第七話
「ところでさ、ぼくちゃんの家は、どこ?」
大通りに出て、人混みに紛れた辺りで駆け足をやめて二人で歩き出した。雑踏の中走っていては逆に目立つだろう。
「緑ヶ丘代。ここからタクシーなら30分かからないだろう。」
「タクシーかぁ、タクシーねぇ…。」
高校生の金銭面を舐めないで欲しい。
「お家の人に連絡して迎えに来てもらう?」
「………………。」
ただでさぇ口数が少ないのに、家のことを出すと尚更その口は開かなくなる。
「誘拐なんてされそうになってるんだからさ、迎えに来てもらったほうがいいんじゃないの?ほら、お母さんでもお父さんでもさ………。」
「………………。」
ぼくちゃんは俯いていて表情は見えなかった。黙って俺に手を引かれている。
「まだ四年生なんだから、もっと大人に頼ってもいいんじゃないの?」
そう言って頭を撫でてやると、弾かれたようにぼくちゃんが顔を挙げた。
「もう、四年生だ。自分のことは自分で解決できる。」
「違うよ。まだ、だよ。まだまだ子供じゃないか。もっと子供でいることを楽しまなくちゃ。」
ぼくちゃんは、これまた不思議そうな顔をしてしまった。この子は、どんな教育をされているのか。
「大人だって、子供に頼られるのは嬉しいと思うよ。まぁ、誰かれ構わず頼っちゃだめだけどね。危ない人だって、たくさんいるんだし。特に、突然話しかけてきたり、優しそうに見えたりする人に限って要注意だよ。」
「お前は、大人か?」
「ぼくちゃんよりは大人だね。」
「お前は頼られて、嬉しいのか?」
「…そうだねぇ。」
そんな会話をしていると、また前方から黒いスーツが歩いてくるのが見えた。
曲がり道がない通りのため、ぼくちゃんの手を引いて道に面してるデパートの入り口にそのまま入った。
「…おいっ!」
「前からまた来る。一旦お店に入ろう。」
そのまま店内を真っ直ぐ進み、適当に曲がったところで柱の影から入り口の様子を見た。ぼくちゃんはキョロキョロと周りを見渡している。
「めずらしい?デパートあんまり来ない?」
「…はじめて来た。」
デパートに来ない人生とは。少し驚いてぼくちゃんの顔をみてしまった。お金持ちだから感覚が違うのか?
こんな状態だけれど、ぼくちゃんはそわそわしながら、それでいて少し嬉しそうな顔をしている。
そうしている間に、残念ながら黒スーツが二人、入り口から入ってきてしまった。先程とは違うムキムキスーツ男達のようだ。柱に貼ってある店内の地図で出入り口の箇所を確認してから動き出した。
「いたぞ!」
抑えた声だったが、確かに聞こえた。
チラリと後方を確認すると、ムキムキスーツ男達が足早にこちらに近づいて来ようとしている。
「ぼくちゃん、こっちきて。」
曲がり角を数回曲がって、適当なお店に入った。
「こ、ここは女の子の店じゃないのか?」
ぼくちゃんの意見は無視した。靴と服を数着手に取って、すばやくぼくちゃんを試着室に押し込む。
俺とぼくちゃんの靴は手に持って、カモフラージュに試着室の外には先程手に取った靴を置いた。もちろん女の子の可愛い靴。ピンク色だ。