第二十二話
その男は、開かれたドアの向こうに立っていた。
「岩崎。何故、お前がここにいる。」
ぼくちゃんが、鋭い声で言った。
そして、未だ膝をついたまま動けないでいた俺よりも早く立ち上がり、その男と対峙する。
岩崎と呼ばれた男は、くくっと喉で笑うと、呆れた様に首を振った。
「誠様、新しい使用人の採用テストをしたいと言って、誠一郎様のSPにわざわざ狂言紛いのことまでさせて。あげくに、GPSを捨てて行方をくらませるなんて…。随分と、お人が悪いですね。おいたが過ぎますよ?」
「GPS?そんなものは気がつかなかったな。」
「何をおっしゃいますか。帽子、わざと置いていったでしょう。この岩崎の目は誤魔化せませんよ。」
ぼくちゃんは、ぐっと唇を噛んだ。
「彼ら、随分と必死になって探していますよ。」
「それは、すまないことをした。お父様が選んだお気に入りの彼らが、もしも僕を逃してしまったら、さぞ滑稽で面白いだろうと思ってな。少々張り切りすぎてしまった。」
俺は、突然すぎる謎の男の登場と、多すぎる情報量に頭がついていけずに、その場にいるだけで精一杯だった。
「ところで、岩崎。」
ぼくちゃんは、言った。
「もう一度、問おう。何故、お前がここにいる。」
岩崎は、深いシワが刻まれた頬を上に引き攣らせる。
それは、ゾッとする様なとても歪な笑顔だった。
「それは、もちろん。幼い頃よりお世話をさせていただいた貴方様を、彼に殺してもらうためですよ。」
「これは、こいつと僕の問題だ。何故、お前が介入する必要がある?」
そう言われて、岩崎の表情は抜け落ちた。
「…それは、可愛い私の娘のためですよ。」
その声には、確かな殺意が込もっていた。