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第15話 再生

 丹敷の目が閉じていく。

「丹敷っ……!」

 丹敷の首元にあった印は、丹敷の体を繋ぎ止める唯一の術。

 それを手放してしまった丹敷の体は、もう繋ぎ止める事は出来ない。

 ……バラバラになっていく。


 それを見て侯和と一夜が動き出した。

 一夜が一通り丹敷の状態を確認する。

「探して来た。これを使え、一夜」

 侯和が一夜に手渡したのは、蜘蛛の巣だ。


 形を模したものを同じものとして機能させる事が出来る呪術医……。


 一夜は、侯和からそれを受け取ると、丹敷の首元に置いた。

 そして、丹敷にそっと声を掛ける。

「……返します。あなたの命……頂けません」

 …… 一夜……。

「僕は、呪術医ですから」


 一夜が丹敷の首元に置いた手に、侯和の手も置かれた。

「……戻って来て下さい。僕の声……聞こえますよね」

 一夜の呼び掛けが続くと、フワッと緩やかな風が丹敷を包むように流れた。

 その直後に、首元に置いた蜘蛛の巣が赤い光を放ち、丹敷に刻まれる。

 バラバラになった丹敷の体を繋ぎ止めるように、糸が張り巡らされた。


「この蜘蛛の巣の印が体にある限り……バラバラになった体は繋ぎ止められる……ですが……」

「なんだ……? 一夜」

「彼の体の中に……心臓がないんです。それなのに彼は……どうして生き続ける事が出来たんでしょうか……?」

 一夜の言葉に俺は、まだ柱のように立ち上る光へと目を向けた。


 丹敷が来贅に対して怯えていたのは、これが理由か。

 これじゃあ……取り戻そうとしても、取り戻す為に引き換えているようなものじゃないか。

 俺は、来贅を閉じ込めた光の柱へと近づいた。

 ……代わり……。身代わり……。

 侯和が持っていた代替えの呪法。

 それは塔の中に存在してしまっている。

 更に手が加えられ……。


 人には人に使う材料がある。


「来贅……」

 光を見据える俺に反応を見せる笑みが微かに聞こえた。

「……それなら……ここにある」

 光の中から手が伸びてくる。

 押し退けるように手の動きが広がると、来贅の姿が現れる。

「それ……心臓……」

 一夜の驚いた声が流れた。

 来贅の手には、剥き出しの心臓が鼓動を見せている。

「来贅……お前……」

「貴桐……無理に取り返しても構わんが……いや……返そうか……? 返して欲しいのなら返してやる。代わりのものならいくらでもあるからな」

 来贅を見据える俺を、見下すように笑みを見せる。

「貴桐……取り返してみればいい。お前の望む通り……骨くらい拾えるんじゃないか? そんなくだらない(じょう)が、折角の機会を逃すんだよ。そこに散らばった骨は、お前がくだらない情に走った結果だろう、なあ貴桐……? 救う者の優先順位を決めれば済む事だっただろう」

 煽るようにも、来贅は言葉を畳み掛けた。


 忘れたくても忘れられない来贅の言葉が、何度も頭の中を駆け巡る。

 出口を見つけようとする者の答えを閉ざす選択を迫る。


「本当に死なせたくなかったのは誰だった?」


 ……そんな選択……。


「……うるさい」

「どうして助けてくれなかったんだと、恨言(うらみごと)が聞こえるだろう? 全てを助けようとしたその安易な決断が、全てを助けられなかったんだからな。必要なものと不要なものを切り分ければ、少しは勝ち目もあったんじゃないか? 必要なものなら取り置くが、不要なものなら捨てればいい、それだけの事だろう、何を躊躇う事がある?」


「……待って下さい」

「一夜……」

 来贅の言葉に怒りを示したのは、俺だけではない。

 一夜が来贅へと近づく。

「行くな…… 一夜」

 一夜の中には、圭の心臓がある。

 だからこそなのかもしれないが、一夜は下がる事はしなかった。

 来贅をじっと見つめる一夜は、冷ややかにも落ち着いた口調でこう言った。


「圭の中にある心臓……あなたのですね……?」

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