第22話 類似
「貴桐、ここにいるのか? 少し話がしたいんだが……」
丹敷と話をしている中、侯和が部屋に入って来た。
「ああ、ちょうどよかった、侯和。俺もお前に話があるんだ」
「なんだ?」
「一夜の両親は、事故死だったと聞いた。その時に運ばれたのがこの診療所だったと。侯和……お前、その時の話、聞いた事ないか?」
「ああ……俺もその話をしようと思ってな……でもその前に話しておきたい事がある」
侯和の表情が少し硬く見えた。
「じゃあ、俺、差綺のところに行って来るよ」
気を使ったのか、丹敷は部屋を出て行った。
侯和は、俺の向いに座ると、話を始めた。
「柯上の家にあった呪法の事だ。医術師が呪術医と名を変えたのも、伝わってきた呪いを、医術に組み合わせるようになったからだろ……だから呪術医は各々、独自の呪法を持っていた。知っている通り、俺の家にもあったようにな。だが……柯上の家にあった呪法は、そう簡単には使えない。それは難解というより先に、神秘性が強く、生死を選択出来るものであったから、安易に使う事をしなかったんだ」
神秘性……選択、ね……来贅が好みそうな話だな。だから圭の両親を……。
「貴桐……お前さ……『だから心臓なんだろう』って言っただろ……」
「……ああ」
「だから……訊いたんだろ? 心臓に心があると思うかってさ……」
「だから迷ったんじゃないのか?」
俺は、侯和の言葉に重ねるように言った。
互いに目線を合わせたが、言葉の間が開いた。
侯和は、ふうっと息をつくと、口を開く。
「……呪術医なら……知っているさ。お前に答えたように、心があるのは脳だってな」
「それが呪術医にとっての『常識』ってやつだろ」
「貴桐……?」
「お前……あの時……診察室の薬棚で何を見ていた?」
「……気づいていたのか。そう訊くって事は、知っているんだろ?」
「まあな……」
「幻覚剤だ。表現的な呼び名もある。サイケデリックスにエンセオジェン……肯定的であり、神秘的であるという。幻覚でもそれは体験であり、そんな大量の体験情報が一気に流れ込む混沌は、思考の再構築を始めるんだ。だが……その体験は、誰もが全く同じものだとは言い切れない」
「だが……再構築された思考は同じものだ」
「ああ……それが、非現実的なものを現実だったという『肯定』になるからな。信じて疑わない」
「じゃあ……それが呪術医にとっての常識だとしたら?」
「幻覚剤を使う事をか……? 嫌な事言うなよ……貴桐」
「幻覚は目に見えない体験だ。だが、当人にはそれが見えていると思っている。そしてそれは肯定され、当人の中だけに構築される。こんな話にすると……似ているだろ……?」
「目に見えない……当人の中だけ……精霊と宿って事か」
「ああ」
「まいったな……だがその話は理解出来る。一夜が『本物の宿』だという事は分かっているからな……」
「それならこの話をしても問題はないな。差綺が逆だと言っていた。一夜に似ているんじゃなくて、一夜が似ているんだ……と」
そう伝えた後、侯和は目を伏せながら静かな声で答える。
「……使ったんだよ。そう簡単には使えない……いや、使わないと決めた呪法を使った結果が……」
俺は、侯和の言葉の先を待たずに自分で言った。
「一夜だな?」
俺は、その後に分かったと呟いて、部屋を出た。