魔物の町ヒアステリア
近くまでくるとサンドシャークはゆっくりと止まり、背ビレから軽やかに飛び降りてきた人物を見てガクは驚いた。
背丈はガクのおよそ半分程で、その者の腰には2本の曲刀に、フード付きのコートを着ていた。
「ウィリアム様!!よくぞご無事で!!いつもより帰りが遅いので皆が心配していたのですよ?明日の朝までにお戻られにならなかったら捜索隊を組んで探しに行くという所まで話が進んでいたのです。しかし、本当に無事で良かった・・・。」
「まぁいつもより遅いかもしれんが、誤差の範囲じゃろう?心配しすぎなんじゃよ。そんなことよりもだな、スーよ。儂の隣にいるのがガクという人間なのじゃが「カエルが喋ってる?!」
困りながらスーと話をしているウィリアムの話を遮って、思わず叫んでしまったガクの事を今気づいたかのように、視線を向けるスー。
「貴様、頭が高いぞ!!私の事を見下しやがって、この虫けらが!まさか・・・ウィリアム様が遅れたのは貴様のせいか!?」
「いや、お前がチビだから見下した感じになるのはしょうがねぇだろ。ウィル爺、なんなんだこのカエルは?地球のカエルのほうがまだ静かだぞ。」
「ウィル爺・・・私でも言ったことのない呼び名で気安くウィリアム様のことを呼びやがってッ!!羨ましすぎる・・・貴様!!私と決闘をしろ!!私が勝ったら貴様は今すぐここから立ち去れ。」
情緒不安定すぎるだろ・・・なんなんだこのカエル。
困ったようにウィリアムの方を向くと申し訳なさそうな顔をしたウィリアムと視線があった。
「すまんなガク。スーは1度こうなってしまうと止められんのじゃよ。手っ取り早いのがスーと戦う事なのじゃが・・・今のガクではちと厳しいんじゃよな。時間はかかるじゃろうが、儂が説得するから少しの間、黙っていて貰えるか?」
申し訳なさそうにしているウィリアムの姿を見て、これ以上困らせたら悪いと思い、ガクはその申し出を了承した。
2人の会話が聞こえない位離れた場所でガクはウィリアムとスーの姿をなんとなくボーっとしながら見ていた。ウィリアムが困りながらもなんとかしようとしているのが分かる。
なんであのカエル、腰をくねくね動かしながらウィル爺と話してるんだ?ウィル爺の周りにはあんなめんどくさそうな奴しかいねぇのかな。
太陽が完全に西に沈み、辺りが真っ暗になり少し肌寒くなった頃、ようやくウィリアムはスーの説得に成功したようだった。
「ウィリアム様・・・ウィル爺様から事の経緯を伺った。ウィル爺様がどうしてもと言うのでな、【ヒアステリア】への滞在を許可しようではないか。ウィル爺様にしかと感謝するがよい!貴様が私とウィル爺様の2人だけの時間を邪魔したせいで名乗るのが遅くなったな。邪魔をしたことは不問にしてやろう。私の名は【スー】!!誇り高き砂漠の戦士であり、ウィル爺様の1番の愛弟子である!!貴様にスー様と呼ぶことを特別に許してやろう。」
サンドシャークの背ビレの先端に乗りながら話していることにより、少し、ほんの少しではあるがスーはガクの事を見下ろす事に成功していた。
あまりのスーの言いように困ったガクは視線をウィリアムに向けるとがっくりと肩を落としていた。
「・・・ありがとな。俺はガクだ。スーよろしく頼むよ。」
せっかくウィル爺が頑張って説得してくれたんだ・・・我慢我慢。まともに相手してたら門の中に入るのが明日になっちまう。
「それではウィル爺様、この虫けらのせいで時間をくってしまいましたね。今日はウィル爺様がご帰還ということでいつもの場所で皆待っております。さぁ行きましょう!!」
我慢だッ・・・。
「そ、そうか、丁度いい機会じゃ。その場でガクのことも皆に紹介しておこうか。」
「このような虫けらごときを紹介などしなくてもよいではないですか。外にでも立たせて置けばよいのです。」
我慢ッ・・・我慢ッッ・・・。
「・・・スーよ。先ほども言ったから同じことを言いたくはない。儂に2度言わせる気か?」
「ごめんなさい・・・ッ。」
よく言った!!ウィル爺、それでこそ男だ!!あー俺が言ったわけじゃねーけどスッキリした。滅茶苦茶こっち睨んできてるのがまた腹が立つな。
「分かればいいんじゃよ。そろそろ向かうとしようか・・・・すまんなガク。スーも悪気があって言ったわけじゃないいんじゃよ。本当は優しくて気配りの出来るいい子なんじゃよ。」
「もう気にしてないよ。他種族だからもしかしたら失礼な事言ったり、やったりするかもしれねぇけどその時は教えてくれよな。これから暫くお世話になるよ、スー姉様。」
「スー姉様・・・し、しょうがないですね。よく考えれば私にとっては弟弟子なのですものね・・・任せなさい!!ウィル爺様の愛弟子である私が教えてあげようではないか!そうと決まれば早速皆に紹介せねば!!」
「さあ、ウィル爺様!!行きましょう!」と言いながらずんずん先に進んで行く姿を見てガクは苦笑いしながらも後を付いて行った。
「悪い子ではないんだがなぁ・・・それにしてもガクはあしらい方が上手じゃのう。」
「腹は立つけど、憎めないっていうか・・・俺の故郷にも似たような奴が居たんだよ。」
ふと地球に居る幼馴染の顔を思い出し懐かしく感じていた。
「ウィル爺様が帰還された!!直ちに開門するのだ!!」
スーが大声で叫ぶとゆっくりと門が開いていき、開いた先には多種多様な種族で溢れ返っていた。
怒声かと間違えるほどの歓声で「「「ウィリアム様おかえりなさい」」」という声が聞こえてくる。
「すげぇな・・・ウィル爺って慕われんだな。」
「そうじゃな。ありがたいことに皆には良くしてもらっておるよ。」
「皆の衆聞いてくれ!!今日、ウィル爺様が無事帰還された!中央広場では宴の準備を進めている!時間のある者は是非来てくれ!!」
先程と同じくらいの歓声が響き渡り、皆が一斉に中央広場に向かって行った。
「さてと、それじゃあ行くかの。それとだな、ここに居る者はスーのように人型の魔物が多い。言ってしまえば亜人みたいなものじゃ。そのような者達は基本的には共通言語で話せるのじゃが、身体の構造上話せない者もおる。」
「話せないって、どうやって意思の疎通するんだよ。」
「”念話”という魔法を使える者はそれで意思の疎通をしておる。ただ、それほど使える者がおらんくてのぅ・・・基本的には表情や仕草、後は長年の勘じゃのう。」
「勘って・・・そんなんで大丈夫なのか?」
「そうじゃのう・・・お互いの意思の疎通が上手くできない事でしばしば問題になることもあったりするが、こればっかりはしょうがないじゃろう。」
そんな話を聞いたガクはある物を思い浮かべていた。だれとでも話せるようになれる夢のようなコンニャク。
俺の魔法と魔道具製作のスキルがあれば作れない事もないのか?時間はかかんないだろうし、ダメもとでやってみるか。
おもむろにインベントリから空になった小さめの魔石を取り出し、そこにガクがイメージした魔法を発動させる為の魔法陣を転写していく。
魔力が空で色が抜けていた魔石は、ガクが魔力を込めたことによって紫ががった黒色になり、魔石の内部には魔法陣が刻まれていた。
出来上がった魔石をガクが鑑定で調べてみると、見事にイメージ通りの物が出来上がっていた。
【翻訳機】
魔道具に魔力を流しながら会話をすることで相手と会話できるようになる魔道具。
「虫・・・ガク。さっきからぶつぶつ言って正直気持ちが悪いぞ?一体何をしておるのだ?」
少し前を歩いていたスーが気味の悪そうな顔をしながら振り向きながら聞いてきた。
「ん?あー。悪い。ちょっと試したい事があってな・・・それで、【翻訳機】ってのを作ってたんだけど、ちょっと試してみたいんだけど。」
事情をウィリアムとスーにすると「少しここで待っていろ。」と言い、スーは走り去っていった。
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