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「この中で結婚相手にするなら誰がいい?」
「えぇ~? 皆さん素敵だから一人を選ぶなんて出来ませんっ!」
馬車の中から漏れ聞こえるクッッッッッソくだらない会話を右から左へ受け流し、私とエリオは御者台に並んで座っていた。
「そこ!」
「完璧だなミレイア。傷一つない核が回収出来た!」
「でしょー! いやぁ楽しーい!」
御者台に並んだ私たちは、魔物とエンカウントしては銃で倒して核を回収して、という作業を繰り返している。
さっきまで何度も止められては待たされていた馬たちも、今では一定のペースで走るだけでいいからなのか、心なしかルンルンで走っている気がした。
しかも私は今まで隠していた銃が使えてルンルンだし、エリオは綺麗な核を回収することが出来てルンルンなので、このシステムは一石三鳥なのである。
「ねぇ、リディアはどんな男が好きなの?」
「そうですねぇ、優しくて強くて、私のことを守ってくれる人がいいかなぁ」
「じゃあ次に魔物が出たら俺が一番に倒して君を守ってあげる」
残念!! 次に出る魔物は私の銃の餌食になります!! と、心の中で叫びながら引き金を引く。
君たちは安全な馬車の中でぬるい乙女ゲームをやっていればいいよ。
こっちは勝手に爽快シューティングゲームをやらせてもらっているからね。
「すぐ次が来るよエリオ」
「こっちの準備は出来てるよ」
照準を合わせながら魔物の出現を待っていると、茂みのほうからオークが現れた。そして現れた瞬間倒れ込んだ。なぜなら私に撃たれたから。
「人型の魔物が出始めたな」
エリオが隣で核を回収しながら呟いている。
「さっきまでスライムとか大ナメクジとかばっかりだったもんね」
「うん。ところですごく遠くからなんのためらいもなく撃ってたけど、人型の魔物と人間の違いって分かるの?」
と、エリオが首を傾げた。
さっきのが人間だったらどうするの? ってことだろうか。
「特殊スキルで見たら分かる。魔物って基本的に急所は一つしかないんだけど、人間は急所だらけなんだよね」
「急所だらけ……?」
「そう。人間は魔物に比べて脆いっていうか、急所が多いの。心臓だったり眼球だったり……関節とか腱なんかも急所になるらしいね」
「それ、俺の急所見ながら言ってる?」
「あ、うん。ああ、それからこの銃は対魔物用に作ってあるから人間に当たっても風を感じる程度でなんともないよ」
「へぇ、便利なもんだ」
便利っていうかほとんどチートだよね。
しかし、何も便利なのは私の銃だけではない。と言うのも、特殊スキルというのは得てしてチートになりやすいのではないかと思っている。
私の銃に感心しているエリオの特殊スキルである回収と保存だって結構なチートなのだ。
だって、回収はともかくとして保存なんかほとんどなんちゃら次元ポケット状態だもん。あの某猫型ロボットが使っているような。
回収のほうはさっき見せてもらったように人差し指一つで簡単に回収出来て、保存のほうはなんの変哲もないバッグの中がなんだかよく分からない亜空間みたいになっていて、回収したものをそこにぶち込めばその時のままの状態で保存される。
だからさっきも「おやつにしよう」と言って木の実を大量に回収してバッグの中にぶち込んでいた。
普通では食べきれないほどの量の木の実をバッグにぶち込んだらそのうち腐るけど、あのバッグの中では腐らない。それこそまさにチート。
「おっと、町が見えてきた」
あの街は最初の宿がある町だ。
我々が本日泊まる宿であり、ヒロインと攻略対象キャラがイベントを起こす場所でもある。
ライバルが絡むイベントもあったはずだが、生憎ここにライバルはいない。いるのはモブである私だけ。ということで、私は街に着いた瞬間、ヒロインや攻略対象キャラたちとろくに顔を合わせることなく自分に用意された部屋へと引っ込んだ。
旅の道中では勝手に聞こえてくるヒロインたちの会話というストレスを銃で即刻解消していたけれど、宿の中で銃を撃つわけにもいかないから、ストレスの元である彼女たちの声など聞かないに越したことはない。
あのゲームでは、この宿のようにイベントを起こすために宿泊する場所が残り五か所ある。ヒロインはその間にターゲットを絞って落としにかかる。
ヒロインはライバルに邪魔をされたり、ライバルにターゲット以外の男を押し付けたりすることで、親密度の調整を行いターゲットを絞っていくわけだけど、この場にその調整役であるライバルは存在しない。
調整が出来なければターゲットを絞りにくくなるので攻略難易度が上がりそうなものだけど、今のところ全員がヒロインに夢中みたいだし、これはこのままいけばゲームにはなかった逆ハーレムルートに突入する可能性もありそうだ。
まぁ私には関係のないことだけれど。
だってどうでもいいもの。勝手にやっててもらえれば。私はこの旅が終わるまでの間、好きなようにこの銃が撃てれば充分なのである。
あぁ、こんなにも撃ち放題になると知っていたら、散弾銃とかロケットランチャーとか、もっと大きなものも作っておくべきだった。そんなことを思いながら、私は眠りについたのだった。
ちなみに翌朝早く起きたのはエリオと私の二人だけ。
私たちは馬の世話をしながら、ぽつぽつと他愛ない会話を交わす。
「そういやあの人たち、魔物に遭遇してないことに全然気付いてないよな?」
「おめでたい頭してるよね」
羨ましい限りだよなぁ。
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