表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/168

第2話 裏側

「死人を見送るのとおんなじだ」


 俺は、その言葉を残して部屋を出たが、扉を閉めるとその近くで侯和を待った。

 あの時の悔しさを思えば、このままでいいはずがないと思う事だろう。

 侯和と初めて会った時……あいつは問題のないペイシェントをそれ以上、中に進ませる事なく帰していた。

 僅かであっても、助けられる事が出来るなら……そう願っていたのだから。

 その思いはずっと持ったままだろう……? 侯和。

 俺だって、そんなお前を見たから、共に行動する事が出来たんだ。


「貴桐っ……!」


 ……ほら……な。

 呼び声と共に侯和は扉を大きく開けて、飛び出して来た。

 俺は、待っていたとばかりに、腕を組みながらニヤリと笑みを見せた。

「貴桐……」

 扉を開けて直ぐに俺の姿が目に入った事で、侯和は参ったと苦笑した。

 俺は、侯和の肩をポンと軽く叩いて言った。


「探し求めて手に入れろよ、侯和。お前らの求める、本物の呪術医ってヤツを俺にも見せてくれ」


 侯和は、俺の両肩に手を置くと、頭を垂れて分かったと呟いた。

 顔を伏せたまま、何度も小さく同じ言葉を繰り返した侯和。

 俺の肩に置かれた侯和の手の震えが治るまで、俺は動かずにそのままでいた。


『……君が選択するまでの少しの間……忘れかけていた待望に苦痛を緩和しているよ』


 初めて侯和に会った時に言っていたあの言葉。

 ……その苦痛を緩和するのには、お前自身、その待望を持ち続けていろよ……侯和。



「……気づいている事でしょうね」

 一夜と共に過ごすようになって、数日経った。

 咲耶が気掛かりになっているのも、当然の事だ。

 俺と咲耶は、敷地内にある大きな木の前で話していた。

 ……ジジイの部屋から見えた宿木と同じくらいの大きさの木が、なんだか懐かしく思えた。


「……あいつは俺たちを試しているだけだ。俺たちが塔から出たと分かったなら、あいつにとって必要なものに近づいたという事になる」

「それなら……僕たちはやはり……」

 咲耶は、それ以上、先の言葉を言う事を躊躇した。

 俺は、咲耶が何を言おうと思ったのか、分かっている。

「……いいんだ、咲耶。それで」

 俺は、木を見上げていた目を咲耶に向ける。

「貴桐さん……」

「決めただろう?」

「……そうですね」

 心配そうな顔を見せる咲耶に、俺は笑みを見せて言った。


「望まないものを掴む……と、決めただろう」

「……はい」

「それならこうなる事も理解出来るだろう? 望むものを掴む者の裏側には、望まないものを掴む者がいると……」

「勿論、それは分かっています。僕は、それでもいいと言ったのですから」

 俺は、真っ直ぐに向けられる咲耶の目線を受け止めて、頷いた。

「だが……」

 目の前に立つ、大きな木へと視線を戻して、俺は言葉を続けた。


 その言葉を言った後に俺は、クスリと笑みを漏らした。

 俺の思惑を咲耶は、理解している。

「やっぱり……貴桐さんは、貴桐さんのままですね」

 咲耶は、そう答えて笑った。


 だが……。

 その後に続けた俺の言葉は、あの書物を開いた時から持っていたものだ。


『望む事、全て、思いのままに』


 ジジイが何故、あの書物にわざわざ書き込んだのか。

 あの時から、そう言葉が浮かんだ事だが。


 ……最初から言っておけよ、なんて思ったら。


 辿り着いてやるからなって。

 つい、笑みが漏れた。


「だが……それは、一瞬で逆転する」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ