ドリヤードとの共同作業
朝日が部屋の窓から入り込み、その光でベッドで寝ていたガクは目が覚めた。
大きく背を伸ばし、冷たく固い地面ではなく久しぶりにベッドで寝れたことによって、ガクの疲れは大分とれている。
昨日、夜中に起きた時は暗くて外の景色は見えなかったが、何気なく窓から見える景色を見ると、目の前には木々に囲まれた美しい湖がすぐ近くに見えた。
近くで見ると結構綺麗な湖なんだな。ん・・・・?あいつはドリヤードか?
昨日出会ったドリヤードが砂漠の地面に座り込み何かをしているのが見えた。何をしているのかはここからでは遠くて見えないので、朝の散歩もかねてドリヤードの所に行ってみる事にした。
部屋から出て1階のリビングに向かうと、どうやらウィリアムは1階には居ないようだった。
そんなに長い時間、外に居るつもりもなかったし、スーを起こして説明するのは論外。わざわざ探すのも面倒だったので、そのまま外に出る事にした。
朝日が昇ってまだ時間が経っていないせいか、少し外の肌寒さで身震いをしながら先程ドリヤードがいた場所に向かって行く。
途中で翻訳の魔道具を持っていない事に気付いたガクは、歩きながら魔石に魔法を込めておいた。
少し歩くとドリヤードの姿が見えてきた。しゃがみ込み、手のような部分を地面に付き何かをしているようだ。
「おはよう。こんな朝早くから何してんだ?」
『き・・・ふやす・・・でも・・・できない・・・』
ドリヤードの手元の地面を見ると、僅かに木の芽らしきものが出ているがドリヤードが軽く引っ張るだけですぐに取れてしまう。
「砂の地面じゃ難しいだろうな・・・あれ?俺の魔法ならなんとかなるのか?ちょっとドリヤード下がっててくれるか?」
ふと自分は地形を操作出来る魔法を使えるのを思い出し、早速使ってみる事にした。
範囲は最初は狭くていいな。木々や作物が育つような栄養豊富な土をイメージして・・・地形変化
ガクが魔法を唱えると砂の地面1メートル四方が土の地面に変わっていった。
この位の範囲なら魔力消費量もほんの少しだな、後は木が育つかどうかだけど・・・。
「ドリヤード。ここに今、木を生やす事って出来るか?」
ドリヤードは頷くと、ガクが魔法を使って土にした地面に手を置いた。すると土の地面から勢いよく木が生えていき、ガクの身長を超えた所で木の成長は止まった。
「え・・・?こんな一瞬で木が生えるもんなのか?これはちょっと予想外だな・・・。それより、この土にすれば木を生やせそうか?」
『おどろき・・・うん・・・これなら・・・だいじょうぶ・・・』
「そうか、なら朝飯の前の運動には丁度いいな。この辺一帯全部土に変えてやるよ。」
ドリヤードからのお願いもあり、ガクは魔力が尽きる寸前まで土の地面に変えていった。1時間もしないうちにガクは魔力が尽きそうになったが耕した地面の広さは約5万ヘクタール。簡単にいうと東京ドーム1個分の広さを耕したのだ。
ガクが耕し、ドリヤードが木を生やす。そうして1時間も経たないうちに森が出来上がっていてしまった。
「ぐぇ・・・気持ちわる・・・。やってるうちに楽しくなって魔力ギリギリまで使ってしまったけど、ドリヤードが喜んでる姿を見ると気持ち悪さも吹っ飛ぶな。」
先程まで砂漠だった場所にはまだ小さいながらも木が生えている。飛び跳ねながら喜んでいるドリヤードの姿をガクはぐったりと地面に横たわりながら見ていた。
『うれしい・・・がく・・・ありがと・・・』
そう最後に言い残しドリヤードはスッと消えどこかに行ってしまった。
「家に居ないと思って外を見てみれば、昨日まではなかった木が生えているから驚いて来てみればやはりガクの仕業じゃったか。」
いつの間にか傍にいたウィリアムはガクに話しかけてきた。
「仕業って・・・まるで俺がいつもなんかやらかしてるみたいじゃねーか。」
「自分の胸に手を当ててよく考えてみよ。自覚はないとは言わせんぞ?しかし、ガクの魔法はサンドシャークの時のように地面を固くするだけじゃなかったのか。このように柔らかい土にできるとはな。」
色々とやらかしている自覚は当然ガクにはあった。ただ単純に言われたから言い返しただけだった。
「朝起きて窓の外を見たらさ・・・」ガクは起きてからの事をウィリアムに説明した。
「なるほどのぅ・・・儂が初めてここに来た時は湖の周りにはもっと木が生えておった。時が経つにつれてこの大陸に砂漠が広がり、徐々に木々は減っていき、今ではここまで減ってしまったんじゃ。始めはもっと精霊達が居たんじゃが、このオアシスの環境を守る為に力を使い果たし今は木の中で休んでいるらしいのぅ。姿を出せるまでに力が残っているのは今ではあのドリヤード様だけなんじゃよ。」
「なんでこの場所にそんなに拘るんだ?ここから南には山を越えれば緑溢れる大自然だぞ?そこに行けば力を失わなくて済んだんじゃないか?」
「この土地だけでも守っている事を考えると何か精霊様達にも理由があるんじゃろうな。考えても分からんのじゃから次にドリヤード様に会ったら聞いてみるのがいいじゃろう。それでじゃな、ミノスがもう押しかけてきおってな、悪いが家まで来てもらえるかのぅ。」
太陽の位置を考えるとまだ朝7時前位だな・・・ミノス来るの早くないか?結局昨日の昼から何にも食べてないから腹が限界だ。朝飯でも食いながらミノスと会う事にするか。
ウィル爺に朝食の準備をお願いすると、少し言いづらそうに「スーが今準備をしておる。」と言われた。
なんだか嫌な予感が・・・昨日のバッタの事があるからなぁ・・・。
家の玄関を開けて中に入るとミノスがリビングのソファーに寛いでいた。
「よぉ、ガク。昨日は悪かったな。なんつーか、嫌な事思い出しちまってよ。体調はもう大丈夫か?」
「あぁ。その事はもう良いよ。昨日もウィル爺と話したけど、俺が弱いのが悪いんだよ。ただな、今は弱いかもしれないけど絶対にミノスより強くなってやるから、首でも洗って待っとけよ。」
「ぎゃはははははッ!!人間如きににそんな事を言われるのは初めてだな!首を洗ってか・・・中々面白い言い回しだな!気に入ったぞガク!!少し稽古をしてやるから表に出ろ。」
いでででッ!!腕を引っ張る力が強いんだよッ!!
「待つんじゃ馬鹿者がッ!ガクはお主のせいで昨日の晩御飯を食べていないのだぞ?まずは朝飯を食べてからにせい。」
時がとまったかのようにミノスはピタリと止まり、ガクの手を離しながら真剣な表情で振り向いた。
「ウィリアム・・・今誰が調理場に居るか分かって言ってるんだろうな?お前は食わないから分からんのだろうが、あんなゲテモノ料理なんか食えるかッ!!」
え・・・?やっぱりパンとか、そういうTHE朝食っていう感じのが出てくるんじゃないのか?
ガクは昨日のバッタを思い出し、無言で玄関から出ようとするが遅すぎた。
リビングの奥、恐らく調理場の方から慌ただしい足音と共にリビングの扉が開いた。
「ガクッ!!丁度いい時に来たな!今、朝食の準備が出来た所なんだ。ほらッ、ミノス様の分もあるのでご一緒にどうぞ!!」
「いや、俺はだな・・・直ぐに向かわなきゃいけない場所があるからまたの機会にさせてもらうぜ。そういう事だからガク・・・幸運を祈る。」
最後は小さな声で呟き、颯爽と玄関から走り去って行くミノスを見て、ガクも逃げようかと思い、言い訳をしようと思ったが左手をスーに捕まれて無理矢理食堂まで連れて行かれるのであった。