第六話
ぼくちゃんの手を引いてラーメン屋から出ると、今度は同じ高校の制服を着た女子3人組に出会った。
「あれ?白川くん!」
ぼくちゃんは、またかという目で俺を見ている。
だって、高校の近くのラーメン屋なのだもの。
「先輩方!こんにちは~。」
軽く挨拶をしながら様子を伺う。スカートが短い今時女子高生達は、後ろに竹刀をしまったケースを担いでいる。たしか剣道部の先輩だ。
「白川くん、また部活きてよ!夏に隣町の高校と練習試合があるんだけど、また白川くんも参加しない?」
「いやいや、俺なんか強い先輩方の足手纏いになってしまいますよ。でも先輩の勇姿が見たいから応援には行こうかな。」
「本当に〜!?うれしい!えっと8月のね…」
試合の日程を先輩方が確認し始めた時、視界の端に黒いスーツが見えた気がした。慌ててそちらを向くと、スーツの男が二人歩きてきている。これは、まずい。
「ぼくちゃん、走る準備してね。」
小声でそっと話しかけると、ぼくちゃんは少し驚いて瞬きした後、ちらりと視線だけ動かして頷く。前方の黒いスーツに気づいたようだ。
「先輩方、じゃあそろそろ…」
その時だった。突然こちらに向かって黒スーツが走り出した。来たな、ムキムキスーツ男め。あっという間に距離を詰められて、すぐに追いつかれてしまう。
「見つけたぞ!その子を渡してもらおう!!」
「きゃっ、へ、なに??」
突然現れたムキムキスーツに、先輩方は目が点になっている。先輩方とぼくちゃんを背中に庇って対峙した。
「そう言われて渡せる訳ないじゃんね〜。」
すると、ムキムキスーツ男は腰から鉄の棒を取り出し振って伸ばした。SPのドラマでみる、あれじゃん。本物だ。かっこいい〜。じゃ、なくて。
「筋肉あるくせに武器まで使うとか、ありかよ!」
思わず突っ込む。こちとら、ただの高校生なんですけどね!!!
このままだとこちらの武が悪い。降参ですのポーズをしながら軽く手を挙げるフリをして、先輩にそっと近づいた。小声で話しかける。
「先輩、竹刀かして。」
先輩の返事を待たないで、俺はケースから無理矢理竹刀を引っ張り出した。出した勢いのまま、ムキムキスーツ男の鳩尾を思い切りつく。
「かはっ!」
仰向けに倒れていくのを横目に、今度はもう一人の方へ竹刀を振る。これはさすがに防がれてしまった。だか、勢いよく竹刀ごと押して壁に男を押し付けた。そのまま膝蹴りを急所へ入れてやる。
「ぐぁあっ!」
わ、ごめんね。めちゃ痛いよね。
同じ男として非常に申し訳ないが、非常事態のため許して欲しい。
男達が蹲って動けない間に、先輩に竹刀を返す。
「ごめんね、先輩。竹刀ありがとう。お詫びにこのアイスあげるから許して?」
「へぁ?えっ、う、うん。許すよ。」
「じゃあ、俺達はもう行くから、またね。可愛い女の子なんだから、帰り道気をつけて帰ってね?」
「わ、わかった!」
「あとアイス、溶けちゃったから冷凍庫入れてから食べてね。」
竹刀貸してくれた先輩にレジ袋ごとアイスを渡してニッコリ笑うと、先輩はコクコクと頷いてくれた。ごめんね、本当にめちゃ溶けてるけどチャラにしてね。
「ぼくちゃん、走るよ!」
そして、俺達はまた街を駆け出す。
後ろから「って、本当にめちゃめちゃ溶けてるじゃーん!」という悲鳴が聞こえたが、それは聞こえなかったことにしよう。
「お前、実はチート人間だろう…。」
「ふぇ、チート?」