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第30話 逃亡

「白くなってるよ……髪」


 そう聞いても一夜は、然程(さほど)驚いてはいないようだった。

 そうですかと小さく呟いて、納得しているようだった。

 俺に何度も視線を向けても、その記憶はまだ遠い。

「お前……気づいていないんだな?」

 俺のその言葉にも、気に留める事はなかったようだ。

「まあいいか。今はそれよりも、ここを出る方が先だな」

「貴桐……どうする気だ?」

 侯和の問いに、ニヤリと笑みを返して答える。

「派手に落雷させるぞ。いいか、ここで俺たちは『死んだ』……どうだ? 明確な理由だろう? 元々俺は、そのつもりで来たんだからな」

 俺の言葉に侯和は、驚いているようだった。

 まあ……俺の呪術は見せた事などなかったからな……どんなものかも想像がつかないだろう。


 俺は、まだ自分で立ち上がる事の出来ない一夜に手を貸し、立ち上がらせた。

「侯和、ボーッとしてないで手を貸せよ。一夜を抱えていて貰わねえと、俺の手が開かねえ」

 侯和に一夜を預けると、空間を切るように指を滑らせる。

 地を蹴り、口遊む呪文。

 俺に従うように目に見えないものが動きを見せ始める。

 足で描いた円から光が弾け、空へと伸びる。

 その光が稲光を作って、空を這うと、ゴロゴロと雷鳴が轟き始めた。


「さあ、行くぞ」

 一夜を侯和と二人で抱え、俺たちはその場を後にした。

 山から大分距離を取ったところで、地を響かせる程の雷鳴と共に、山に落雷した。

 侯和と一夜は、その音と燃え上がる山を振り返り、驚きを見せていた。

「お前に隠し事って、出来ない訳か?」

 侯和は、そう言って苦笑した。

「気を見れば分かる」

「気……か……お前も信じてるって事か」

「信じるも信じないも、俺は元々なかったものを引き入れたからな。それが事実ってだけだ」

「引き入れたって……なんだ?」

「言うならば『呪い』ってヤツ。それで俺の知識体系は出来ている。まあ、それは一つの『契約』だ」

「契約……? 貴桐……お前……」

「ああ。どうやら柯上 圭は、知っていたようだな」

 圭の名を出すと、一夜の表情は直ぐに反応を見せる。

 俺は、一夜の胸元の服を引っ張った。

「思った通りだ。やっぱりあった『印』」

「印……? あ……」

 自分の胸元に印を見つけた一夜は、納得を示していた。

 おそらく、その話を聞かされていただろう。

「成程ねえ……『望む事、全て、思いのまま』か。侯和?」

「……ああ」

 侯和は、少し気まずそうにも頷いた。

「『彼』は、圭が呼び出した『精霊』だ。人ならざるものの力を得るには『契約』が必要だ。その契約は自身の中にあるもので結ぶ」

 俺の言葉に興味を示した侯和は、色々と訊き始めたが、俺は侯和に訊かれた事だけを答えた。

 何を使って契約したか、一夜と『彼』が何故似ているのか。


「……これから……どうするんですか」

 逃げるように塔を出る事になった俺たちを、一夜は心配しているようだった。

「うーん……そうだな……」

 侯和にしても突然の事だ。やはり、この先の事まで考えが直ぐには浮かばないようだ。

 悩みながら俺に答えを求めるように目線を向けた。

 俺は、侯和の視線を受け止めた後、一夜へと視線を変えて言う。

「お前、家、何処?」

「え……僕の……家……ですか……?」

 困惑する一夜の返答を待たずに、俺は答える。

「じゃ、行こうか。お前の家。俺たち、行くところねえし。まさか、見捨てるとか言わねえよな?」

 一夜は呆気にとられていたが、分かりましたと頷いた。

 その言葉を聞くと俺は、そっと一夜の頭に手を置いた。

 一夜が倒れるように、ふらりと俺に体を預ける。

「……貴桐……お前、一夜に……何を……」

「聞かせる気か? 残酷過ぎる」

 俺の言葉に侯和は、そっと目を伏せた。

 元々、自分の中にあったものと接触した一夜だ。

 それだけでもこの先、どうなるのか相当な不安を抱えているはずだ。

 ましてや……。

「今はまだ…… 一夜に聞かせたくはない。それとも侯和……何も分からないままの一夜に、全てを背負わせる気じゃないだろうな? ただでさえ、心臓二つ抱えてんだ。死ぬぞ」

 侯和は、ある程度の事を知っている。

 宿りが現れたと安心して、もう限界だと終わりになんかさせねえからな……侯和。

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