第4話 潜入
俺の言葉に呆気に取られていたのは、一夜も同じだった。
「僕が……『彼』のフリ……ですか……?」
そう言いながらも俺の言葉に乗せられるように、分かりましたと答えた。
一夜を『彼』によりそっくりに仕立て上げる為に、咲耶に一夜の支度を頼んだ。
「これなら貴桐の言うように、バレないかもな」
塔の服を着た一夜は、本当に『彼』だと思う程だった。
一夜に塔の中がどうなっているかを説明し、どう動けばいいかを伝えた。
塔へと向かう一夜に距離を取りながら、俺と侯和も塔へと向かった。
「……なあ……貴桐……」
侯和は、塔の中へと入って行く一夜を心配そうに見ながら、俺を呼んだ。
「本当は……何を企んでいる?」
「企む? 何をだ?」
「お前ね……惚けるなよ。『主様』が求めているものは分かっているだろう? それを……敵地にわざわざ送り込むような真似を……」
「主様? ああ、その言葉、ホント聞きたくねえな。じゃあ、お前さあ……どうやって婆さん助けんの?」
「いや……それは……あ、いや、そうじゃなくて、貴桐、お前、言ってる事、違ってねえ? そもそも自分が行くって言ってたじゃねえか」
「ああ、そうだな。強行突破になるけどな」
あっさりと答える俺の言葉を聞いて、侯和は頭を抱えた。
「それって……後先考えていないって事だろ……」
そう言うと、呆れたように溜息を漏らす。
「後先考えた結果だろう? だからこうしてついて来ているんじゃねえか」
俺は、平然と言葉を返した。
「……貴桐……後先って何だよ」
「もし……塔の中で一夜が迷う事があったら……」
「迷う事が……あったら……? 『彼』じゃないと気づかれて、捕えられるというなら話は分かるが、なんだよ……その言い方……お前、一夜に塔の中の事を説明しただろう? それに……俺だってそれは聞いていたけど、お前は間違った説明はしていなかった。言った通りに進めば、迷う事なく辿り着けるはずだ」
「『彼』に会う事がなければ、な」
「……どういう……事だ……? 『彼』が…… 一夜が塔に来た事に気づくというのか……?」
「気づくだろうな。もし……圭に何か起きているとすればの話だが。『彼』がいれば例え分離されても取り戻せると、侯和……お前、俺にそう話したよな……俺もお前に訊くけどさ……圭が上層に上がる事が出来たのは、どうしてだと思っている? お前たちの力だけか……?」
「なんだよ……それ……」
「『先生』と呼ばれる人間は、他人の知識をインプットした機械……ブロックごとの術式が使えるかどうかで位置が決まる……」
そう言いながら俺は、侯和の目をじっと見つめる。
「貴桐……お前……」
侯和の表情が強張った。
俺は、侯和から目線を外す事なく、言葉を続けた。
「圭も『彼』も『先生』だ。一体……誰の知識だ……?」
侯和が俺から視線を外した。
俺は、それでも侯和に視線を向け続けていた。
侯和は、まだ俺に隠している事がある。
『宿がどう動くか、俺は知らない。圭の事を知る事は出来ない』
「侯和……お前……本当は知っているよな……? だからあんな事までして、手を貸したんだろう?」
俺の探るような言葉にも、侯和は答える事はなかった。
知っているからそう言葉を漏らしたんだろうが。
『やっと見つけた……』と。
俺は、一夜を見守るように塔を見つめた。
……無事に戻って来いよ。
もし戻る事が出来なければ、助けに行くから……。
そう思った後に口をついた言葉に。
俺は、自分でも少し驚いていた。
「……心配するな」