ガクの異常性
くたくたになりながら帰るとリビングでウィリアムが寛いでいた。
「そんな疲れきった顔をしてどうしたのじゃ?」
少し心配そうに聞いてくるウィリアムに自分が疲れ切っている理由をガクは説明した。
「最初はミノスも魔法袋に入ってる肉を全部ミンチにしろとか言ってきてさ、それがもうとんでもない量でさ・・・こんな時間にまでなったってわけよ。」
「なんじゃ。ミノスの奴と仲良くやっておるようで良かったのぅ。しかし、あやつが本当に稽古をつけるとは意外じゃったわい。」
そんな意外なのか?と聞くと、ミノスの性格上、弱い奴とはやる気がしないらしく基本的に断るらしい。例外はアピスだけで、アピスには修行を付けているらしい。
「じゃあ俺は貴重な体験をしたって事か。全然相手にもならなかったけどな。しかし、ウィル爺も教えるの上手いけどミノスも教えるの上手いんだな。」
「本能で生きておるからあやつの直感は馬鹿にはできんぞ?直感でガクに可能性を感じたのじゃろうな。・・・教え方が上手い?そんなはずはないと思うのじゃが・・・。」
「だってさ、ミノスにコツを教えてもらったらでかい石をこの剣で切れるようになったんだぞ?」
「まさか・・・いや、疑ったわけじゃないんじゃ。少し驚いてな。剣は刃こぼれしなかったか?」
そういえばまだ見てなかったな。刃こぼれは・・・・大丈夫そうだな。あれ?
ガクは自分の剣を見ていると不思議なことに気付いた。ウィリアムから貰った普通のロングソードだったが剣の色が少し黒ずんでいることに気付いた。
「その剣、恐らくじゃが半分魔剣化しておるようじゃな。ガクは剣に魔法を纏わせて戦闘をしておったからそれが原因じゃろう。」
「そういえば最近刃こぼれも全然しなくなったし、魔力の通りも良かったんだよな。魔剣・・・響きがカッコいいな。」
「もうそろそろ、スーの奴が買い物から帰ってくる頃じゃぞ?朝食の時みたいになるのが嫌ならば自分で作った方が良いと思うぞ?」
それを聞いたガクは調理場まで急いで駆け込み、夕飯もミンチしておいた肉でハンバーグを作るのであった。
さて、確認する事ができたな。ミノスの所に顔を出しにいくかのぅ。恐らくガクが石を切れたのは武器の性能ではないじゃろうな・・・。
ガクが必死に夕飯の準備をしている頃、ウィリアムはミノスの家の前に来ていた。
「誰かと思ったら珍しいな。もしかしてガクの事か?まぁ入れよ。」
この様子じゃとミノスの奴もガクの異常性に気付いておるだろうな。
ミノスにリビングに通されソファーに座った2人はガクの事について話し出した。
「俺はもう酒飲んでるけど、ウィリアムも飲むか?この間旅に行った時いい酒を貰ってよ。久々にどうだ?」
「そうじゃのう・・・では頂くとしようか。【人間化】」
ウィリアムが魔法を唱えると骸骨であった身体に肉がつき生前のウィリアムの姿がそこにはあった。
もうすぐ60歳に差し掛かろうかという見た目だが、その眼光は鋭く覇気が溢れるその姿はまさに武人。
「この姿になるのも久々じゃのぅ。骨のほうが面倒な事が少なくて済むからな。」
「久々って・・・ガクにも見せてないのか?」
「タイミングがなかったのじゃよ。いつかはこの姿をみせて驚かせてみるのも面白いかもな。」
ミノスから酒を注いでもらい2人は久々に酒を飲み交わしていた。
「ところでお主が稽古をつけてやるなぞ珍しいな。ガクも教え方が上手いと言っておったぞ?」
「稽古をつけたのはなんとなくだよ。教え方・・・か。俺はただコツを伝えただけだ。人間だったお前に聞くけどよ、本当にあいつはただの人間なのか?」
真面目な表情で聞いてきたミノスに、少し考えこんだ後ウィリアムは「分からぬ。」と答えた。
ウィリアムも当初はガクを警戒していた。普通に考えれば人類未踏の地のダンジョンの中に人間が、それも武装していない人間が居るなんてことはまずありえない。
「じゃが、悪しき者ではない事はこの数か月一緒に過ごしたからそれは儂が保証する。しかし、人間・・・か。お主が言っておるのは異常なまでの成長の事を言っておるのじゃろう?儂もそれは目の当たりにしてるからな。ガクと会った時は武器を手に持ったことすらなかったのじゃ。それが今ではこんな短期間のうちにここまで成長しておる。普通の人間にはありえないことじゃ。」
「ちょっと待てッ!剣を握って数か月・・・?」
「そうじゃ。お主が手取り足取り教えた事でもう【心眼】まで会得したそうじゃのう。今のガクなら身体強化なしのお主も切れるじゃろうな。」
「試してはないが間違いなく切れるだろうな。次やる機会があったら攻撃を避けないとまずいな。・・・ウィリアム。お前はダンジョンに行って帰って来たんだよな?何処でガクとあった?」
やはり聞いてきおるか・・・誤魔化す事はミノスの様子を見る限り無理そうじゃのう・・・。
ガクは特に隠してるつもりは無さそうだが、ミノスに伝えてもいいものかウィリアムは悩んでいた。無論ミノスの事は信用は出来る。出来るのだが自分の口からガクがアステリアに異世界から連れてこられた事を言うのは違うと想っていた。
「儂の口からは言えんな。直接本人に聞いてみるがよい。始めに言っておくが、ガクが言ってる事に嘘はない。」
「そうか・・・なら今度あったら聞いておくか。」
時は少し遡り、ウィリアムがミノスの家に到着した頃、ガクは必死になってスーが戻ってくる前に夕飯を作っていた。
そんなガクの頑張りも玄関から聞こえてくる「ただいまなのだッ!!」という声で全てが終わる。
まだガクはハンバーグを捏ね終わったばかりで、焼いてすらいないのだ。そんな絶望感に包まれる調理場にスーは現れる。
「お帰り。買い物でもしてきたのか?」平静を装いながらスーに話しかけるがスーはジッとガクの方を見て何も答えない。
な、なんだ?スーの様子がおかしいぞ・・・?
具合でも悪いのかと心配になったガクは大丈夫かと声をかけようとした。
「朝はお嫁さんなどと言われて少し、ほんの少しだけ動揺してしまったが、こうして見るとやはりガクはジャガイモにしか見えないなッ!すまんが私はジャガイモとは結婚はできないのでな、他を当たってくれッ!」
「あ、はい。」
・・・・いつも通りで安心したわ。
「ところで私の聖域に無断で入り込んで一体何をしてるのだ?ほぅ・・・これは見た事がない料理だな。なるほど・・・朝食のお礼という事だな?今日の夕飯も私が作ろうと思って食材を買い込んできたが、食べてやろうではないかッ!!」
危なかった・・・よく分からんが勘違いしてくれて助かったぜ。
「後は焼くだけだからちょっと待っててくれ。それと、結構料理するの好きだからさ、俺の分まで飯を作らなくてもいいからな?」
「私の全力(朝食)を持ってしても胃袋を掴めていないだとッ?!な、なんという強靭な精神を持っているのだッ!!き、狂人か、貴様。」
「いや、どう捉えたらそんな事になるんだよ。よし・・・出来たぞ。食べてみてくれ。そういえばさ、この町にパンとかあるのか?」
パンさえあればハンバーグももう少し美味しく出来るし、ハンバーガーとかにも出来るからあればいいんだけどな。
「パン?なんだそれは?私が知らないということは虫ではないな。そんな事より食べてみる事にしよう。」
こいつに聞いたのが間違いだったな・・・ウィル爺にでも後で聞いてみるか。
「にゃるほどにゃ(もぐもぐ)・・・にゃかにゃか(ごくんッ)美味いではないか。肉を細かく切る事で柔らかく、噛めば噛むほど肉汁が溢れ出てくる・・・これは私の料理にも使えそうだな。」
こいつ今どうやって食った??早すぎて良く見えなかったけど、舌をのばして一口で食ったのか・・・?
「そうか・・・美味かったなら良かったよ。じゃあ俺も食い終わったしそろそろ「待て。この料理を食べて私の頭にピカーンとレシピが浮かんだのだッ!それを食べていけ。男なんだからまだまだ食べれるだろう?」
ガクは逃げることも出来ずに、結局スーの新作料理【虫尽くしハンバーグ】を食べることになってしまったのだった。
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