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第5話 呪術医

 差綺は自由で気ままな奴だ。

 俺にはそれが面白かった。

 物怖じなど一切せず、興味を示したものには夢中になり、興味を示さないものには全く見向きもしない。

 俺より三つ年下でも、呪術師としての能力は驚く程、高いものだった。

 それが分かったのは、差綺が俺に会わせたいと連れて来た少年を見たからだ。

 その少年を見て直ぐに気がついた。


 ……感染……か。


 差綺の首には蜘蛛の形をした痣のような印があった。そして右腕には蜘蛛の巣の印。

 その蜘蛛の巣の印と同じものが、その少年の首元にもあったからだ。

 同じ媒体に繋がれている。それは明らかに分かる事だった。

丹敷(にしき)。貴桐さんだよ」

 表情を作る事が下手なのか、人見知りなのか、無愛想な奴だった。

 それでも小さく頭を下げて、自分的には挨拶出来たようだ。

 差綺も丹敷も、俺と咲耶について来る事が多くなった。

 呪術師の力を頼って来る者たちの家に行く事も増え、その(まじな)いを共に行う事もあった。

 そんな中で一人の男が、丹敷に声を掛けた。

「君……大丈夫なのか……?」

 丹敷を見る目は、驚きを見せていた。

 俺は、その様子に眉を顰めた。

 その男は、白衣を着ていた。

 ……医術師……か。それだけじゃないか……。

 丹敷は無愛想な態度で、その男に答える。

「……もう……いいじゃないか。出来る限りの事はしたんだろ」

 丹敷のその言葉に男は、申し訳なさそうに顔を歪めて俯いた。

「……そうか……そうだな……だけど……」

「何故、なんて訊かないで欲しい。それを聞いたら、あんたは必要以上のものを手に入れたくなる。それはあんたを追い詰める事になるんだ。手を出さない方がいい」

 ……成程な。

 俺は、差綺にちらりと目を動かした。

 差綺は、素知らぬ顔で指先に絡めた糸を弄んでいる。

 その後に男に言った丹敷の言葉が、俺に不穏を感じさせた。


「『呪術医』なんて、所詮呪術師には及ばない」


 そう……呪術医。俺たちからしてみれば、医術のみならず、呪術を使って病を治すという呪術医の使う呪術は、それ程、力のあるものだとは思えなかった。

 ただ単に錯覚を起こさせているようにも思えたからだ。

 全ての呪術医がそうだとは言えないのかもしれないが。

 正しいとか、間違っているとか分ける事も、医術と呪術を使う呪術医が、呪術のみを使う呪術師に、それ程、大きく干渉してくる事もなかった事もあり、気に留める事もなかった。

 正直、病が治ったとしても、治ったのは、医術であったのか、呪術であったのかは、はっきりと分ける事が出来ない。

 丹敷の話を聞いている限り、丹敷は病を抱え、この呪術医には治せなかったのだろう。医術でも、呪術でも、だ。

 そもそも、呪術医という者が何処まで呪術に頼っていたかは、疑問が残るところだ。

 そして……。


「なに? 貴桐さん」

「いや……」

 差綺は、クスリと笑う。

 その意味ありげな笑みが何を伝えているかは分かった。

 差綺の呪術は、人体にもかなりの影響を与える事が出来る……という事だ。

 俺が気づいた、感染……。

 差綺が持っているものも、毒の一つだ。

 その毒を丹敷に分け与えるように感染させた。


 後に丹敷が俺に言った事は、やはり俺が思っていた事と一致した。

 自分の体は病に侵されていて、血が毒を作っていたと。

 正常な血液が作られず、体をどんどん蝕んでいったという。それを差綺の毒を分け与えて貰った事で、今の自分がいると言った。

 毒を以て毒を制す……か。


「行くぞ」

 俺は、男から離れさせるように、丹敷たちに声を掛けた。


 呪術医の目が差綺に向いたのを、俺は見逃していなかった。


 その目線に俺は、嫌な予感がしてならなかった。

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