表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/168

第6話 反転

「そう呼んでいたのは圭だけでしたが……他は『先生』と……」

 一夜の言葉を聞きながら、ベッドの上にいる一夜の側に歩み寄った。

「貴桐さん……」

 一夜の目線が俺に向いた。

 辛そうな目をしていた。塔の中で目にしたものに、大きな衝撃を受けた事だろう。

「圭に会ったか……」

「……はい」

 頷く一夜の表情は翳っている。

「貴桐さん……圭は……別人のようでした。僕が知っている圭じゃない。だけど……」

 一夜は、ギュッと手を握り締めて、俯いた。

 ポタリとその目から涙が落ちた。

 一夜の震える声が思いを伝える。


「……僕の名を……呼んだんです……」


 込み上げた思いが一夜の声を詰まらせる。

 悲しむだけではなく、それでも一夜なりに思考を巡らせているようだった。

 どうすればいい、どうしたらいいと自分に出来る事を探している。

 一夜は、俯いたまま、その思考の中で行き着いた答えを口にした。


「僕が……継承者になればいいんですよね……?」


 そう言った一夜は、俺と咲耶に目を向けて、うっすらと笑みを見せる。

 無理に笑う一夜のその表情を……尊重……すべきなのだろうか。

 俺は、目を伏せると溜息をついた。

 そして、そこにいるだろう姿に声を掛ける。


「……侯和。入って来い。お前には、一夜に説明する義務があるだろう」


 俺の言葉に侯和は反応を示さない。

「……侯和……不完全だった『彼』の『材料』はお前だっただろーが……」

 俺は、苛立ちを噛み締める。


「お前が手を貸し、お前が圭に託した精霊の継承者に、一夜はなると言っている。説明しろ、侯和。それを果たすのがお前の責任だ」

 そう言葉を投げても、侯和は部屋に入って来ない。

 痺れを切らした俺は、その名を叫んだ。


「侯和ーっ……!」


 俺の苛立った声に、侯和はゆっくりと歩を進めて、部屋に入って来た。

「宿が見つかったって……侯和……お前は……綺流を扱える継承者を探していたんだな……」

 侯和は、俺のその言葉に何も答えなかった。

「だから……心臓なのか。だから心臓なんだろう! 宿がどう動くか知らない? 圭の事は知る事は出来ない? 判断の是非は宿にあるってお前、言ったよな? それはこういう事だったのか? ただでさえ酷な状況だっていうのに…… ふざけるなっ!」

 一方的に捲し立てる俺だったが、侯和には予想がついていた事だろう。

 俺が怒鳴る声にも焦る事もなく、納得している。

 俺は、侯和を見ながら訊いた。


「……圭はそこまで本当に望んでいたか?」


 その言葉に侯和は、一夜に悲しげな目線を向けながら口を開く。

「そうなっても仕方ないんだ……声にならない悲痛な魂が残した苦しみと憎しみが……その思いを遂げてくれと『宿っていた』んだから」


 ……人の思いは反転する。

 抱えたものの重さが、潰されるか立ち上がるかを選択させる。

 守りたいと思う気持ちを満たす為に出来る事は。

 障害になる相手を殺すか……自己犠牲を果たすか。


「お前だって……そうじゃなかったのか」

 侯和はそう言うと、開き直ったかのような目を俺に向けて、言葉を続ける。

「じゃあ、他にあるなら教えてくれよ、貴桐……それ以外の選択肢なんて、何処にあったんだ」

「……侯和」

 侯和は、苦笑を漏らすと、更に言葉を続ける。

「望んだのは同じレベルの能力じゃない。それ以上の能力だろ……」

 そして、その後に言った侯和の言葉が、俺という存在を別の形で証明した。


「お前の能力だって、その結果じゃないのか……?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ