第四話
「よ!白川じゃん!」
路地を出ると、突然声をかけられた。
驚いて振り返ると、俺と同じ学生服を着た体格のいいマルコメ君達がいた。同じ学校の柔道部のやつらだ。
「よ〜、木村っち。部活帰り?お疲れ〜。」
俺も片手をあげて、ヘラッと返事をする。あぁ、日常に戻ってきた。安堵のため息をついていると、木村の視線は、俺から男の子へ移動する。
「お?白川の妹かぁ?めっちゃ可愛いじゃん。」
「違うよ〜。弟〜。」
「まじか!ごめんな、坊主。」
周りにいたやつらも「えー!」と驚く。
木村は「悪かったな。」と言いながら男の子の頭を雑に撫でた。
やめろ、木村。こいつはジャックナイフだ。
すると、ジャックナイフはにっこり笑った。
「こんにちは!」
「お!気持ちのいい挨拶だな!関心関心!」
ジャックナイフは「えへへ」と可愛らしく照れながら、木村に頭を撫で回されている。どういうことだ、ジャックナイフ。俺の手は気持ち悪くて、木村の手なら良いのか!?
俺が頭を抱えていると、木村が言った。
「俺達、これからラーメン食いにいくんだよ。白川も、くるか?」
ちょうどいいタイミングのお誘いに、さりげなく周りを見ながら答えた。あの男達の姿はない。
「いいねぇ。行く行く〜。弟も一緒でいいか?」
「もちろんだ。この前の試合のお礼もしたかったしな。俺たちで奢るぜ。」
「まじか!ありがと〜。よし、ジャックナ…弟よ。ラーメンを食いに行くぞ。」
「…ジャック?」
いかん、間違えるところだった。
男の子が不思議そうに首を傾げる。その耳元で小さく話した。
「腹減ってんだろ?それに、まだあいつらが周りにいるかもしれないしな。ラーメン食ったら家に送ってく。」
「…わかった。」
体格のいい高校生に囲まれれば、この小さい小学生も目立たないだろう。念のため、警戒しつつ木村達と話しながら歩いていると、男の子がさりげなく頭を手で払っているのが目に入った。ニコニコと俺達の話を聞きながら、後ろで組んだ手の指は苛つくように爪を弾いていた。
そして、目が合うとニッコリ笑って「ネクタイ曲がってるよ?」と、俺のネクタイを思い切り引っ張って、耳元で囁いた。
「ところで、下僕。ラーメンとは何だ?」
やっぱり、こいつはジャックナイフだ。
しかも、とびきり世間知らずのボンボンめ。