第28話 介入
「巡り合い……か。待っていただけの事はあったか……な」
俺は、ニヤリと笑みを見せる。
一夜に目線を向けると一夜は、顔を伏せて苦笑していた。
……気づいたか。やはり『宿』だけの事はある。
思い起こされた記憶と結び付いた事だろう。
咄嗟に動かした一夜の手の位置に、俺はクスッと笑みを漏らした。
その手に確認するまでにはいかなかったが、その事に気づいたのは流石だ。
「……どうされましたか?」
狙うように動かした一夜の手は、綺流に掴まれる。
それでも怯まなかった一夜は、掴まれた手を振り解くと、綺流にじっと目を向けてこう言った。
「……いや……お前の心臓を確かめようと思っただけだよ」
「ふふ……やはり……気になりますか……?」
「それが……お前の本当の姿だというのか? 綺流……思い出したよ。あの時は……何が起こったのか分からなかった。何故、お前が僕の前に現れたのかも……」
それが本当の姿……あの時……。
……現れた。
一夜の言葉で、一夜が何を見ていたのかを知る。
そして、綺流が一夜に何を訊いたのかが見えた。
『あなたはその中に……何をお持ちですか……?』
……成程な。
「何故……お前が知る必要がある?」
一夜にしては珍しい口調……いや、これが一夜なのだろう。
一夜が綺流に向かって言葉を続ける。
「……似てるんだよな」
似ている、か。
よく気づいている。
俺は、差綺に目線を向けた。
「差綺」
「任せといて、貴桐さん。丹敷、行くよ」
「ああ」
差綺と丹敷は、宿木へと向かった。
「咲耶」
「はい」
咲耶と等為、可鞍が宿木を囲むように立った。
「「縛」」
咲耶たちの声が重なると、宿木から網が落ちる。
差綺が俺に目を向けると、笑みを見せた。
俺は、その笑みに頷きを見せる。
……差綺、頼んだぞ。
宿木から落ちた網がふわりと宙で止まる。一夜の目がちらりと網を見た。
差綺は、一夜に網の張り方を教えていた。
何の為に差綺が網を張ったのか、一夜は分かるはずだ。
一度、接触したもの同士、相互に作用する。
そして……差綺の網は勿論、干渉だ。
一夜は、綺流を見据えて、口を開いた。
「似てるんだよ……お前……だから……始まりから、始めようか。来贅」
静かな声だったが、その声は強い響きを持っていた。
俺と来贅が初めて会った日、あいつはこの宿木から現れた。
パキッと枝が折れる音が耳を掠めると、静かな低い声が降り落ちる。
「ああ……やはり……また会えると思っていた。藤邑一夜」
……来たな。
来贅が俺たちの前に降り立った。奴が現れたと同時に、綺流の姿が消える。
「咲耶っ……!」
俺は、咲耶に宿木を倒せと合図した。
「行きます。等為、可鞍!」
咲耶たちが宿木を倒し始めると、網が一夜の元へと落ちて来る。
「一夜」
差綺の穏やかな声が、一夜にその網を掴めと伝えた。
一夜は頷くと、網を掴もうと手を伸ばした。
一夜の手が網を掴んだと同時に、宿木が倒れる。
倒れて来る宿木を避ける来贅は、俺たちから距離を取った。
大きな音を響かせて宿木が倒れると、土埃が舞い上がり、その土埃を奪うように風が吹き抜けた。
眩しい程の白い光が弾け、その中から蒼い光が一筋伸びると、一夜の目に飛び込んだ。
……繋がるか。そして掴めるか……。
「差綺」
俺は、目を覆う一夜を見ながら、差綺に声を掛ける。
「うーん……繋がっているのは間違いないんだけどね……」
「もう一人……干渉している圭の事か」
「……うん。どっちで来るかは僕にも分からない。分離……されているんでしょう……? 来るのは間違いないけどね……」
「そうか……じゃあ……」
「……うん」
俺と差綺は、同じ言葉を漏らす。
「……半分、か」
「……半分、だね」
目を覆っていた一夜の手が下りると、一夜が目を開ける。
……左……。
目を開けた一夜を見る来贅は、やはりこう言った。
「ふふ……半分……か」




