第20話 協調
「あいつをそうさせたのは、俺なんだ」
侯和は、そう言って俺から視線を外した。
暗い表情に、自分を責めている事は明らかだった。
「……腹減ったな。咲耶」
「任せて下さい。直ぐに用意出来ますから。等為、可鞍」
「「行きます」」
「……貴桐」
「暗い顔、するなよ。まあ、それも生きている証拠だろうが、今、お前の考えに賛同している仲間がここにはいるだろ」
「……お前は、強いな」
侯和は、苦笑を見せて、溜息をつく。
「俺だけじゃねえ。そうせざるを得ない状況が、そうさせる。そんな風に考えたら、その『気』を作っているのは、誰なんだろうな?」
「はは……お前はお前自身って事か」
「捨てても捨てきれないものがある……塔を出た時にお前はそう言った……その時に持った覚悟は、お前がお前自身を強くしたんじゃないのか」
俺の言葉に侯和は、少し困ったような顔を見せたが、穏やかに笑った。
「そう……だな。ああ、そうだよ」
「ああ……そうだ。家に入ろう。咲耶がみんなの為に作ってくれているから」
「……ああ」
俺は、差綺たちにも声を掛けると、家の中へと戻る。
並んで歩く侯和。その表情は、まだ不安を抱えているようだった。
『俺がそうさせたんだ』
自分を追い詰める程に、仲が良かったんだな……。
「咲耶はさ……俺にないものを持っているんだ」
「貴桐……?」
俺を振り向く侯和に、俺は自分の思いを伝えた。
「俺はね……自分で全てを背負うと決めていた。それが当たり前だと思っていたからだ。俺の周りの奴らが抱える苦しみも、全て、俺が背負えばそれでいいと思っていた。それが俺の役目だと、そう勝手に決めてな……」
「貴桐……」
「だけどさ……人の思いってさ……勝手に抱えられねえんだよ。分かったつもりでいても、本当は分かっていない。俺が背負うから『大丈夫』だと……『心配するな』と言ってもさ……」
俺は、微笑を見せながら侯和に言った。
「相手もそう言いたいんだよ……互いに『お前の為』って思ってな……」
「……らしくないな、貴桐?」
侯和の目が、揶揄うように俺を見る。
「慰めているつもりか?」
「はは。どうだろうな? お前がそう感じたなら、そうなんじゃない?」
侯和に普段の表情が戻った事に、ホッとしていた。
一時的な緩和であったとしても……侯和はそれを望んでいた。
『……君が選択するまでの少しの間……忘れかけていた待望に苦痛を緩和しているよ』
侯和は、仰ぐように目線を向けると、伝えたい相手を思い浮かべているような目を見せて、こう言った。
「『共感』はそこにはあったんだ……だけど……間を繋ぐ存在がなくなってしまったら、共感を繋ぐ言葉までなくなった」
……間を繋ぐ存在、か。
「貴桐……俺はね……」
……侯和。
「頼られている事に気づけなかったんだよ。いや……気づいてなかった、は、嘘だな……俺は、無理だと……諦めさせる態度を取ったんだ……『大丈夫、心配するな』……その言葉さえ、言えなくなるように」
「……侯和……」
「『大丈夫』『心配するな』……限界を知った呪術医は、その言葉を二度と使わない」
そう言った侯和に、俺は鼻で笑った。
「教えてやればいいじゃないか。お前は知っているだろう? 侯和」
俺は、後ろを歩いて来る一夜を振り向いた。
「……貴桐……お前って奴は……」
侯和は、少し呆れたようにも笑みを見せた。
「一夜に言ったように、言ってやればいい」
『お前なら大丈夫だ』




