表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/168

第23話 接点

 侯和にしても、目の前に現れた一夜に何も感じなかったはずはない。

 そして一夜の存在が、どう繋がっていくかという事も、気づいたはずだ。

 それはその姿を見た時に、全てを察した事だろう。


「そこにあるものなら、見る事が出来るだろう。だが……そこにないものは、あったとは言えないよな……?」


 侯和の後を歩き始める一夜との会話は聞こえていたが、俺も咲耶もその会話に口を挟む事はなかった。


 目的の場所。それは自然環境を治癒するという呪術医が現れる場所だと噂されている森だ。

 勿論、それは俺の事ではあるが。

 姿など見つけられるはずがない。

 一夜を侯和に任せて、俺たちは先へと急ぐ。

「咲耶……仕掛けるぞ」

「はい。分かりました。等為、可鞍」

「「分かりました。行きます」」


 一夜は、思うようについて来れないようだ。

 それでも必死で追い掛けているが、距離が開いていく。

 侯和が一夜を気にして引き返していた。

 俺は、その様子をそっと窺う。

 登って来れない一夜に手を差し伸べる侯和。

 一夜は、戸惑っているようだった。

 まあ……塔の奴に手を借りるのは不本意だろうな……。

 侯和は、そんな一夜の態度に困った様子だったが、その距離感を縮める為なのか、その言葉を口にした。

 やはり……宿だと……気づいたか。


「お前……兄弟いる? 似てるんだよな。上階にいる奴に」


 侯和のその言葉を聞いた俺は、その後少し二人の様子を見ていた。

 侯和は、一夜を安心させる為か、自分の事を話し始めた。

 自分の家が呪術医の家系だった事。どんな思いで塔に入ったかなど、正直に話している。

 一夜が宿だと分かったなら、確かに距離を縮めたいところだろう。

 まあ……侯和に悪意はないだろうが、圭の事を気にしているなら、一夜との接点は願ってもない機会だ。

 侯和は、一夜と暫く話を続けていた。

 慣れない険しい道を歩き、疲れ切った一夜を休ませる為でもあったのだろうが。

 俺は、侯和の言葉を、一夜の様子も見ながら聞いていた。

 中々、登って来られないか。一夜の姿は見えなかった。

 侯和の声が続いた。


「お前だって分かってるだろ? 人の生死は塔の中にあるようなものだ。それを小さな力で覆せると思うか? 新たに作り上げようと動き出すブリコルールは、誰にも認められる事のない個人主義者だ。だけど、その個人主義者が作り出したものの中に、そこにないものがあったとすれば……奇跡って事なんだよ」

「……奇跡……」

 一夜が侯和の言葉を呟いた。

 その言葉に反応したのは、一夜自身も求め続けていたものだろう。

 侯和の話は、更に続く。

「ああ。目に見えない何かが動いてる……まあ、動かすと言った方が正しいな。個人主義者が信じている知識体系、それを明確に出来るのは本人だけだ。例えば、草や木、もちろん人もだが、それぞれに気が宿っていると信じ、その気を動かす……つまり、その気の正体は精霊」


 侯和の話に気を引かれたのは、一夜が口にした言葉で分かった。

 侯和になら聞けるだろうと、少し心を許したのだろう。

「あの……ここに来る前に、一緒に来ていた人たちが話していた町医者の息子って……」

 圭の事……心配だろうな。

 答えてやりたかったが、今の状態で答えたら、更にその心配は深くなる事だろう。

「おい、コウ! 何してんだよ? みんな待ってるぞ」

 俺は、一夜の問いを遮った。

 だが……。


 一夜。お前には、圭を守る為にやって貰わなくてはならない事がある。

 俺は、一夜に近づき、その顔をじっと見つめて言った。

 その言葉を言ったのは、侯和の思惑を独断で進めさせない為だ。侯和一人では、きっと手に負えなくなる。

 同じものを追い求めているのなら、ここで崩されたら振り出しだ。俺も接点を出しておくか。


「似てんな、お前……本人じゃないよな……?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ