第十二話
速水さんは、部室の片付けをしてから帰るそうだ。
ぼくちゃんと二人きりで校舎から出ると、青空は少しずつ色を変え始めていた。眩しい西日で、目がチカチカとする。ぼくちゃんは、馴れていないのであろうスカートの裾を引っ張りながら口を真一文字に結んでいた。
嫌なんだろうなぁ。
心中を察して、少し苦笑いしてしまった。
二人きりで、歩道を静かに歩く。
すると、前から、遊んだ帰り道なのか数人の小学生が走って来るのが見えた。勢いよくすれ違うと、楽しそうな笑い声がやがて遠ざかって行った。
視界の中に、黒スーツは見えない。
「明日から夏休みだね。ぼくちゃんは、友達と遊んだりしないの?」
「…遊ばない。どうせお父様の接待に付き合わされるか、空いてる日はほぼレッスンだ。」
「レッスン?」
「…英会話、書道、絵画、体操、ピアノ、バイオリン、スイミング…。」
「…もういいよ。」
指を折りながらスラスラと出てくる習い事のオンパレードを、そっと止めた。
「ねぇ、ぼくちゃん?」
「なんだ?」
俺はある提案することにした。
「あのね、この先俺のアパートが近いの。ムキムキスーツ達に制服バレちゃってるからさ。俺も着替えてから送っていこうと思うんだけど、いいかな?」
ぼくちゃんは、ちらりと俺の顔を見上げた後、興味なさげに顔を背けた。
「わかった。」
静かになった道に、ぼくちゃんの声が響いた。
「ありがとう!すぐ終わらせるからね。」
了承を得た俺は、安心させるようにニッコリ笑うと、ぼくちゃんの手を引いて少し足を早めた。
早く、早く。
黒スーツ達に見つかる前に終わらせなくては…。
ぼくちゃんは、黙って手を引かれていた。
もう、夕暮れだ。
長い一日があと少しで終わる。
空を見上げると、澄んだ青空はもう消え始めていた。




