第12話 発揮
俺たちの前に現れた男は、丹敷だった。数十人の塔の男たちを背後に、強気な態度を見せる。
やるなら、本気でやれよ。
丹敷の睨むような目を受け止めながら、そう思っていた。
丹敷の背後に控えていた男たちが動きを見せる。即座に咲耶と等為、可鞍が男たちを捩じ伏せた。
呆気なくも一瞬で引き連れて来た奴らが倒された事に、丹敷は顔を歪ませた。
……おいおい……まさか頼っていた訳じゃないだろうな……?
庭で上がっている炎を丹敷が指で操る。炎が上へと伸びると、空を覆った。
焼けつく熱さが周囲に広がる中、丹敷が俺へと向かって来る。
俺を捕まえようとする丹敷の手をするりと抜け、丹敷の背後を取る。
「ガラ空きだ」
丹敷の背中に一発入れると、丹敷はバランスを崩して地に倒れる。
それが何度も繰り返された。
悔しげに顔を歪ませながら、それでも俺を必死で追うが、守りに入るのが精一杯のようだ。
……やはり扱いきれないか……。
差綺がいれば違うのだろうが……。
「悪いな、丹敷」
俺の指が丹敷へと向く。
風が巻き起こり、丹敷を地面に叩きつけた。
「うっ……」
仰向けに倒れた丹敷は、それでも食らいつこうと、震える手を空を覆う炎へと向けたが、力が出ないようだ。
パタリと手が落ちると、空を覆っていた炎まで落ちる。
「馬鹿……お前が力落とせば、普通、消えんだろ……相変わらず、中途半端な術、使いやがって……咲耶っ……!」
「はい!」
診療所へと落ちていく炎を食い止めようと動くが、誰よりも先に動いたのは一夜だった。
一夜が円を描くと、その名を叫ぶ。
「綺流……!」
それは一瞬だった。
轟く雷鳴が、辺り一面を照らす程の稲光を走らせて、地鳴りを起こして落雷した。
落雷したと同時に雨が、溜まっていた水を落とすようにバシャンと一度だけ降り落ち、炎を消した。
だが、落雷したという音は聞こえても、落雷した場所はない。
「……全く……」
俺は、降り落ちた雨にびしょ濡れになった髪を掻き上げて、一夜へと歩を進めた。
一夜自身、その力が働いた事に驚いている。俺は、少し困った顔をしながら、肩越しに丹敷を振り向いた。
「本当に……バレちまったかな……まあ……でも……いけるかな……」
「あ……」
俺の呟きに一夜は、しまった、というように微かに声をあげた。
丹敷は起き上がると、俺たちの方をじっと見る。
俺たちの元へと歩を進めて来る丹敷の表情が、ニヤリと緩んだ。
うーん……そう来るか。
丹敷は、ゆっくりと歩を進め、穏やかにも笑みを見せながらこう言った。
「わざわざお越し頂かなくても、俺たちだけで十分でしたのに……『先生』」
丹敷のその言葉に、一夜は呆気に取られている。
「……貴桐さん……僕……」
俺は俺で、呆れた顔を見せていた。
俺は一夜に小声で伝える。
「堂々としてろ。あいつ馬鹿だから、どうせ自分から勝手に話してくる」
そう言った俺に、一夜は苦笑した。
丹敷は、少し距離を取って、一夜に言う。
「この辺りは、俺たち中層階が見回っています。どうやらこの辺りに呪術医がいるようだと聞いて来たのですが、それが貴桐たちだったようで……先生はご存知だったという事ですか。まあ、下層階だったとはいえ、塔から抜け出し、こんなところで呪術医まがいな事をしていた訳ですから、先生方も穏やかではありませんよね……」
丹敷の言葉に、一夜の目つきが変わった。
…… 一夜。
「あなた方は……誰から聞いて来たのですか」
一夜は、『彼』を真似るように、そうゆっくりと口にした。
丹敷が答える言葉に、一夜は抱えたくもない感情を抱えた事だろう。
「流行病の時に、そこで治療を受けたペイシェントがこの間、塔に来た時に言っていたんですよ」
助けた命に……奪われる……と。