表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/168

第9話 喚起

 考えていた。

 一度、手に入れたものを誰かに託すように手放す。

 それは当然、信頼出来る者だからこそ、託す事が出来るのだろうが、全てを手放した訳ではないだろう。

『共感』は必ず存在し、一度、接触した者同士、相互に作用する……。

 ……圭。本当に頭のいい奴だ。


「やってみるか?」

 そう言うと、一夜は困惑した表情を見せた。

「やるって……」

「お前の胸にある『印』……それを描け」

「これと同じものを……? 喚起法円としてですか……? だけど……」

 一夜は自信なさそうに口籠った。

「……繋がらない……か?」

「……貴桐さん……」

 自信がない事に、一夜の表情は翳りを見せるばかりだ。

 はいと小さく返事を返すと、一夜は俯いた。


 少し間を置いて、一夜が口を開く。

「……貴桐さん……僕は分からないんです。そこに綺流がいるのに、他に何を呼び寄せようとしているのか……だけど綺流は、圭に従っているとも思えなかった。バラバラなんです。繋がらないんです」

「だろうな」

「え……貴桐さん……分かっているんですか……?」

「お前が持っているんだ。印と圭の心臓……」

「……はい」

「圭は、お前に自分の一番大事なものを渡したんだ。それがないと生きられない、大事なものをだ」

 一夜は、深く考えているようだった。

 そして、俯いていた顔を上げると、強い目を見せて答える。

「やってみます」


『坏は……満ちました』


 ……時が来たと伝えていたのだろう。

 その後の言葉はなかったが、それは勿論、分かっている。

 ジジイから『主』の座を譲り受けた時から、俺に課せられたものだ。

 それは誰から、という訳ではない。

 自分からそうすると決めた事だ。


 後は流れて零れ落ちるだけ。掬わなければ、全てが地に沈む。


 坏は満ちた……それはそこに必要な力が集められたと考えればいい。


 俺と一夜は、外に出た。

 一夜は、思いを固めながら、地面に円を描き始める。

 俺は、その様子を見守っていた。

 そんな俺たちに気づいた侯和が外に出て来た。

「おい……貴桐……」

 何をしようとしているのか分かったのだろう。

 一夜に課す負担は大きい。そもそも俺は、納得していなかった事だ。

「余計な事は言わなくていい」

「だって……お前……反対じゃなかったのか」

「圭は綺流と契約を交わしているんだ。塔にしてみれば圭の体は、絶対に必要だ」

「……ああ」

「もし……いや。圭がどうしてそうしたのかを考えたら、自然に答えは出たよ」


 手に入れたものを誰かに託すように手放す。

 一夜が塔の中で会った圭は、まるで別人のようだったと一夜は言っていた。

 誰かが何かを止めようとしても、誰かが何処かで動かそうとしていたら、共感は崩される。

 相互に作用させるなら、奪われてはならないものだ。


「なあ……侯和。訊いていいか」

「なんだ?」

「心臓に『心』ってあると思うか?」

「なんだよ……急に……」

「塔にいる圭……あいつはやばい」

 一夜の話を聞いた時に、圭と来贅が重なったように感じた。


 一夜は、塔で来贅の姿を意識の中で、綺流に見せられたと言っていた。

 そして来贅は、圭は何処に隠したと言っていたという。それを探せ、と。

 圭は、もし自分が分離されても大丈夫だと言っていたというのだから、当然、奪われないように隠したのだろう。

 分離されても必ず、戻る事が出来るように。


 俺は、一夜が円を描く姿を見詰めながら、侯和に言った。


「塔にいる圭の心臓……別人のだろ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ