第22話 変化
一夜の心配は俺たちの会話で大きくなった事だろう。
それでも俺は、侯和との会話をやめなかった。
「あはは。分離って言ったって、その選択肢を持っている奴は限られる。優遇はされるだろうが、結局は飼い犬だよ」
「俺たちより、断然マシだろ」
「まあな。だけど、高い能力があればある程、主様に繋がれる。それはいい意味でも悪い意味でもな」
「まあ、俺たちのような下っ端の方が、雑用は多いが課せられる負担は軽いってもんだ」
「ふん……そう本当に思っているのか? こうでもしなけりゃ、生きる場所さえありはしないと言われているようなもんだろ。力じゃ当然、敵わないんだからな。何事もなければ負担は軽いが、何か起これば直ぐに切り捨てられる。所詮、捨て駒だ」
そう俺が言った後に、一夜が行動を起こした。
「……それで……満足なんですか……」
俺たちの会話に一夜の声が割り込んだ。
「……なんだ……? お前……」
侯和が一夜を振り向いた。
一夜へと近づく侯和に、一夜の思いが大きく声をあげた。
「そんな場所に何を求められるって言うんですかっ……!」
…… 一夜。
「貴桐さん……」
咲耶は、そんな一夜の様子に少し驚いているようだった。
俺たちの前に来た時は、今にも崩れ落ちそうな程に、弱々しく、震える手を伸ばしても、掴む方法を知らなかった。
掴みたくても掴めないのは、壊れそうな程の心が、誰かがその手を掴んでくれる事を待っているだけだったからだ。
だが……今の一夜は、自分から掴みに来た。
「……ここは侯和に任せよう。俺たちは、例の場所についたら、行動を起こす」
「……はい。そうですね」
一夜の態度は明らかに、塔に対しての敵意を見せている。
それをはっきりと侯和にぶつけている一夜。
……随分と様子が変わったな。
差綺が言っていた言葉が、やはり気になるところだが……。
そうだとしたら……。
『僕の張った網に引っ掛かっちゃったみたいだね? それとも……自分から干渉してきたのかな?』
……出来ればそうであって欲しくはないが……。
まさか……圭も侯和も……元々、それを望んでいたのか……?
そうだとしたら一夜は……。
「ついて来るか?」
侯和は、反発するように食い下がる一夜にそう言った。
「え……?」
侯和の誘いに、一夜は驚いている。
それもそうだろう。
反論を訴えていても、侯和は腹を立てる事もなく、穏やかに笑みを見せながら、一夜を誘っている。
そんな態度を塔にいる奴がするとは、面食らった事だろう。
困惑を隠せないようだった。
「今から俺たちは、自然環境を治癒出来る呪術医……その存在を確かめに行く。それについて来るか?」
言葉を返せなくなった一夜に、侯和が再度、理由を述べて誘った。
一夜の目が、侯和の後ろに立つ、俺たちへと向いた。
迷っている事だろう。
もしかしたら、罠かもしれないと。
俺と咲耶は、一夜が向けた視線を受け止める。
そして俺たちは、ついて来いというように、笑みを見せて頷いた。
一夜の抱えた迷いを振り切るように、侯和が口を開く。
「そこにあるものなら、見る事が出来るだろう。だが……そこにないものは、あったとは言えないよな……?」
その言葉に俺の目が、侯和へと動いた。
……やはり信じていたか。
そしてその言葉に一夜が動かされる。
それは、一夜も信じているという事だった。