第24話 能力
「似てんな、お前……本人じゃないよな……?」
俺が一夜に真っ直ぐに向ける目線から、一夜は目線を逸らした。
……困惑しているか。
だが……それも次期に目にする事だろう。
俺は、一夜が目線を外した瞬間に、咲耶に眴をする。咲耶は、小さく頷きを見せた。
さて……始めるとするか。
小さくも指を動かし、地面をそっとつま先で蹴る。
その瞬間に、ざわざわと木々を揺らして、土埃が舞い上がる程の強い風が吹き抜けた。
そして、空が翳り始めると、ポツリポツリと雨が降り出す。
急に天候が変わった事に不穏を感じたのか、一夜は空を見上げた。
侯和もそれは同じだった。窺うように辺りを見回す。
侯和の不安を煽るように、俺は警戒しろとばかりに名を呼ぶ。
「コウ……」
「ああ……逆なんじゃねえか、タカ」
自分で言うのも何だか、白々しいが、まあこれも一つの小細工だ。
「荒らす方って訳か……」
俺の言葉を表すように、雨は粒を増し、風は強くなり、バキバキと大きな音を立てて木々を倒した。
……正直、木を倒すのは抵抗あったが、来贅の目を欺くにもやるしかない。
奴は、俺が木を倒す事など出来ないだろうと思っているだろうからな……。
倒れる木に咲耶と等為、可鞍が巻き込まれる。
……上手くやってくれよ、咲耶。
咲耶は、防御を得意としている。大事に至る事はないだろう。
轟く雷鳴が地を揺らして、激しさを増していく。
今にも落雷しそうな危険な状況に、一夜が動いた。
木の下敷きになった咲耶たちの元へと走って行く。
「おいっ……! お前……! やめろっ……! もう……」
俺は、一夜を止めたが、一夜は足を止める事はなかった。
……ここに辿り着くまでの疲労は相当なはずだ。
それでも行くか……。
俺は、更に一夜に声を掛ける。
「危険だから行くなって……! それに、もう無理だ……!」
そう言いながら、俺は侯和の様子を気にしていた。
……どう出る……侯和。
侯和は何も言わずに一夜の動きを見ていた。
……止めないか。やはり、一夜の存在を確かめるようだな。
本物の『宿』かどうかを。
雷鳴が響く中でも、聞こえるように声を張り上げる一夜。
「じゃあ……! 何の為に塔はあるんだよっ……! 目の前の命さえ、救う事が出来ないのかっ……! 僕はっ……」
その言葉に、侯和はハッとした顔を見せた。
「これでも呪術医なんだっ……!」
……強く……なったな。
だが……。
一夜の体を纏うように蒼い光が放たれた。
俺が使った力に、一夜が同調するようだった。
……共感……した。
激しく降る雨。眩しい程に光る稲妻。
一夜は、そこに現れた力を利用し、咲耶たちを助けた。
……参ったな……。
まさかここまでとは……。
咲耶たちを助けた一夜に近づく。
「お前……その力……」
そう呟いた俺をゆっくりと振り向く一夜の目は、覚悟を決めた強い目を見せていた。
もうそこには、脆くも崩れそうだったあの姿は見えない。
あまりにもその目が、俺を睨むようにも見えたから。
思わず苦笑が漏れてしまったが。
……まあいい。
一夜は、俺を真っ直ぐに見たまま、怒りを見せるようにこう言った。
「僕は、塔には入りません。そう答えたらあなた方は、僕を排除しますか?」
背後から笑う声が聞こえた。
その言葉に反応を見せたのは、俺ではなく、侯和だった。