第14話 奪取
来贅を中心に描かれた円から放たれた光が、来贅に絡みつく。
だが、それでも来贅には、円から出る事が出来ないだけで、大きな影響は及ばないだろう。
でも今は……それで十分だ。
「……貴桐……無理だ……」
俺の隣に立った丹敷が、そう伝えた。
来贅は、平然とした様子で円の中から俺たちを見ている。
「……黙ってろ」
「貴桐……」
丹敷の顔は、不安を見せている。
「忘れた訳じゃないだろう……? 丹敷……」
俺は、来贅を見据えたまま、丹敷に言った。
「敵う敵わないの問題じゃないんだ。俺は……奪われたものを取り戻す……それだけの為に生きる事を選んだ。あの中に……全部持っていかれた。選ばれた者がそれを得られると……知識も……血も……内臓も……骨も、何もかも全て。骨を拾う事さえ出来なかった。報われないと嘆く声が聞こえる……いつもだ……!」
「……貴桐……」
「……行きます」
咲耶が俺に並んだ。
咲耶の後ろに等為と可鞍がつく。
俺が頷きを見せると、咲耶たちは来贅を囲むように立った。
丹敷は、何やら考えているようで、少しの間、俯いていたが、手をそっと自分の首元に当てると、俺を振り向いて言った。
「……これを使え」
「……丹敷」
俺は、真剣に向けられる丹敷の目線を受け止めていたが、その丹敷の覚悟に息を飲んだ。
丹敷の首元に浮かび上がる蜘蛛の巣の印。
それは差綺が丹敷の為に刻んだものだ。
……頑固だからな。
俺たちの前に現れた時、丹敷が何故、差綺と同じ術を使わなかったのかの理由だった。
表向きだけであったとしても、俺を倒す為に差綺の術を使いたくなかった。
本当に……素直じゃねえな。
差綺が丹敷に言っていた言葉。
『その印だけは絶対に捨てないで』
その姿が消える前に、丹敷……差綺はお前にこう言ったんだ。
『君がいれば僕は、存在しているのと同じだから』
なのにお前は……。
丹敷は、一夜に目線を向けると、うっすらと微笑みながらこう言った。
「俺の命……あんたにあげる」
同じ媒体に繋がれた差綺と丹敷。そこには『共感』が存在し、相互に作用する。
丹敷が差綺との約束を忘れるはずはない。
「ちゃんと使ってくれよ……全部、拾ってやるからさ」
「丹敷っ……!」
……そう思っていたかった。
丹敷は、首元の印を掴むと、来贅に向かって投げた。
「早くしろっ……! 貴桐っ……!」
「ふざけんなっ……! 丹敷っ……! バカヤロウ……!」
零れ始めた雫が地に落ちようと望むなら。
それを見過ごすべきなのだろうか。
知らないふりして、見過ごして。
それが運命だったと片付けるべきなのだろうか。
抗う事の出来ない……運命だと。
俺は、地面を蹴ると、ある文言を地に書き、その文字を両手で叩きつけた。
ドンッと音を響かせ、地面が揺れると、地から風が吹き上がる。
その風が丹敷の放った蜘蛛の巣の印を追い越し、上から印に重圧を掛けると、来贅目掛けて落ちていく速度を上げた。
来贅は、見上げながら苦笑していた。
ドオンッと大きな音と共に、来贅へと落ちる。
土埃が舞い上がり、その場から柱のように光が伸びた。その光の柱の中からバラバラと骨が飛び出してくる。
「丹敷っ……!」
力尽きた丹敷がバタリと倒れた。
苦しそうに短い呼吸を繰り返す丹敷に、俺は駆け寄った。
丹敷の体のあちこちから血が滲み、次第に地面に広がっていく。
「丹敷っ……!」
俺の声に目を細めながらも、その表情は笑みを見せようとしている。
「差綺と……約束したんだろ……丹敷」
「お前だって……そうじゃねえか……取り戻して……くれるんだろ……」
丹敷が俺をそう呼んだのは、初めてだった。
「『主様』」




