


「さ、寒い・・・こんな事になるなら、ガク達が町から出た時に合流すれば良かったッ!!」


 その人物とはスーである。当初は何気ない感じでガク達と合流する予定だったが、あまりにも町から近すぎると追い返される可能性もあるので、少し町から遠ざかってから合流する事にした。


 しかし、町から離れるにつれて声を掛けるタイミングを失ってしまい、今に至るという事だ。


 昼とは違い夜の砂漠はかなり冷えるし、夜行性の魔物がうじゃうじゃいる為、非常に危険である。


「あいつらめッ!!私がこんなに寒い思いをしてるというのに、焚火でぬくぬくと暖まりおってッ!!・・・今はそんなことを考えてる場合ではないな・・・なんとかしないと私は凍死してしまう。」


 先程も言ったが夜の砂漠は非常に危険だ。昼は砂漠の中に潜り寝ている魔物も、夜になると活発に動き出す。


 スーが1人で考え込んでる少し後方で砂漠がゆっくりと盛り上がって行く。地面から顔を少し覗かせ大きな瞳で辺りを見回している。その瞳が前方にいるスーの姿を捉えた。


 獲物を見つけた魔物は、砂の中をゆっくりと進みスーの傍まで近づいてくるが一向にスーは気付かず、1人でブツブツと呟いている。


 スーが異変に気付いた時にはもう魔物は砂の中から大きな口を開けて、丸飲みにしようとしていた。


 間一髪でスーは魔物の攻撃から逃れるが、その魔物を見て驚いていた。


 砂漠の中から飛び出してきた魔物は、【毒地竜(ポイズンドラゴン)】だ。昼間には活動せずに地中の中で寝てすごしているが、夜になると地表に出てきて狩りをする。


 下級の竜だがその強さはこの砂漠にいる魔物の中でも3本の指に入るほどの強敵だ。巨体とは思えない程の身軽さに加え、毒のブレスまで放ってくる。


「このッ・・・でかいだけのトカゲが私を食べようなどと生意気なッ!!」


 スーは2本の曲刀で攻撃をするが、相手の体表が固く大したダメージを魔物は負っていなかった。だが、もし相手の攻撃が1度でもスーに当たればもう一巻の終わりだろう。


 ウィリアムがスーをガクと一緒に行かせなかったのには理由がある。勿論、未だ剣の修行中の身という事もあるが、ガクがこれから向かうであろう場所に問題があったのだ。


 山の向こう、人間たちからすると魔の大陸だが、そこの魔物はこの砂漠よりもはるかに巨大な魔物が多く存在しており、そして強力だ。

 目の前にいる魔物クラスは平気でそこら中を歩いており、今のスーでは太刀打ち出来ない相手ばかりなのだ。


 それでも果敢に曲刀で切りつける。相手にはダメージなど入っていないのに。なぜ魔法を使わない?スーは身体強化以外の魔法を使えないからだ。細かく言うと、戦闘で使えるような火力のある魔法が使えないのだ。これが、ウィリアムがスーを行かせない1番の理由であった。


「ぐッ・・・このッ!!」


 スーも何とか魔物の攻撃を避けてはいるが次第に動きが遅くなってきた。その瞬間を魔物は見逃さず長い尻尾でスーの事を吹き飛ばした。


「ガハッ・・・うぅ・・・。」


 尻尾を避けることが出来ずに真面にくらったスーは砂塵をあげながら数十メートルも吹き飛ばされてしまい動けずにいる。



 ゆっくりと魔物はスーに近づき大きな口を開けスーを丸飲みにしようとした瞬間、潰れた。


 道路によく潰れている虫などがいるが、あのように一瞬でグチャリと音をたてて魔物が潰れたのだ。


「騒がしいと思って来てみれば、やっぱりスーかよ。立てるか?」


「ガ・・・ガク・・・?ぅ・・・一体・・・何が起きた・・・ッ?」


 スーは魔物が口を開けて自分に迫って来ているのを見て死を覚悟していた。それなのに自分は生きて目の前の魔物が急に居なくなって、傍にはガクが居る。もうわけが分からなかった。


「これは・・・うん。骨には異常はなさそうだな。ほら、口開けて魔法薬でも飲め。言いたいことは山ほどあるが・・・とりあえずここから離れるか。」


 まだ歩けそうにはねぇな・・・しょうがない。俺が抱っこして持っていくしかねぇか・・・。



 スーの事をお姫様抱っこをして持ち上げると、意外にもいつものように文句を言ってこずに、ただ黙ってガクに抱えられていた。


 野営地に戻ってきたガクとスーの姿を見て、アピスは状況を飲み込めず呆けた顔をしていた。


 何もアピスが驚いているのはスーが居る事についてではない。アピスももしかしたらスーが付いてきているのでは?と思っていたからだ。それなのになぜ呆けているかと言うと、暴れもせずにただ黙って俯きながらガクにお姫様抱っこをされているからだ。


「スーお姉様が・・・大人しく抱っこされてる・・・。」


「ん?スーはケガしてるからな。多分それでだろう。一応魔法薬は飲ませたから、骨には異常はないようだし1日寝れば良くなるだろ。」


「ケガをしてるからじゃないんじゃ・・・。」アピスは喉元まで出かかった言葉を無理矢理飲み込んだ。


「体調はどうだ?まだどこか痛むか?」


「・・・さっきよりは大分マシになった。勝手について来てごめんなさい・・・助けてくれて、ありがとう。」


 スーの落ち込んでる姿を見て、ガクは色々言いたい事もあったが、もうどうでもよくなっていた。


「どういたしまして。今日は俺とアピスが見張りするから、スーはもう休んでろ。」


「・・・うん。」


 さて、どうするかな・・・町に戻るように言ってもスーは戻らないだろうな・・・。


「アピス。スーを町に帰した方が良いと思うか?」


「・・・スーお姉様は絶対に戻らないと思います。もし本当にウィリアム様がスーお姉様が旅に出る事を認めないのであれば、連れ戻しに来ると思います。」


「んー・・・今の時点でウィル爺が来ないって事はそういう事なんだろうな・・・・。しょうがねぇ、スーも一緒に連れてくか。」


 その後は魔物の襲撃もなく、無事に朝を迎えることが出来た。



「おはよう。良く眠れたか?」


 太陽が昇り始めた頃にスーは起きてガクの元にやって来た。いつものように元気いっぱいではなく、真剣な表情に見えた。


「おかげ様でな。・・・なんで何も言ってこないんだ?私はガクに迷惑をかけてしまったのに・・・。」


「はぁ・・・らしくねぇな。そんなに静かだとこっちの調子が狂う。いつもみたいに五月蠅い位がスーは丁度いいんだよ。」


「ッ・・・誰がいつも五月蠅いだッ!!貴様にそんな事を言われる筋合いはないッ!!」


「そん位叫べるんだったらもう身体も大丈夫そうだな。アピスが起きたら山越えするから準備しとけよ?」


「私もついて行っていいのかッ?!」


「今更だろ?ほら飯の準備手伝えよ。」


「分かったッ!!コロガリバッタを探してくるッ!!」



 ダンジョンの中に飛ばされてから今日まで、色々な人と出会いそして経験してきた。ガクにとって本当の旅がここから始まることになる。この先に待ち受けている試練をガクは無事乗り越える事が出来るのだろうか。

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