第25話 帰郷
「約束……ああ、そうだよ……約束になるんだ」
侯和は、何やら思う事があるようだった。
そう呟きながら、思い浮かべている姿がある。
……塔の上階にいる奴か。
苦笑を見せる侯和。その目には憂いが見えた。
「侯和……」
……侯和も連れて行くか。
「なんだ、貴桐」
ハッとしたように俺に視線を戻す侯和に俺は言う。
「お前に来て貰いたい場所がある」
「何処だ……?」
「俺たちが住んでいたところだよ」
侯和は、不思議そうな顔をしていたが、分かったと頷いた。
「じゃあ、行くか」
数日後、俺たちは森へと向かった。
呪術医を探す塔の動きもあり、家を出たのは真夜中にした。
まあ、理由はそれだけではないが。
今夜は月明かりが強く感じる。
見せたいものも見せる事が出来るだろう。
月明かりだけが頼りの行く道を、迷う事なく進み続ける。
俺は、後ろをついて歩く一夜を、そっと振り向いた。
一夜にこの話をした時に、一夜は直ぐに頷いた。
自分にとっても必要な事だと思ったのだろう。
そして、一夜を訪ねて来た呪術医の彼女も共について来た。
間木紗良……彼女が一夜を訪ねて来たのは、一夜が精霊を呼び出せるのかという事を確かめたかったそうだ。
何処からそんな話が流れたのかは、まあ、想像はつくが。
流行り病の時に診療所の扉を開く為に、名を借りた呪術医の娘だ。そういった話も身近に聞く事だろう。
彼女が一夜を訪ねて来た日、一夜は彼女と差綺を会わせ、差綺の力を見せたと言った。
彼女はかなり驚いていたそうだが、それを見た事で尚更、深く知りたくなったようだった。
連日、訪ねて来ては、熱心に差綺の話を聞いていたようだった。
共に連れて行く事に危険はないと言い切れないと伝えたが、彼女の思いは強く、もし何かあったとしても等為と可鞍をつかせれば回避出来るだろうと承諾した。
彼女自身、何かあった時にこそ、自分を使って欲しいと言ったくらいだ。
そんな彼女だからこそ差綺は、彼女に色々と話したのだろう。
森に着くと懐かしい空気感に触れたが、それと同時にあの時の事が蘇る。
あれから数年経ち、来贅に荒らされた土地は、手入れする者もなく、荒れ果てていた。
倒された木も朽ち果て、地面も割れたままだ。
悔しさが蘇るばかりだが、時は十分に待った。必ず見る事が出来るだろう。
塔の奴らに勘付かれないように真夜中に出たが、俺たちの行動に全く気づいていない者がいないとも限らない。
何せ、情報を流すのはペイシェントだ。
「咲耶。足取りを消しておいてくれ」
「分かりました」
咲耶は、俺たちの足取りを消し、この森に入れないように結界を張った。
目には見えないが、空気の動きを一夜は感じたようで、驚いているようだった。
俺たちは先へと進み、俺はある場所で足を止めた。
月明かりが強く光を放つ。その場所へと降り注ぐように。
「……差綺」
「うん」
差綺は、笑みを見せて頷いた。
「お前が張った網は、ちゃんと答えてくれている」
「うん」
降り注ぐ月明かりが、その姿を浮かび上がらせる。
大きく伸びた樹木に寄生する木。その枝葉の形は、器のように窪んでいる。まるで、月を掬おうとするように。
一夜と侯和の驚いた声が静かに流れた。
俺は、その声に振り向き、一夜と侯和に言った。
「宿木だ」




