第一話
俺の名前は、白川誠司。16歳の高校一年生。中肉中背よりはやや筋肉がついた程度の、ピチピチボーイだ。これといって特徴はない。強いて言うなら人より少し背が高いところと、母親譲りの少し癖のある栗色の髪の毛と目がチャームポイントだ。ザ・平凡。これぞ俺の人生。
今日は7月21日、1学期の終業式だった。うだるような暑さの中、明日からは待ちに待った夏休み!と浮かれた心持ちの友人達と先程別れて、我が街の子ども達の憩いの場である緑ヶ丘公園の前を通ったのだが…。これが、全然憩いの場ではなかった。公園はいつからこんなに物騒になったのだ。
暑さのあまり、先程コンビニで買った棒アイスが入ったレジ袋を下げ、我慢しきれず一つ袋を破って口に入れていた時だった。
バン!
車を閉める大きな音に驚いて見やると、公園の向かい側の出入り口の前に黒い大きな車から、黒スーツのムキムキ男達が降りてきたところだった。
平和な公園に、黒スーツムキムキ男。
この異様な組み合わせに、思わず見つめていると、男達が小さい人を囲み込んでいる。あの紺色の帽子と、セーラーはこの近くの金持ちの子が行く私立小学校の生徒だろう。何やら話していると思った次の瞬間、突然男達が、その子を抱え込み、車に乗り込もうとし始めた。
俺は、口に咥えていた棒アイスが落ちていくのも忘れ、走り出した。
「あ、あの!何してるんですか!?」
気がついた時には、声をかけていた。一斉に男達の顔がこちらに向く。サングラスの男が、合計4人。その1人に抱きかかえられていたのは、可憐な女の子だった。艶やかなショートカットに、透き通るような白い肌。
明らかに、これは、誘拐?
「お前には関係ない。」
一人の男が低いけれどよく通る声で言った。
「たしかに関係ないけど、その子、絶対嫌がってない?」
俺の間抜けな指摘に、男達が顔を顰める。
「うるさい黙れ。このことを他言したら、お前もただでは済まさない。」
そう言うや否や、男達が再度動き出し、とうとう女の子を車の後部座席に乗せ始めた。
「ちょ、ちょっと!!」
その時、女の子と目があった。長いまつ毛に縁取られた大きな瞳は、今にも涙がこぼれ落ちそうだった。震えた赤い唇から、確かに声が聞こえた。
「お願い。た、助けて…。」
その瞬間、ついに涙がこぼれ落ちた。
もう、見ていられなかった。
俺を掴もうとしていた男の腕を捻りあげて突き飛ばした。男達が慌てて、俺に迫ってくる。その間をくぐり抜けて、女の子の手を掴んだ。
「おいで!!!」
女の子がうなづいた。
2人で車から飛び出そうとした瞬間。思いっきり蹴り入れられて、俺の体は女の子ごと車に逆戻りした。
「発車しろ!急げ!」
男達の怒号が鳴り響く。
あれ?これって。もしかして。
「もしかしなくても、一緒に誘拐されてね?」
俺達を乗せたまま、車は無情にも発車した。
誘拐、されました。続きます。