虫料理
「これがッ!私のッ!全力だッ!(朝食だッ!)」
食堂のテーブルにはそれはもう見事な料理が並んでいた。
「スー。ちょっと俺が知らない料理?だらけだから、一応心のじゅ・・・料理の説明をしてくれるか?」
見渡す限り虫だらけだぞ?!こ、これは料理と呼べるのか・・・?
「どうやら私の料理に興味があるようだな・・・よかろうッ!!まずは前菜の【砂漠サラダ~サンドアントの卵添え~】この卵がプチプチして、新鮮なサンドレタスと非常にあうのだッ!!次は・・・」
長々とスーが料理の説明をしていたからまとめるとこんな感じだ。
前菜 【砂漠サラダ~サンドアントの卵添え~】
スープ 【サンドスコーピオンのポタージュ】
魚料理(虫) 【タガメガメの蒸し焼き】
肉料理(虫) 【デスワームのステーキ】
デザート(虫)【コロガリバッタのアイス】
虫だらけ・・・地球でも虫を食べる文化はあるけど、俺は食ったことはないし・・・腹は減ってるけどこれを全部食わなきゃいけないのか・・・?
「あのさ・・・なんか、俺の方がスーより量が多くないか?」
「ミノス様が食べずに行ってしまわれたからな、その分をガクに足してやっただけのこと。私は乙女だからな、そんなに食べられないのだよ。冷めてしまうと味が落ちてしまうからなッ!!さぁ、思う存分喰え!!」
こんな時に限って乙女とか持ち出しやがって!!本当に乙女な奴は自分で言わねーんだよ!!・・・食べなきゃ何を言われるか分かったもんじゃない。腹括って食うしかないか・・・まずは無駄にネーミングセンスに拘っているサラダから行くか・・・。
「ぅ・・・あれ?・・・美味い?」
「そうだろう?その卵を噛んだときの食感に加え、卵のクリーミーさがサンドサラダと絶妙に会うのだ。」
いや・・・飯食うのはやッ!!スーの奴、もう食べ終わってるじゃねーか。乙女面しやがって、この似非乙女め。しかし、今回の朝食は次のスープが鬼門だな・・・ようは虫を細かくしてポタージュにしたって事だろ?誰だよこんな料理考えた奴は・・・まだ虫を煮込んだスープとかの方がマシそうだぞ?
「ポ・・・ポタージュだッ!!色は茶色で、きたな・・・個性的な色だけど、これは俺が知ってるポタージュそのものだ・・・。」
「それは私の自信作ッ!!・・・と言いたい所なのだが、料理のレパートリーを増やそうとしていて悩んでいた時に、ミーフィアが助言をくれてな。なんでも人間の町ではその、ポタージュなるものが良く食べられているらしくて、それを参考にしたのだッ!!」
犯人はあいつか・・・でも、なんでミーフィアは人間が食べている料理とか知ってるんだ?本当に謎だ・・・。
魚料理(虫)の【タガメガメの蒸し焼き】の見た目はまんまタガメだった・・・亀みたいに固い甲羅を持っていることから名付けられたらしい。蒸してる事で身が柔らかくなってて、魚の白身みたいで普通に美味かった。
肉料理(虫)のデスワームの見た目はもはやでかいミミズだな。これを虫と言っていいのかは分からないけど、俺にとっては今はそれどころではない。
美味いんだよ・・・肉料理というだけあって、噛み応えもあるし、例えるなら牛の赤身のステーキみたいな感じ。これは一番真面な見た目だったから大丈夫だと思ってたけど、やはり俺の目に狂いはなかったな。
最後のデザートは、スーが握りしめていたあのバッタだ。これもすり潰してアイスにしたらしい。
見た目はグレーで所々バッタの足が「こんにちわ」してるから勿論、食欲はそそられなかったが、少し苦みのあるアイスって感じだった。
最初は絶対に見た目からして無理だと思ってたけど、見た目さえ我慢すればどれも味は抜群に美味しかった。
「あーもう腹がいっぱいだ。すげー美味かった。ありがとうな、スー。料理までできるなんて、ちょっとびっくりしたよ。将来は良いお嫁さんになりそうだな。」
「お、お嫁さんだとッ?!誰が貴様のような虫けらのお嫁さんなんかになるかッ!!気持ち悪いッ!!それにだな・・・私と人間との間に子ができるかどうかも・・・」
うん。自分の中の世界に入ってるみたいだから、スーの事は無視をしておこう。
「ウィル爺。そういえばさ、俺もいつまでここにいるかは分からないし、翻訳の魔道具作ってた方がいいよな?」
「そうじゃのう。あれば便利ではあるな。頼めるか?」
今日は魔道具作りをするか。ネックレス型にしたいからそこはミーフィアに頼めばいいか。
「じゃあ、ミーフィアの所で魔道具作ってくるよ。ネックレスを作ってほしいし。」
そういうわけで、スーがまだ自分の世界でブツブツ言ってるうちにミーフィアの店に行くとするか。
ミーフィアの店に行く途中、この町の住人に「昨日は大丈夫だったか?」と話しかけてもらったりしたり、屋台の亜人にカワラワニの串焼きをもらったりと、町の住人は俺に良くしてくれた。
そんな些細な事に、気分良く良く歩いているとミーフィアの店に着いた。
蛙の尻尾の扉を開けると、ミーフィアが店のカウンターに座って本を読んでいた。
「あら?こんな早くに1人で来るなんてどうしたの?」
ガクが声を掛ける前にミーフィアは呼んでいる本から目を離さずに聞いてくる。
気配だけで人数と人物まで当てれるのかよ・・・とんでもねぇな。
「悪いな。頼みごとがあってさ・・・もしかして邪魔か?」
「そんなことないわよ?私も丁度、ガク君に見てもらいたい物があったから。とりあえず、先にそちらの用事を済ませちゃいましょう。」
俺に見てもらいたい物?なんか気になるけど先に頼み事でもするか。
「昨日、ミーフィアに見せた魔道具あるだろ?それをこの町の住民の為にウィル爺が欲しいって言うから作るんだけど、俺には装飾品作れないからさ、ミーフィアに作ってもらいたくて頼みに来たんだよ。」
「そういうことね。分かったわ。それじゃあ、作業部屋に行きましょうか。」
作業部屋に入ると、テーブルの上には綺麗に梱包された装飾品があった。
「これがガク君に見てもらいたい物なんだけど。どうかしら?」
「これ、俺が昨日作った魔道具をミーフィアが作ったって事か?・・・鑑定で調べたけど、やっぱりそうだな。1度見ただけで作れるとかすごいな。」
「そうよ。1日では装飾する所までで10個位しかできないけど、中々上手でしょう?ところで、ガク君は鑑定まで使えるのね。本当に多才ね。」
この人の本業は装飾品を作る事・・・だよな?けど、魔道具も作れる。本当に謎が多いな。
「多才って程じゃねーよ。そこまで珍しい魔法でもないだろう?見せたい物ってこれの事でいいんだよな?」
「作れたからガク君に自慢したくなっちゃったのよ。ふふッ。冗談よ、もし良かったら魔道具の方は私が作っておくけど、どうする?ガク君は他にやる事があるでしょう?」
「作ってくれるなら助かるけど・・・頼んでもいいか?他にやることって・・・俺、ミーフィアにそんな事話したか?」
「言った、というより見た、の方が正しいわね。今朝、ドリヤードと植林していたでしょ?」
なんだ・・・そっちの話か。てっきりウィル爺が俺の事を話したとか考えたけど、よく考えれば勝手にウィル爺が話すはずがないよな。
「なんだ見てたのかよ。確かにそれもやろうとは思ってたけど。」
「けど、って言うことは他にも何かやらなきゃいけないことがあるのね?」
普通に質問してるように見えるけど、なんか変なんだよな・・・誤魔化した方がいいな・・・。
「ん?ミノスに沼蛇の肉渡すの忘れててさ、魔力もまだ回復してないし先に渡そうかなと思ってさ。」
「そう・・・ミノスはあの肉が好きだものね。」
俺は駆け引きとか得意じゃねーからボロが出ないうちに一言二言話をしてミーフィアと別れてミノスの家に向かった。