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第3話 災難

 それからまた時が過ぎ、塔との関わりが一夜にも迫って来る事になった。

 その日の朝は騒がしく、一夜が訪問者と話していた。

 訪ねてきたのは、一夜の幼馴染みらしい女だった。

 取り乱しながらも、何が起こったかを一夜に話している。

 どうやら、圭の両親が診療所を開いていた頃に、薬を届けに来ていたらしい。

 その薬を作っていたのが、一夜を訪ねて来た彼女の祖母だったようだ。

 その祖母が薬草を取りに森に入ったところを、塔の奴らに見つかり、連れて行かれてしまったという。

 塔が出来てから、塔の支配が強まると共に、塔に属さない呪術医は、使えるものが殆どなかった。

 それでも薬草を使い、病状を緩和しようとしていたが、塔はそれすらも許す事はなかった。

 だが、薬草といっても様々だ。


「どうしよう……どうしよう…… 一夜君……お婆ちゃん、薬はもう作っていないのよ。薬草って言ったって、お茶にして飲むくらいの種類のものなの……そんなの、薬だなんて言えないでしょう? なのになんで……そんな事もダメなの……?」

 彼女の言うように、薬とまではいかないものも多くある。

 そこまで……制限するか……。

 それとも……。

 俺は、侯和があの植物を見ていた事を思い出していた。

 ……塔は……その材料を探している……?

 そうだとしたら……咲耶が言っていた事を実行に移していると考えてもおかしくはない。


『シャーマニズムの概念では、トランス状態になる事で、超自然的存在との繋がりを持てると言われています。つまり……『精霊』と』


「……どうした? 何かあったのか?」

 侯和も気になったようだ。

「……塔に戻る事になるかもしれないな」

 俺は、侯和にそう伝えた。

 侯和は、その後の一夜と彼女の会話で、察したようだった。

「……そうか。分かった」

 ……やけに、理解が早いな。


 一夜は、彼女に大丈夫だからと何度も伝え、家に帰るよう促していた。

 扉を閉めて振り向いた一夜。俺と侯和は、一夜の前に立った。

「……行くのか?」

 俺がそう訊くと一夜は、はいと頷いた。

「そうか……じゃあ……」

 俺はそう言って外へと出ようとする。俺の後に侯和がついた。

「え……待って下さい。貴桐さんと侯和さんは行かない方が……」

 一夜が俺たちを止める。

「放っておく訳にいかねえだろ。俺と侯和の方が、中は詳しい」

「だけど……もし見つかったら……」

「塔も俺たちが死んだとは思っているかもしれないが、逃げたとは思っていないだろう」

 心配しなくていいと言ったが、一夜は納得しない。

 一夜は、扉を押さえ、俺たちの前を阻んだ。

「…… 一夜」

 その行動に、俺は困った顔をする。

「僕が一人で行きます」

「……無理だろ」

 そう言ったが、一夜は、はっきりとした口調で同じ言葉を繰り返した。


「僕が一人で行きます」

 俺は困りながらも、その強い思いを受け止めようと思った。


「どうする? 侯和」

 俺は、一夜をじっと見つめた後、侯和に返答を振る。

 一夜は、何を言っても、自分が行くと聞かないだろう。

「どうするったって……」

 そう言って侯和は、困った顔を見せる。

 俺は、一夜の頭をポンポンと軽く叩いた。

 その仕草に、侯和の表情が呆れ顔に変わる。

「貴桐……お前、何考えてんの……」

「連れて行かれたって言っても、薬草採ってたくらいなら階下止まりだ。多分、あの下層連中なら……気づかねえんじゃねえ? 俺たちと違って」

「おい、貴桐……お前ね……それはどうかと思うけど……」

 俺は、企みを含んだ笑みを見せて言った。


「『彼』のフリっていうのも悪くないんじゃないか?」

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