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「あ……」


 誰だか分からないけれど、攻略対象キャラの中の誰かが小さな声を漏らした。恐怖にまみれた声だった。


 今まで玉座に座って、赤黒い光を灯した瞳でこちらを凝視していただけだった魔王が、うごうごと立ち上がる。

 座っていたから分からなかっただけで、立ち上がるととても大きいらしい。3メートルくらいあるのではないだろうか?

 スチルで見るより迫力がある。


「ミレイア、見える?」


 ふと隣にいたエリオに声をかけられた。

 見える、というのはもちろん急所のことだ。私は魔王から視線を逸らすことなくこくこくと頷いて見せる。

 私は今すぐにでも攻撃できる準備が整っているわけだけれど、ヒロインにいいとこ見せたい欲の強い攻略対象キャラたちを差し置いて攻撃するのも悪いだろうか? と周囲の空気を窺っていた。

 扉を開けるだけでギャーギャー騒ぐ奴らだし、自分が一番に攻撃を仕掛けたいだろう。

 ……と、思ってはいるが、誰一人として攻撃態勢に入らない。

 ここで眺めてるだけで魔王が討伐出来るとでも?

 じりじりと近付いてきた魔王が、こちらに向けて手のひらを翳してきた。

 魔法を使うかもしれない、と防御姿勢に入ろうとした次の瞬間、魔王の背中だか腰だかから生えているタコ足のようなものがこちらに向かってにゅるりと伸びてきた。

 そのタコ足が捕らえたのは、ヒロインだ。


「きゃあ!」


 ヒロインの胴体ににゅるりと巻き付いたタコ足は、ぐんと持ち上げられてしまった。

 これは誰かがあのタコ足に攻撃してかっこよく助ける場面では!? ゲームにそんな演出なかったけど! と攻略対象キャラたちに視線を移すと、彼らは皆、ただただ顔を真っ青にしているだけだ。

 おいおいおい! ここが一番のかっこつけポイントだろうが! と、思っていたのも束の間。

 第二王子が小さく口を開いた。


「う、うあ……」


 恐怖で完全に言葉を失っている!


「た、助けてフレア様! クヴェル様!」


 ヒロインが第二王子のフレアと近衛隊銃士のクヴェルの名を呼ぶ。続けて他の奴らの名前を呼んだ気がしたけれど、第二王子の「ひあああ!」というなんとも情けない叫び声にかき消されてしまった。

 第二王子の叫び声が呼び水になったらしく、恐怖はそこにいた全員に飛び火して攻略対象キャラたちが一斉に扉を目指して走り出した。

 要するに、逃げ出したのだ。


「ちょ、待っ、守ってくれるって言ったじゃない! 助けて!」


 ヒロインはご立腹である。

 いや、私もまさか全員が全力で逃げ出していくとは思わなかったわ。

 今はもう足音すら聞こえないので、扉の外に出ただけでなく、結構遠くまで逃げ出してしまったらしい。あーあ。

 仕方ないな、と思いつつ、私は銃を構える。

 それを見た魔王はわざとらしく頭や胸を防御している。しかし残念だったな、私の特殊スキルにかかれば、それが罠だということもお見通しだ。


「お前の急所は頭でも胸でもなく、そこ!」


 私の銃が撃ち抜いたのは、魔王の右腰のあたりだった。

 頭や心臓を狙われても死なないように、急所をわざと動かしていたのだろう。狡猾な魔王だもの。

 一発で死ななかったら嫌だから、と数発撃ち込めば魔王は苦しんで苦しんで消滅していった。


「チッ、魔王に核はないのか」


 隣でエリオが舌打ちをしている。

 助けてくれる人どころか受け止めてくれる人さえもいなくなってしまったせいで、ヒロインは尻もちをついていた。

 彼女はよほどご立腹なのか、未だに扉のほうを睨みつけている。


「……帰ろうか」

「結局核どころか何も回収出来なかった」

「ケチだね、魔王」

「入口にいたワーウルフと夢魔のほうがいい物回収させてくれたな」


 あ、それ多分魔王の臣下だ。やっぱいつの間にか倒してたんだわ。悪いことしたな。奴らにも見せ場があっただろうに。

 いや、だってヒロインたちが全然来ないんだもん。イライラして八つ当たり気味に撃っちゃってたわ。ヒロインたちのせいじゃん。

 なんて思いながら魔王城の入り口に戻ってきたのだが、攻略対象キャラたちはいなかった。


「あれ、どこ行ったんだろう?」


 探してやったほうがいいのかな? と首を傾げていたら、さっきからずっとご立腹状態のヒロインがずかずかと魔法陣を踏みに行った。

 逃げ出した奴らが城内に残っていたって知ったこっちゃないってことかな。

 私もエリオも一度顔を見合わせて「まぁいいか」と魔法陣を踏んだ。

 例の洞窟に転移して、そこから洞窟を出たところで、逃げ出した奴らと合流する。ヒロインも合流しているから文句の一つでも言っているのかと思いきや、完全に無言を貫いている。

 奴らも奴らで何を言ったらいいのか分からないらしく、全員が無言。完全にお通夜の空気だった。

 帰りの馬車の中も、立ち寄った宿でも、完全にお通夜。行きではあんなに一生懸命くだらないクソみたいな会話してたのにね。

 魔王討伐から数日後、王都に帰還し、祝勝会や凱旋パレードが行われたのだが、そこでも微妙な空気は変わらず終いだった。

 魔王からは何も回収出来なかったし、魔王を討伐した証拠などどこにもないのでは? と思っていたのだけれど、鑑定スキルをお持ちのかたが笑顔で私に近付いて来て「お疲れ様、魔王討伐者」と言って私の肩を叩いたので、彼にはなんでもお見通しだったのだろう。

 結局のところ、ヒロインは誰ともくっつかなかった。だから一応バッドエンド、なのかもしれない。ゲームにはなかったけれど。

 私としては誰も死なないならそれでいい。

 全ての問題を回避して逃げ出した悪役令嬢の尻ぬぐいをさせられる形ではあるものの、魔王はしっかり討伐したのだから、文句を言われる筋合いもないだろう。


 そんな魔王討伐者である私は今、エリオから聞いたダンジョンに潜っては銃をぶっぱなすストレス知らずの生活を送っている。私が魔物を倒してエリオが核や素材を回収する、そんな生活を。

 最近エリオに求婚されたので、仕事のみならず私生活でもいいコンビでやっていけそうな気がします。


 なんて、マリネルに宛てた手紙を書きながら、次に狙う魔物について思いを馳せるのだった。


「ミレイア! ダンジョン内にホワイトドラゴンの気配があるらしい!」

「ロケットランチャー持っていくー!」





 

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そしていつも読んでくださって本当にありがとうございます。

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[一言] 最終回を正座待機させていただきます
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