第8話 弾圧
「主様」
……あー……この呼び名には違和感しかねえ。
俺の元に数人の男たちがやって来た。皆、呪術師だ。
「何かあったのか?」
そう訊くと首を横に振った。
「そうか……」
確かに予兆を感じてから数ヶ月経ったが、特に変化はなかった。
それが余計に嫌な感覚を与えた。
……外れるなんて……あり得ない。俺だけではなく、差綺だって気づいた事だ。
「それよりも……」
「なんだ?」
「最近、町の者たちが私どもに頼ってくるという事が少なくなったように感じますが……」
「……ああ……それか……」
俺は、前の主がいつも座っていた椅子に座っていた。
住む家も、前の主の家をそのまま残したいと思い、俺が住む事にした。
この部屋の窓からは、宿木がよく見える。それもあったからだ。
「何かお気づきになった事でも?」
「……いや」
静か過ぎる……そう思っていた。
勿論、それが平穏だとは思っていない。
だから余計に嫌な予感しかなかった。
「……主様……」
数人の男の中の一人が、少し不安を見せる声をあげた。
俺は、ちらりと視線を送るだけで、その男の言葉を待った。
その声の色に、その不安が何に対してなのかを察した。
……塔……か。
「呪術医が塔に集まったのは、独自で診療所を開く呪術医たちへの弾圧が始まったからだそうです。塔に属さなければ、呪術医を続ける事は出来ないと……それで扉を閉める事になったようです」
「……」
「主様?」
俺は、少し間を置いて口を開いた。
「……死人でも出たか」
「それは……どういう……?」
男は怪訝な顔を見せる。
「その塔がそこまでの権力を握るには、見せしめ的にも死人が出たと考えるのが自然だ。そもそも、人の命に関わる呪術医が、そんな脅迫めいた事を平然と言えるのは、人の命に関わる事が出来るからだろう」
「……そう……言いますのは……?」
「生かすも殺すも塔次第……そういう事だ」
俺の言葉を聞くと、誰もが無言になった。
それは医術でなのか、呪術でなのか……どちらにしても、人の命を拘束出来る術を持っているという事か。捕まったら最後……そんなところか。
俺たちが出向いたあの家の主人の話も、そこに繋がる話だろう……何かあるのは確かなようだ。
町の者たちの声が段々と聞こえなくなったのも、そんな恐怖を目の当たりにしたのだろう。
あの時のあの男の顔が脳裏に浮かぶ。
呪術医を探しているか……塔に入る術を探しているか……か。
塔に入る術を探していたとするなら……いや、あいつはそうだろう。だから差綺をあんな目で見ていたんだ。
塔にしたって能力の低い呪術医は不要だろう。
俺は、宿木へと目線を向けながら、男たちに言った。
「……心配するな」
そう言った俺だが、その言葉はきっと俺を追い詰める事になるのだろう。
分かっていても、言わずにはいられない言葉だった。
そして、その翌日の夜……変化が起きた。
なんだか外が少し騒がしい。
窓の外を見ると、見張りをしていた男たちと、誰かが話しているようだ。だが、その様子はどうにも平静ではない。
「貴桐さん」
部屋に入って来た咲耶の表情が翳っている。
「あなたにお会いしたいと……来ているようです」
「俺に……?」
「ここが呪術師たちが集まっている場所だと聞いたようで、話を聞いて欲しいと……どうしますか」
「……分かった。行こう」
「僕も行きます」
俺と咲耶は外に出た。
俺たちの姿を見つけると、縋るように手を伸ばして、震える声で伝えてきた。
「……助けて……下さい……」
逃げるようにここに来たのか、あまりにも怯えた少年が俺の元に一人やって来た。