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第八話

 狭い試着室の中で向かい合うと、ぼくちゃんはワナワナと体を震わせていた。


「まさか、それを僕に着せようとしているのか?」


 その指差す先には、俺が手にしているピンクや白のフリルたっぷりなワンピース達。試着室に入る口実で持ってきただけなので、着せるつもりはなかったのだが…。

 たしかに、変装にはなるか?


「えっ!着てくれるの?」

「だれが、着るか!このバカ!」

「バ、バカって言われた。親にも言われたことないのに!」


 シクシクと鳴き真似をしていると、カーテンの向こうから男の声がした。


「ここに高校生と小学生の男の子は来ませんでしたか?」


 どうやら店員に話を聞こうとしているようだ。女の子の店ならバレないかと思ったが、絶体絶命のピンチである。狭い試着室の中で、逃げ場もない。ぼくちゃんと息を潜めて様子を伺った。


 すると、明るい店員の声が聞こえてきた。


「男の子?来てないですよ〜。」

「本当に?」

「えぇ、うち女の子の服の店だから、男の子が来たらすぐに分かりますって。」

「そこの試着室は?」


 ギクりと俺達は体を揺らす。まずい、どうする。


 すると店員の声があっけらかんと響いた。


「あ!今、女の子が使ってますよ!あの、使用中の試着室なんで、ちょっと男性の方は……。」

「そ、そうか。申し訳なかった。失礼した。」


 そそくさと男達が離れていく気配がする。こんなにファンシーなお店でさぞ居心地が悪かったことだろう。

 ホッとしてぼくちゃんを見ると、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。あぁ、助かったけれども。…なんていうか、どんまい。


 ニッコリ笑って、ポンポンと肩を叩いてやると、とうとうぼくちゃんが爆発した。


「ぼくは、男だ!!!!!」


 小学生の力とはいえ、思い切り突き飛ばされてしまい、カーテンの外へと転がり出てしまう。

 

「いったぁ!」


 思い切り床に尻餅をついてしまった。

 本日ニ度目となる腰の痛みに耐えつつ、さすりながら見上げる。


「ぼくちゃん、痛いよ。俺に怒らないでよ。仕方ないじゃない。君、見た目が可憐なんだもの。」

「可憐ってなんだ、可憐って。」


 プリプリと怒っているぼくちゃんを宥めながら店員さんにお礼を言って服を返し、店から出る。全く近頃の小学生は、こうも怒りっぽいのか。全く世話が焼ける。


「とりあえず、ここから出よう。いっその事、本当に変装した方がバレないかもね。」

「絶対に、嫌だ。」

「そんなに怒らないでよ~。飴食べる?」


 そう言いながら制服のポケットを弄る。


「あ、こっちのポッケはお守りだった。」

「お守り?」

「そ、母さんの形見なんだ。」

「…ふーん。」


 右側には大事なお守りを入れているが、左側には友達にもらった苺味の飴があったような…。

 ぼくちゃんは、飴と聞いて少し嬉しそうだ。苺柄の小さな包みを手渡してあげると、少し迷いながらも受け取ってくれた。


「あ、ありがとう。」

「どういたしまして。」


 少しほのぼのしていると、またもや後ろから声をかけられた。



「白川くん?」

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