第27話 巡回
差綺に背中を押された一夜の手が、俺の手を掴んだ。
掴み合った手から強い光が弾ける。
俺は、一夜の目をじっと見つめた。
「貴桐さん……あなたは……」
一夜の驚いた表情に、記憶が蘇ったと確信出来た。
俺は、笑みを見せながら、静かに頷いた。
思い出した瞬間に、少し困惑した顔を見せたのは、自分を責めている部分があるからだろう。
色々と思う事もあるようだが……。
「ようやく……」
思いを確認する余裕など与えず、声と共にその姿が現れた。
「どういう……事……?」
俺と一夜の元に現れたその姿に、一夜の困惑は増すばかりだった。
それもそのはずだ。
「お揃いのようですね……?」
蒼い瞳に白い髪。それは同じだったが、その顔は『彼』とは違う。
その姿が、うっすらと口元だけに笑みを浮かべて一夜に言った。
「望む事……全て、思いのままに……お目にかかれて光栄です。精霊使いの継承者……やっと巡り会えました」
……望む事、全て、思いのままに、か。
「思い……出しましたか……?」
一夜は、混乱しているようだった。頭を抱えながらも、理解しようとしているのだろう。
目の前に現れた姿が自分と似ている『彼』だったのなら、疑問などなかった事だろう。
だが、これは綺流だ。
「一夜。止めないで、繋げて」
混乱を見せる一夜を支えるように、差綺が声を掛けた。
「差綺……僕は……」
「大丈夫。今の君なら……」
俺は、差綺の言葉に頷いていた。
「乗り越えられる」
「一夜」
俺は、そっと一夜の肩に手を置いた。
悲しげにも見える目が俺を見る。
「……貴桐さん……僕は……」
自分の所為で俺たちを巻き込んだと思っているのだろう。
その目には涙が滲んでいた。
俺は、そうじゃないと首を横に振った。
それでも一夜は、その思いを口にする。
胸に留めておく事は出来ないのだろう。知らなかったと、振りを見せる事が出来ないのは、一夜が嘘をつけない素直な奴だからだ。
「僕の為に……降伏したんですね……」
あの時、来贅が言った言葉は、一夜にも聞こえていたんだ。
『降伏するならこれ以上、手を出すのはやめてやろう…… 一人くらい見逃しても痛くもない』
「貴桐……だからお前は……反対していたんだな…… 一夜に同じ思いをさせない為に」
侯和の言葉に、俺は苦笑した。
「俺も同じものを望んだからな……だがそれを手にすれば、来贅はまた狙ってくるだろう。本当は……何もない方がよかったんだ。だけどそう望むのも、俺たちだけじゃなかった。は……まさかお前まで絡み合ってくるとは思わなかったけどな……塔で会ったのも運命なんだろうな」
「圭が塔に行ったのは……その後か。気づいたんだな……圭も」
「ああ。そうだな……。圭と一緒にいた彼が…… 一夜に宿った精霊だと気づいていた。だがあれは……半端で……そっくりだが……繋がりが脆い。それにお前が力を貸した時、俺たちはもう一度、始まりを作る事にすると決めた。その『差』を埋める為に……な」
干渉してきたのは、一夜だけではなかった。
望む事、全て、思いのままに。
その言葉に皆、繋がれている。
一夜……もしお前がその姿を見る事が出来たのなら、お前は一度、この姿に会っているはずだ。
『一夜を連れてここから離れろ。その記憶を蘇らせるのは五年後だ。それまで……姿を現すな。綺流』
悲しげな目をしていた一夜の表情が、ハッとした顔を見せた。
……やはり……そうか。
「巡り合い……か。待っていただけの事はあったか……な」
俺は、そう言ってニヤリと笑みを見せた。