第18話 模倣
「あの……あなたは……?」
一夜が差綺に目線を向ける。
差綺は、一夜を見た後、俺に目を向けた。
「……なあんだ……そういう事……」
差綺が小さく呟く。
俺は、頷きを見せた。
「……まあな。そういう事だ」
「……繋がればいいんだね……?」
「繋がれば……な」
「うーん……干渉して来た彼の存在の事?」
「ああ」
「じゃあ……掴ませるしか方法はないよ、貴桐さん。だけど、そこに行き着く道筋は作ったんでしょ?」
「……顔が……そっくりなんだ」
「それ……逆だよ」
「逆?」
差綺の言葉に、俺は眉を顰める。
差綺は、一夜を見ながら静かに言った。
「…… 一夜が彼にそっくりなんだよ、貴桐さん」
「あの……」
一夜が差綺を不思議そうに見る。
俺と差綺は、話はまた後にと、声を合わせた。
差綺が一夜を興味深そうに見ながら、口を開く。
「呪術医ってさ……体に細工するって事だろ?」
「細工……って……」
差綺の言葉に、一夜は少し呆気に取られていた。
「僕たちはさ、直接人体に触れてどうこうするって事はしないけど、その体の周りの気を動かす事は出来るんだよ」
「体の周りの……気……」
「うん。大きく言えば、その人の運命を変える事も出来るって事」
「運命を変える?」
「そう……だから僕はね……その為の『毒』を使うんだ。それは間接的に……ね……?」
試すようにも動いた差綺の目線に、一夜が気づく。
「それって……媒体があるって事ですよね……?」
「うん。それが?」
「じゃあ……その媒体があれば、逆に使う事も可能って事ですか?」
一夜の言葉に、差綺の目線が俺に納得を示す。
差綺は、ちらりと動かした目線を一夜に戻すと、クスリと笑った。
「君……面白いね」
そう言うと差綺は、丹敷の背後に立つと、丹敷の首元に刻まれた印を掴むように手を絡めた。
「おい……なんだよ、差綺……」
丹敷の反応など気に留めず、差綺は一夜に言葉を続ける。
「通常、媒体は術師の元で、そのもの自体に呪いを込める。勿論、媒体になる訳だから、その媒体には繋がりを持てるものがなければならない。互いに共通するものを通じて、呪いを感染させるんだ」
「呪いを……感染……」
差綺の言葉に驚きを隠せない一夜だったが、差綺に興味を示したようだった。
そんな一夜に同じく興味を抱く差綺は、一夜を試すようにも、自分の首元にある蜘蛛の印を動かし、丹敷の首元の印へと移した。
丹敷の首元の蜘蛛の巣の印が真っ赤な色を放つと、網を張るように体に広がり始める。
そして、蜘蛛がゆっくりと網を伝うように動き出し、丹敷の心臓部分へと止まった。
差綺の目が赤く光る。差綺は、ゆっくりと瞬きをすると、一夜をじっと見つめて一夜に伝えた。
「僕はね……媒体を動かす事が出来るんだ」
「媒体を……動かす……」
差綺が見せる能力に、驚くばかりの一夜だったが、理解は追いついているようだった。
差綺は、そんな一夜にますます興味を示したようで、蜘蛛を自分の首に戻すと、一夜の前に立った。
「じゃあ……『網』張ってみる? 君が何処までの医術を持っているかは知らないけど、体の構造くらいは当然、知ってるんでしょ?」
「え……あ……ああ、うん」
「それじゃあ……網、張ってみて? 出来ない、とか言わないでね? 期待してるんだけどな」
……全く……差綺の奴……。
一夜は、深く考えているようだった。それでも考えが纏まらないのか、髪をクシャクシャと掻いた。
「もう少し……巡らせないと、足りないよ? 末端まで届かない」
差綺は、一夜の様子を見ながら、言葉を掛けた。
「君が……全てを網羅するまで、始まりに過ぎないんだから」