第17話 再起
「その毒……薬じゃ消えないよ。繰り返すだけ。ね? 貴桐さん」
丹敷の様子を見下ろしながら、差綺は穏やかな笑みを見せる。
「……差綺……」
……ずっと……この時を待っていた。
なのにお前は……。
俺は、苦笑を漏らしたが。
俺を振り向いた時に見せる目が、興味深そうに笑っていて。
「出会った時と……同じだな……お前は」
「あはは。貴桐さんだって同じだよ。いつも僕に呆れてる。でしょ?」
「当然だ」
俺は、そう言ってニヤリと笑みを見せた。
そんな俺に差綺は、あははと笑う。
そして、ちらりと来贅へと目線を向ける差綺の目が、赤い光を冷ややかに放った。
「あれ……どうすんの? 貴桐さん」
「どうするって言ってもな……。あれ、分離してるからな……」
「ふうん……心臓、別のところにあるんだ。抜かりないね。そこからは出られないみたいだけど、そこから消える事は出来るよね? なんでいるの? もう一度、出直せば、僕たちのところに近づけるんじゃない? 出直してくれば?」
差綺は、意味ありげにクスリと笑みを漏らす。
そんな差綺の不敵な態度にも、来贅は余裕な表情を崩す事はなかった。
差綺は、またクスリと笑みを漏らすと、自分の首元にある蜘蛛の印に手を触れる。
「そんなに見たいかなー? まあ……そうだよねえ……欲しいならあげてもいいけど、コレ……」
来贅に見せつけるように首元から蜘蛛を離すと、その蜘蛛を丹敷の体の上に置いた。
蜘蛛が丹敷の体を這い始めると、蜘蛛の巣が丹敷の体に張り巡らされる。
「毒……強いんだよねえ? 来贅……あんたの毒より……ね?」
差綺の指の動きに、蜘蛛が従う。
丹敷の体を繋ぎ合わせるように、張り巡らされた糸がギュッと締め上げた。
蜘蛛が巣を引くように丹敷の首元で止まると、丹敷の首元に印が刻まれる。丹敷から安定した呼吸音が聞こえ始めた。
「……差綺……」
ゆっくりと目を開ける丹敷。その姿が映った事に、開けた目に涙が見えた。
差綺は、蜘蛛を摘んで、自分の首元へと戻す。
「ああ、丹敷、戻った? 今度、それを捨てる時は、この世の終わりを見る時にしてくれるといいな」
「はは……この世の終わりっていつだよ……相変わらず……大袈裟馬鹿……」
「心外だな。それを言うなら、丹敷も負けていないと思うけど? 無謀にも程があるよ。僕との約束、忘れたの?」
「……いや。逆にその約束を果たしたつもりだったが?」
「ふうん……?」
揶揄うようにも丹敷を笑う差綺の目が、来贅へと変わる。
「僕の事……分かった? 僕はあんたの事、分かったけど……ね……? じゃあ……仕上げ……」
差綺の指が来贅へと向く。
「分離していても、それはあんたにとっての『媒体』……だよね……?」
「ふふ……君の言う通り、出直すとしよう。どのみち、彼にはまた会えそうだからな……」
来贅は、ちらりと一夜に視線を向けると、その場から消えた。
「差綺……」
「もう……自分を責めないでよ、貴桐さん。僕、帰って来たでしょ? あいつの中にあったもの、取り戻してくれたんだから」
「はは……でもな、差綺……」
「なあに?」
俺は、ニヤリと口元を歪ませ、差綺の肩に手を置いた。
「あ……はは……」
差綺は、そんな俺が何を思っているかを察したようで、誤魔化すようにも静かに笑った。
『説教はその時に聞くから、ね?』
俺は、差綺が目線を逸らさないよう、笑みを見せながらも、強い目線を送って言った。
「説教、だ」