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第19話 共通

「君が……全てを網羅するまで、始まりに過ぎないんだから」

「僕が……網羅……? 何を……? 始まりに過ぎないって……どういう……」

「ねえ……? 親友の体に来贅の心臓があると知って、胸が痛い……? 苦しい?」

「当たり前じゃないですか……そんな事……」

「当たり前? おかしいな」

「なにを言って……」

「君……呪術医なんでしょ? じゃあ、よく考えて? 君の全身を巡り、心臓に達するまで」

「全身……心臓……達するまで……あ……そういう事か……」

 一夜は、差綺の誘導するような言葉に、気づく事が出来たようだった。

 差綺と一夜のやりとりを見守るように見ていた俺だったが、そっと俺の隣に立った侯和が呟いた。

 それは、差綺の言った言葉で、俺の言葉を思い出したからだろう。


「貴桐……『心』があるのは、心臓じゃない。『脳』だ」


「ふん……遅い返事だな」

「……分かっていて訊いていたのかよ……」

「分かっていたのは俺じゃない。一夜だよ」

「……そうか……そうだな」

「侯和……お前だって、一時はそう迷ったんじゃないか……?」

「はは……その言い方……それは……貴桐……お前もって事だろ」

 俺と侯和は、顔を見合わせて笑う。

「……俺は呪術師なんだ」

「だったら……俺は呪術医なんだよ」


 そこに共通するものは、当然、呪術だ。


 俺と侯和は、差綺と会話を続ける一夜に目を向けていた。

 俺は、目線を変える事なく、侯和に言った。


「……得た知識をどう利用するかは、そこに蓄積された思考が結果を決める。もしそれが、自分の望むものを手に入れたとしたなら、それがどんな手段だったとしても、その行いは正しかったと肯定するだろう」

「……貴桐……」

 侯和の視線を感じる俺は、その目線を受け止め、言葉を続けた。


「それが……叶わないと抱えた絶望を、叶えられる希望に変わっていたとしたなら……」

 そう言いながら俺は、差綺へと目線を変えた。

「それは……『奇跡』かな……?」

「貴桐……お前……」

「……言っただろ。俺は呪術師だ」

「……反転させる(すべ)があるという事か……?」

「塔の中に……その『媒体』があるならな」

「どういう……事だ……? 塔の中に……媒体……?」

「お前だって知っている事だろ。先生と呼ばれる人間は、他人の知識をインプットされた機械だと。前に言ったよな?」


『一体……誰の知識だ……?』


「お前……それを知る為に塔に入ったのか……」

「人には人に使う材料……上階の『先生方』は皆、真っ先にスカルペルの刃先を『心臓』に向ける。侯和……お前に訊きたい事がもう一つある。訊いていいか」

「なんだ……?」

「お前……塔にいる呪術医の中に……お前がよく知っている奴、いるよな……?」

「……」

 一夜が塔に向かったあの日、俺の問いに侯和は塔の上階を見つめていた。

「どうなんだ……? 侯和」

「それは……」

 侯和は、返答に迷っていた。

 だが、ゆっくりと重い口を開く。

「……限られた上階の呪術医しか入れない場所。上階を行き来出来た俺たちでも、そこまで行った事はなかっただろ……」

「……ああ」

「そこにはペイシェントがいないからな……」

「……成程な」

 侯和は、長い息をつくと、言葉を続けた。


「……心が脳にあるなら、心臓はその姿を作る為の『部品』に過ぎない……そんな思考を持つ……呪術医だよ」

 そう答えた侯和だったが、悲しげにも静かに笑みを見せて、俺に言った。


「だが……あいつをそうさせたのは……俺なんだ」

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